28:ウッドリザード
車が絶えず行き交う大通り。止まらないエンジン音、お互いにすれ違い進んでいく人々。ごくごく平凡な日常がそこにあった。
だが平和とは簡単に崩れる物。遠くから聞こえるクラクション音、法定速度を無視した車が走り追突する。
交通事故かと思えば違う。道路を爆走する怪物がいたのだ。
体格はバスより一回り大きいくらい。木製の巨大なトカゲが道行く車を蹴散らしながら走っていたのだ。
逃げる人々、遠巻きに眺めながら写真を撮る者。道路のど真ん中を走り回る魔物に皆注目していた。
正確にはその背中にしがみつく少女にだ。
蜘蛛の巣模様のくノ一衣装、赤い目のような髪飾り、百三十ちょいの小さな体格。そう、魔法少女みうみう。善継が魔法少女に変身した姿だ。
「くそっ! じっとしろっての!」
トカゲの魔物、ウッドリザードの背中にしがみつきながら、一歩一歩這い進んでいく。
暴れ回る樹木の怪物の背中に必死に張り付き騒音の中這う。木の表面、ゴツゴツとした皮に爪を引っ掛けながら首の辺りまでどうにか移動した。
そして左手を離し首から下げたコンパクト、クロスギアの表面を叩く。
『チャージ!』
身体中から沸き上がる力。沸騰するような高揚感を現すように背中から八本の脚が生える。ワイヤーを編み作り出した武器、善継の十八番だ。
「この距離なら届く。おとなしくしてもらうぞ!」
『必殺撃滅!』
脚が一斉にトカゲの首に突き刺さる。そこに骨も血管も無い、ただの木。突き刺した感触は酷く軽いものだ。
「!?!?!?」
だがウッドリザードは痛みは感じずとも攻撃された感覚は感じているようだ。驚き振り払おうと暴れ出す。
しかしそれよりも善継の方が早い。
突き刺した脚を捻り四方八方に広げ強引に首を粉砕した。木屑が飛び散り身体から離れた頭が宙を舞う。
そのままウッドリザードはバランスを崩し転倒。善継は飛び降りると脚をほどいた。彼……いや、この姿なら彼女と呼ぼう。彼女の隣には千切れた頭が落下。黒い塵となって霧散していく。
消えてく頭。しかし本体は横たわったままだ。まだ生きている。植物型の魔物は戦闘力は高くないが、その生命力は頭一つ抜けている。
「相変わらずのタフさだな。こんの!」
善継は走り出し、だらりと投げ出された四肢にワイヤーを巻き周囲の電柱やガードレールに繋いでいく。
そんな事をしていると傷口から枝が伸び、絡み合いながら融合していった。頭部を再生させているのだ。善継はそれを見ると急いで前足、後ろ足、尾と順々にワイヤーを繋ぎ拘束していく。
やがて枝が完全に交ざり合い新しい頭が形成される。真新しい頭は幹が軋むような不気味な鳴き声を響かせ立ち上がろうとした。だが……
「悪いがこっちの方が早い。じっとしてもらおうか」
がんじがらめにされて動けないのだ。四肢は何本もの電柱と繋げられ、どれだけ引こうとびくともしない。
怒りか絶望か、叫ぶウッドリザードの首に両手からワイヤーを飛ばし巻き付ける。手綱のように引きながら、頭を動かさないよう抑えつけた。
「さてと。後は……来たな」
空から聞こえる羽ばたき。日の光を遮る黒い影。蝙蝠の翼を広げ、一人の魔女が下りてくる。
「よ……みうみう、お待たせ」
魔法少女となった真理。魔法少女マリリンだ。彼女の両手にはおおきなビニール袋がある。
真理は袋を置き一息。拘束されたウッドリザードを見てうへぇと尻込みする。
「うわっ。こんなのよく捕まえたな」
「植物型魔物は生命力以外は大したことないからな。頭がとれても死なないし、俺みたいな物理攻撃しか無いヒーローはどっちかの再生力が尽きるまで泥試合をするしかなくなる」
「だからか。これ経費で落ちるから良いけど……」
真理はビニール袋からあるものを取り出す。それは除草剤だ。しかも大量に。
それを見たウッドリザードは更に暴れ出す。まるでそれが何なのかを理解しているようだ。
「おっと。とりあえず準備をしてくれ。俺が捕まえてる間にとどめを」
「おう」
真理は腰に下げた銃を組み合わせ弓の形にするとギアを叩く。
『チャージ!』
聞き慣れたギアの音声。右手には黒い粘液の矢が生成され、除草剤のボトルを貫くと中の薬品を吸い出す。
ストローで吸うように、ゴクリ、ゴクリと音を立ててる錯覚すら感じる。ボトルは凹み、一個、また一個と除草剤を矢に吸わせる。
真理の足下には空のボトルが散らばり、黒い矢はすっかり色褪せ半透明になっていた。
「お待たせ。ご注文の猛毒の矢完成!」
翼を広げた蝙蝠を模した弓に矢を番える。鋭い先端はしっかりと目の前の魔物を狙っていた。その命を奪う為に。
「!!!」
『必殺デストロイ!』
言葉にならない咆哮と同時に矢を放つ。大きく開いた口の中へと吸い寄せられるように、真理の矢はウッドリザードの体内へと消えていく。
矢を呑み込んだウッドリザードは目を白黒させ沈黙。暴れていた手足から力は抜け、よろよろと地に倒れ付した。口からは黒い塵が溢れ、表面は色褪せながら全身からも塵が吹き出していく。
倒したのだ。善継もそう判断しワイヤーを回収し始める。
「なあ、ユッキー呼んだ方が楽だったんじゃない? 植物には火でしょ」
「確かにダメージ効率は炎系の攻撃がいい。だけど、この大きさだと着火した状態で暴れて被害が拡大する」
「ああ、成る程」
真理は崩れていくウッドリザードの残骸を見る。この大きさの怪物が火だるまになれば激しく暴れるだろう。そうすれば街に引火する危険性がある。
「それに即死させるような威力だと……巻き込むだろ」
「そうだな」
二人の小さな少女達。魔物を退治し一息ついていた彼女達をシャッター音が取り囲む。




