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23:責任の在りか

 最近騒ぎの怪人って、中身人間らしいぜ

 しかも候補じゃないやつだとか

 この前ママ友からいじめられてた主婦がなったんだって

 そいつメタルスパイダーが殺したって聞いたぞ

 まじかよ ファン辞めるわ

 てか魔法少女戦隊から出ていけっての






 数日後の二葉製薬の社長室。パソコンが並べられた大きな机に来客用のソファ。壁にはポスターが何枚も貼られ、中にはテレビでもよく見かける芸能人たちが笑顔を向けている。

 席には玄徳が。そして彼と向かい合うように善継が立っていた。


「すみません八ツ木さん。中々会える時間が作れなくて」


「いえ。寧ろ私の責任です」


 申し訳無さそうに視線を伏せる。だが玄徳は穏やかに反論した。


「あれは不可抗力です。八ツ木さんに責任はありません。これは会社としての見解でもあります」


「しかし……」


「それに同席していた警察も同意見です。八ツ木さんを叩いているのは一部の声が大きい連中だけですよ」


 そう、先日の怪人騒ぎにて変身者の女性が死亡してしまう事故があった。

 相手は犯罪者ヒーローと同等の存在。善継はセオリー通り変身アイテムの破壊による無力化を試みた。結果は見事変身者に傷を負わさず成功して見せたのだが、ベルトが自爆し女性が死亡してしまう事故が発生してしまったのだ。

 その事で世間では善継、メタルスパイダーへのバッシングでネットが炎上している。


「ですが予想すべきでした。ああいった物を作る人間が証拠隠蔽の為に仕掛ける事も……情けないです」


「八ツ木さん」


 諌める少しだけ強い口調になる。


「本当の悪はあのベルトを作った人物です。そして八ツ木さんが責任を感じるなら警察へ協力し黒幕を捕まえる事ですよ」


「……はい」


 玄徳の言っている事は尤もだ。一番の原因は女性にアンプルとベルトを渡した者にある。


「それに……あなたを攻撃している者の言葉に耳を傾けてはいけません。人はほんの小さな隙をつつきます。矛先はヒーローだけでなく警察もだ。どんな悪人であろうと銃弾を当てれば非難し、逆に撃たなくても逃がせば批判。過剰な完璧を求める」


「そうですね。重箱の隅をつつくようです」


「だが完璧な人間なんて存在しない。私も、そして八ツ木さんも。誰も全ての人に受け入れられるなんて有り得ない」


 玄徳は席を立ち善継の隣まで歩み寄る。そして軽く肩に手を置いた。


「そんなのは……そうだ、それこそ化け物だ。私達は化け物ではない。不完全だからこその人間です」


「……たしかに」


 少しだけ気が楽になる。


「ですが、炎上しているのは八ツ木さんだけではありません。これを」


 机の上に置かれたタブレットを渡される。画面にはあの女性の写真が掲載されたネット記事が映されている。


「これは?」


「後藤さんと言うらしい。どっかから洩れたらしく、彼女も誹謗中傷の的です。なんせ母子含め七人も殺害、彼女の夫と子も肩身が狭いでしょう」


 深いため息。


「人間は社会性の動物です。他者より上に立とうとする、他者を下に見ようとする。それがイジメの形になり……今は勇者の選定基準だ」


「もしかしたら彼女も?」


「ええ。ただ……」


「ただ?」


 玄徳の眉間にしわが寄せられる。


「彼女の背景が奇妙なんです。夫が一番立場が低かった事によりママ友から馬鹿にされていたようで。しかし彼女は()()()()()()()()


「候補じゃない? じゃああれはギアではないって事ですか?」


 おかしい。候補でない者が精霊の力を使うなんて事は不可能だ。善継の使っているスピリットギアも候補でない人間には使えない。

 なのに候補ではない人間がどうやってあんなヒーローのような力を?


「私にもわかりません。ただあのベルトは候補でない者……だけかはわかりませんが、少なくとも候補以外が使える道具です。世間も少しずつそれを認知している」


「……私もニュースで見ました。例の怪人事件が昨日も発生したと」


「はい。大阪で現金輸送車が襲撃されました」


 タブレットを善継から受け取り操作する。画面が変わり黒い騎士のような怪人が車の上に乗っている写真が出た。右手から伸びる紫色の炎をまとった黒い剣、そして共通なのだろう笑顔の仮面とベルト。あの怪人と同系統の者だ。


「候補をイジメては勇者となり復讐される。そんな噂が広まった今や、逆に候補でない人々が蔑まれている。そんな中候補ではない者にヒーローのような力を与える道具……」


「誰もが欲しがるでしょうね」


 玄徳はタブレットを机に置いた。


「八ツ木さん。私も高校生の頃イジメられてたんですよ」


「社長が?」


「ええ。私は見ての通りこんなチビですからね。ずっと馬鹿にされてきましたよ」


 懐かしむように笑っている。自嘲と苦笑が入り交じった複雑そうな笑いだ。


「全くモテませんでしたし、正直学生時代は苦痛でした。しかし私は勉学に八つ当たりする事にしたんですよ。こいつらよりも偉くなってやるって」


「その努力の賜物が今なんですね」


「そうです。同窓会の時も最高でした。私を馬鹿にしていた連中の年収の百倍ですからね。女性陣も悔しそうにしていました。今さら玉の輿に乗ろうとする者もいて、笑えますよ」


 喉を鳴らし思い出し笑いをする。しかしすぐに笑うのを止めてしまった。


「ですが全ての人が私のようになれる訳ではない。中には冴えないままの人生を送る人も、寧ろ蔑む側が成功していく事もある。そしてイジメに立ち向かえない者も」


「そんな人々の心の隙に力と言う餌を与え利用する。そして力に溺れた者は……」


「勇者召還。私は大嫌いです。異世界にこちらから行けるのなら核ミサイルを撃ち込んでやりたいくらいだ」


 善継は驚いて言葉を失う。まさか玄徳がこんな過激な発言をするとは思ってもいなかったからだ。


「意外ですね社長。ただ外ではその発言はまずいかと」


「勿論。八ツ木さんの前だからですよ。……全く。力で釣ったり、善意につけこんだりと異世界人は地球を何だと思っているんだか」


「ハハハ……」


 善継も同意だが口には出さない。

 そもそも勇者召還さえ無ければ地球に身勝手な勇者が現れる事も、魔物が地球に逃げてくる事も無かった。そのせいか異世界人を嫌う者はたくさんいる。

 勇者になりたい。そう思っている者もいるが。

 そんな空気を断つように机に備え付けられた電話が鳴る。


「私だ」


 玄徳がスピーカーのボタンを押す。


『秘書課です。黒井真理さんがお見えになりました』


「通せ」


 スピーカーを切り小さく微笑む。


「さて、お仕事の時間です。先日八ツ木さんが回収したアンプルの中身とベルトの破片、その解析が終わったようです」


 善継の顔つきも変わる。ついに事件が進展するのか。そんな期待を抱きながら。

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