27:記者会見
翌日の昼過ぎ。八ツ木家の居間に二人の人影がちゃぶ台を挟んでいた。善継と真理の二人。一緒にいるのはまだしも、八ツ木家にいるのは珍しい。
二人は真剣な面持ちでタブレットを凝視していた。
二葉製薬、警察の記者会見が放送されているのだ。先日の怪人騒ぎの説明を行っているのだ。
『この薬物を正式に勇者ドラッグと命名。また、服用者である怪人を《アディクショナー》と呼称し、犯罪者ヒーローと同様のものであると判断しました』
画面の中では玄徳と警察関係者が記者に囲まれている。カメラのフラッシュ音がうるさく、玄徳の声をかき消す。かなり耳障りな音だ。
それでも彼はしっかりとした声で周囲に語っている。
『この勇者ドラッグは大半を未知の物質で構成されており、服用による副作用や人体の影響は未知数です。二葉製薬の見解としては服用は危険と判断し、アディクショナーの早急な対応を提案します』
今まで見てきた柔らかい雰囲気とは違った態度に驚いている。いや、これが彼の本来の姿なのかもしれない。
そんな中、画面外から記者が質問を投げかける。
『牛松ジャーナルです。メタルスパイダーの処遇についてですが、特に処分が無いのは問題では?』
玄徳の頬が僅かに歪む。意地の悪い質問に苛立ちを見せたが、即座に表情を戻した。
『犯罪者ヒーローの対処法、変身道具の破壊は基本戦法です。彼の行動そのものに問題点はありません。更に無力化の際、怪我を負わせずに対処しました。彼自身に責任はありません』
まるで記者を威嚇するような目だ。
『むしろ証拠隠滅の為に爆弾を仕掛けるような卑劣な犯人に問題があるかと。……思いませんか?』
『……ありがとうございます』
玄徳に気圧され記者は押し黙る。文句は言わせない。そんな威圧感があった。
彼の言う通り、本来叩かれるべきはベルトと薬の製造元。しかし人々は目に見える存在に責任を押し付けたい、今叩く対象を求められている。
記者もサンドバッグが欲しいのだ。それを玄徳は見切っている。そしてそんな事はさせないと、彼の意思が見えた。
「社長には頭が上がらないな」
「部下を守るのも仕事だって。伯父さんよく言ってたよ」
「素敵な上司だ」
画面では玄徳が勇者ドラッグの危険性を訴えている。
『現在国内で四名のアディクショナーが発見されています。推測ですが全員が非候補者だと考えられます』
『以上の事を踏まえて、我々警察もヒーローと密接な連携をとり、事件解決へと努力したいと……』
警察の話を聞いていると善継はある事を思い出す。世間から叩かれているのは自分だけじゃない。あの女性もだ。
「そういやアディクショナーになった女性、後藤さんだっけ? 彼女……ってか家族か。いろいろと言われてるんだっけ?」
「まあな。会社が善継を擁護し始めてから矛先が向けられてるっぽい。家族の為に怪人になったのに、逆に傷つけるなんて……」
真理は深いため息をつく。
善継もネットを見て状況は知っている。何せ子供含め七人も殺害したのだ。彼女の夫、子供も共に世間から冷たい視線を向けられている。噂では上司の妻子も犠牲者になっているようだ。仕事も続けられないだろう。
「怖いもんだ、人間ってのは。だけどママ友間のイジメからこんな事になるとはな。勇者ドラッグって理性を壊す作用もあるんじゃないか?」
「どうだろうな。そもそも勇者に理性が希薄な連中が多い。あたしとしては勇者召還や精霊そのものに原因があるかもと思っているが。でも地球にそれを調べる方法は無い。それにあたしは……こう言うのもなんだが、被害者は自業自得だと思ってる」
善継は驚いて目を見開く。加害者ではなく被害者を非難するとは思ってもいなかった。
「自業自得?」
「ああ、イジメってのはそれだけ酷いんだよ。あいつらは人が傷つき苦しんでるのを楽しんでるんだ」
「それは……確かに悪いだろう。だけど命を奪っていい理由にはならない」
「なるね」
真理の目に暗い炎が点る。思い出す、彼女も被害にあった事があるのだと。善継には知らない苦しみがあったのだろう。
「殺されるからだ。イジメは自分の手を汚さず人を殺せる。自殺するように徹底的に苦しめ誘導するんだ。善継はそれは悪ではないって言うのか?」
「…………いや」
声が震え、目に涙を浮かべる。トラウマを思い出したのだろう。
世の中は理不尽だ。人を蔑み苦しめた者でも、相手から殺されれば善悪は入れ替わってしまう。
真理はタブレットをちゃぶ台に置くと、深呼吸をし自分を落ち着かせる。
「ごめん、話を戻そう。今は事件の方だ。あたしの個人的な感情を出すのは良くない」
「ああ。あんな危険な……武器が出回ているのは問題だ。ただでさえ勇者って特大の核兵器がうろちょろしてるのに、勇者ドラッグって爆弾までばらまかれてる」
「あんなのがもっと増えたら大問題だよ。怪人軍団対ヒーローチームか。見栄えは良いけど、これこそ軍用のいいデータになる。それが目的か?」
二人は唸るも答えは出ない。不明瞭な点が多いからだ。
そうしていると善継のスマホが鳴る。見ると会社からだ。
「はい、八ツ木です。……はい…………ウッドリザードですね。了解、すぐに駆除します」
電話を切り立ち上がる。そして背筋を伸ばし身体をほぐした。
「真理、魔物だ」
「おっけ。少しイライラしてたとこだ、暴れさせてもらうぞ」
「それよりも真理には頼みたい事がある。今回は少し面倒な魔物だからな」
「頼み?」




