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24:アンプル

 数秒の後、部屋の扉がゆっくりと開く。扉を恐る恐る開く真理の姿があった。


「失礼します。っと、善継もいたのか」


「ああ」


「いろいろと大変だな。ここぞとばかりにアンチやヒーロー反対派、魔物の保護を掲げる動物愛護団体が叩いてるじゃないか」


「そこはうちの法務部に任せなさい。八ツ木さんにはまだまだ頑張ってもらわなければならないからね」


 玄徳も笑っている。真理が来てふと空気が軽くなったような気がした。軽口も嫌な気はしない。


「さて、雑談はここまでにしましょう。真理、報告をおねがいします」


「あ、うん。伯父さんの方とも繋げるね」


 真理は持っていたタブレットを操作する。玄徳も自分のタブレットをみながら、善継は真理の後ろから覗き込む。


「まずはベルトの方からだな。これ殆どぶっ壊れててわからない部分が多い。だけどここ」


 真理が出したのはとれたバルブの写真。善継が壊したパーツだ。


「ここの根本の辺りは残ってたと言うか、破片だけでも解るものでね。スピリットギアのレバーと同じだったんだ。寧ろ同一のパーツを使ってる」


「同じか……」


 このパーツはギアにとって重要な場所。メダルの力を瞬間的に活性化し、変身や攻撃の起点になる装置だ。世間では変身レバーやら必殺技発動装置なんて呼ばれている。


「それとベルトに針があったな。たぶん薬を注射する用だ。ただ他は粉々で調べられなかった。ぶっちゃけ想像していたとこしかわからなかったよ」


「予測が正しかっただけでも収穫です。助かったよ真理」


「う、うん」


 少しばかり嬉しそうに頬を緩ませる。


「しっかし相手も嫌らしいな。こっちが想定している情報だけ見せて、他は徹底的に隠滅する。……使用者もろとも」


 善継が奥歯を噛み締める。苛立たしいものだ。用意周到かつ人の心の闇に付け入る狡猾さ。醜悪と言えるレベルだろう。

 だがまだ手詰まりではない。


「だが八ツ木さんが回収したアンプルもあります。そちらのデータは?」


「あー……あるんだけど、その」


 困り顔で頭を掻く。チラチラと玄徳の方に視線を送り、言いにくそうに縮こまった。


「あたし化学はいまいちで、書いてある事の半分くらいしかわかんないんだ」


「……わかった。私が説明しよう」


「ごめんなさい伯父さん」


「良いさ。さて……」


 玄徳が資料に目を通す。一列づつ文字の羅列を読む度に眉間にシワが寄せられていく。

 何が書いてあるのか、後ろから資料を見ている善継にはちんぷんかんぷんだが、彼はその内容を理解している。


「成る程な」


「社長、結果は?」


「…………」


 善継と真理は息を飲む。


「……ベルトと同じように殆どわからないみたいですね」


 降参だと言っているように手を上げ大笑い。椅子に寄りかかりタブレットを置く。


「いやー、うちの研究部は優秀だと自負していますが、こうなると自信無くします。なんなんですか、この組成の七十三パーセントが未知の物質って。宇宙人の私物ですか?」


「社長?」


「ああすみません。つい面白くなってしまいまして」


 笑う玄徳と違い真理はふと真剣な表情で資料を見ている。何か引っ掛かっているかのように。


「伯父さん。七十三パーセントが未知物質なんだよね?」


「ええ」


「じゃあ残りの二十七は? わかってるんだよね」


「……勿論。未知の物質の情報が面白くて。まっ、この薬の性質を想像するくらいの収穫はありましたよ」


 タブレットをいじりながら頬杖をつく。ニヤリと笑う口元からは先程と違い余裕の色が見えた。


「まず精霊の残滓と魔力。ここは当たり前ですね。ヒーローと同じなら精霊の力が必要。ですがこれは精霊本体を利用しているメダルと違い、精霊を……そうですね、精霊の一部のようにも見えます」


 これは善継も想像していた。だが精霊そのものを使っているのではないのが気になる。

 そんな事が可能なのだろうか。いや、実際可能なのだ。学の無い彼には理解できない小難しい仕組みがあるのだろう。


「そして……他に見つかったのが、デオキシリボース、リン酸、アデニン、グアニン、シトシン、チミン……」


 難しいなんてものじゃない。まるで呪文のような単語の羅列に目眩がしそうだった。

 何か物質の名前なのはわかるが善継の頭では意味が全く理解できていない。

 しかし真理は違う。玄徳の言葉に目の色が変わっていく。


「……伯父さん、それ本当?」


「ああ。間違いない」


「マジか……」


 頭を抱え項垂れる。そして困ったように考え込んでしまった。


「真理、何かヤバいものなのか? 例えば毒とか」


「違う。今のはDNAを構成する物質だ」


「更にこの薬から見つかったDNA、人間のでしたよ」


 一瞬、時が止まる。デジャブのような、前にもあったような感覚。そうだ、あの怪人の血を調べてもらった時と同じだ。

 しかし今回はそれを超えている。

 有り得ないからだ。


「マジ……ですか?」


「マジです。しかも…………流石うちの社員、優秀ですね。もう個人特定までしてます。ああ、やっぱり半年前に粛清された勇者で、毒物を中心とした水魔法のエキスパートです」


 玄徳は笑っている。しかしそれは心から楽しんでいる笑顔ではない。暗く思い詰めるような笑みだ。


「となると先日のメールも納得です」


 メールの一言で真理も感づく。


「まさか由紀の血が? これを作る材料として買うって?」


「ほぼ確実に。これは勇者の血液から作っています。そうですね……あえて名付けるなら、()()()()()()ですかね」

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