21:二人目の怪人
のどかな団地の一角。いつもなら子供達が元気よく走り回る古ぼけた公園で事件は発生した。
聞こえるのは子供の泣き声。そして警察の悲痛な雄叫びだ。
「ママ! ママァ!」
「早く子供を保護しろ! あいつを近づけるな!」
「ですがあの化け物が!」
この日本で滅多に聞く事のない破裂音。銃声が響き渡る。しかしどれだけ撃とうと、それは倒れはしなかった。
三人警察とスーツ姿の刑事が相対するのは笑顔を逆さまにした仮面、バルブとアンプルのついたベルトをした異形の怪物。
例えるならピンクのクラゲ女だ。ピンク色のブヨブヨとした水死体のような身体と触手状の髪。ベチャベチャと湿った足音を鳴らしながら、倒れた母親にすがり泣き叫ぶ幼い子供に手を伸ばす。
次はお前だ。そう告げるように。
彼女の足下には何人も倒れている。女性と子供達、その誰もが緑色の肌に変色し白目を剥いていた。
「やめろ!」
子供を守ろうと警官が飛び出す。怪人はそれに気づくと触手が蛇のように動き警官へと向けた。
「邪魔をするな」
触手は警官を捕らえ、彼の口に突っ込まれる。触手は脈打ちながら何かを警官の体内に流し込む。
強引に何かを飲まされると警官の顔色が変化していく。人間にはありえない緑色の肌へと。
「あう……」
「武井!」
刑事が叫ぶも投げ捨てられた警官は力無く倒れる。もの言わぬ肉塊となった警官は鼻や口、身体のあらゆる穴から緑色の液体を流しながら痙攣している。
怪人は警官を一瞥すると子供の方を向いた。
「次はお前だ。あの女の子だ、将来私の隼をイジメるに決まってる。今の内に死ね」
何が起きているのか理解できずにいると、触手がゆっくりと動き出す。警官の銃弾も柔らかい外皮に沈み貫通しない。
ダメだ、誰もがそう思った瞬間。
「ハッ!」
風を切り一つの人影が怪人を蹴り飛ばす。衝撃が柔らかい身体を波打ち、ブヨブヨと気色悪い動きをしながら地面を転がる。吉継が到着したのだ。
「魔法少女戦隊オルタナティブです。依頼により無力化作業を開始します。……くそっ。遅れたか」
周囲には倒れた親子達と警官。被害を前もって止められなかったのが悔やまれる。いや、そもそも出現してから連絡があったのだ。未然に防ぐなんて不可能だ。
そして今は後悔している場合じゃない。立ち上がった怪人は善継を次のターゲットにした。
「ヒーロー……お前も邪魔をするか!」
「邪魔をするに決まってんだろ。刑事さん、俺が引き付けている間にこの子を」
「頼む。あとあいつは触手が武器だ。おそらく毒の類を出して攻撃する」
「了解」
アイコンタクトをし拳を握る。深呼吸をし相手の動きを観察する。
足に感じる違和感、怪人の表皮に埋まった弾丸。高い物理耐性があるのだろう。本来なら由紀に凍らさせて砕くか、直接燃やすのが一番手っ取り早い。
だがそれではおそらく中にいる変身者も傷つけてしまう。由紀の攻撃力なら即死だ。
しかし善継の能力は物理特化。与えられるダメージは微々たるものだろう。だがあれがヒーローと似た存在なら一つだけ方法がある。
変身道具の破壊。犯罪者ヒーローを無力化するのに最適な手段として有名だ。
ヒーローのギアは腕にあり、最悪腕を切断するのも手だろう。だが……
(腹……か。下手に威力を出せば腹ごと大怪我をさせてしまう。これ作った奴、そこも考えていたのか?)
だとすればかなり狡猾で性格の悪い奴だろう。真理とは違う。
善継はメダルを取り出しギアにセットする。
『Set!』
「うがぁぁぁ!!!」
善継の頭上に赤い六芒星の魔法陣が描かれ、そこから紅白に色分けされた球体が現れのと同時に怪人が走り出す。
『Something is coming out! What is it?』
「ガチャ!」
『Pon!』
走りながら触手を向けるよりも一歩早くレバーを回すカプセルが善継を飲み込む。触手の先端から発射された毒液はカプセルに弾かれ善継には届かない。
カプセルが消えるのを狙い掴みかかろうとするも、中から現れた銀色の蜘蛛男が腕をいなしカウンターパンチを直撃させる。
『I'm a predator』
更に顎、胸、溝尾と連撃を命中させ、締めに怪人の頭を跳び回し蹴りで突飛ばした。
「メタルスパイダー見参。お前の罪、しっかり償ってもらうぞ!」




