17:女三人集まれば(後)
ロックドラゴン。その事件を忘れはしない。二人のデビュー戦だからだ。
同じ学校に通う勇者が先導した事件、忘れはしない。
「あの近くにいたの?」
「いいえ。正確には私はロックドラゴンの進行方向、その先にいました」
真理はその一言で察する。善継の言っていた話を思い出したからだ。
「まさか勇者達が集まったお嬢様学校にか?」
「はい」
笑顔で頷く明美の顔が不気味だった。笑っていながらも心の底では笑っていない。
矛盾……と言うよりも取り繕っているのだろう。温和な笑みの仮面を見せ、その裏側も隠す素振りを見せない。
二人からすれば初めてみるタイプだ。伯父の玄徳は本心を徹底的に隠し、善継は隠せないタイプだ。そのどちらでもなく隠す気が無い。
「いやぁ、本当にユッキーさんには感謝しています。困ったもので、私達のヒモになろうと画策していまして」
「下賤な連中ですな」
青山もうんうんと頷く。
「ですがユッキーさんが先に退治していただいたおかげで、本当に愉快な光景が見られました。格好つけられず悔しがっていました」
「愉快か。そういえばその様子がネットに上げられていたな」
真理もその動画を見たが、感じたのは愉快ではなく軽蔑だ。多くの人々が被害にあい、街が壊れていく中で自分の事しか考えていない。思い出すだけで気持ち悪い。
「ええ。他の勇者はユッキーさんを見習うべきです」
「別に。私は仕事をしただけ」
「そういう所、私は好きですよ。自己顕示欲の塊と違って、非常に好印象です」
意外そうに由紀は彼女を見る。ほぼ初対面の人間にそんな事を言われたのは初めてだ。だいたいは勇者である事に畏怖する。
勿論この好意をそのまま鵜呑みにするのは危ない。由紀を利用しようとしているかもしれないからだ。
この空気をぶった切るように真理は話し掛ける。
「……んで、結局なんでうちに入りたいんだ? ヒーロー事務所なんていくらでもあるだろ。それにこんな高い車に乗るお嬢様だ。無理に働かなくてもいいんじゃないか? 天下の最大手飲食グループ、柳原グループのお嬢様だろ」
「仰る通りです。確かに私がヒーローになるなんて普通は考えないでしょう。それにヒーロー事務所も……自力で立ち上げられます」
「ばっさり言うねぇ」
遠回しな金持ち自慢に思わず苦笑いが出る。だが続けられた言葉に笑みは消えた。
「私は欲しいんですよ。魔物を確実に殺す武器が。現状最強、女性にしか使えないクロスギアが」
「…………それが狙いか」
同じようにクロスギア欲しさに志願する女性ヒーローがいる話は玄徳から聞いている。魔物という脅威と戦う為に強力な武器を求めるのは当たり前だ。
だが勇者にも使えるという特徴は隠さなければならない。そのせいで簡単に普及させられないのが現状である。そして新しいメンバーの選定も慎重になっていた。
「なら質問を変えよう。そんなに魔物が憎いのか?」
「憎いですね。地球から根絶したいと思ってます」
風に明美の髪が揺れる。
「友達がゴブリンの苗床にされた」
空気が凍り付いた。明美の言葉の意味を二人もよく知っている。
人間を利用し繁殖する魔物は非常に嫌われている。寄生したり卵を産み付ける蟲型の魔物もいるが、女性を同種の雌の代わりに使うタイプ……ゴブリン等の亜人型の魔物は蛇蝎の如く忌み嫌われていた。
「友達はそれを苦に自殺しました。共感はできずとも想像はつくでしょう?」
「それが理由か。魔物への復讐ってとこか」
ゆっくりと明美は頷く。
「……ったく」
真理はため息をつきながら肩を落とす。
「前の事務所では裏方だったけど、話した事があるんだよ魔物憎さにヒーローになったやつと。意外と人数はいたな」
「でしょうね。魔物の被害は二十年前よりも増えているようですし。私だけではないでしょう」
ふと真理の目付きが物悲しげになる。何か思い詰めているような、息苦しそうな目だ。
「そいつらの半分以上は死んでる。魔物憎さにヒーローになった連中の殉職率は高いんだ。何より魔を殺す事を優先しちゃうからな。あんたも知っているだろ、アクアダンディ」
「ええ、存じています」
静かに青山も答える。
「それでも止めないのか。ならあたしから言っといてやる」
明美に近づき彼女を見上げる。先程までの黒い怒りは感じない。ただじっと真理と視線を交差する。
「早死にするだけだ、止めておけ。もしくはもっと大人になって、冷静に考えるんだ。自分が死んで悲しむ人がいるだろ」
諭すような、論すような優しい口調。彼女なりに心配しているのだ。
だが明美は首を縦には振らない。
「ありがとうございます、心に留めておきますね。ふふ、意外と優しい方なのですね」
「…………」
「青山、帰りましょう」
「畏まりました」
青山は車の扉を開け、明美はそっと優雅に乗る。運転席に青山も乗ると黒いリムジンは静かに走り出した。
立ち去るその背中を真理と由紀は無言で見送るだけだ。
「お姉ちゃんもああいう事言うんだ」
「善継の受け売りだけどな。でも……あいつの方がもっと見てきてる。魔物の被害をな。そんであたしらもこれから見ていく」
「そうだよね。八ツ木さん十年もヒーローやってるし」
「そんで青山、アクアダンディはそれ以上のはずだ。初期型のヒーローは今よりも弱かったからな。なのに……」
そう呟く真理の背中は暗かった。重苦しそうに、悲しそうに。




