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6:魔法少女戦隊

 外界を遮断する金属の箱が上へ上へと走る。十階、二十階、三十階へと進みエレベーターは止まる。小綺麗なカーペットの上を進んだ先、部屋の扉を真理が叩く。


「真理です」


「入ってください」


 三人が各々一礼し開け中に入る。


「失礼します」


 部屋にいたのは小柄な中年男性だった。黒く明らかに高級品のソファーの前でにこやかに笑っている。

 さっぱりと剃られた髭、オールバックにまとめられた白髪混じりの髪。善継のものより桁が一つか二つは上の高そうなスーツを着こなす紳士だ。


「真理に由紀も来てくれてすまないね」


「いえ、今回は仕事ですので」


(呼び捨て?)


 妙に親しい雰囲気だ。二人とは元々知り合いなのかもしれない。


「さて、君がメタルスパイダーですね? 私は二葉製薬社長の二葉玄徳です」


「はじめまして。メタルスパイダー、八ツ木善継です。今回はチームへの勧誘、心から感謝します」


 差し出された手を取り強く握手をする。


「さっ、座ってください。詳しい話をしましょう」


「ありがとうございます」


 三人は玄徳と向かい合うようにソファーに座る。


「あの、つかぬことを聞きますが真理……黒井姉妹と親しいように見えますが。どういったご関係で?」


「彼女達は私の姪です。妹の娘でして」


 二人の方を見ると由紀が大きく頷く。


「あたしらの伯父さ。だからこんなでかい会社と繋がってたのよ」


「成る程。ここなら件の新しいギアも作れそうだ」


 二人がこんな大企業の社長の親族なのは驚いたが、チームの設立から善継の勧誘までの経緯も納得した。


「仕事の話をしましょう。八ツ木さん、貴方は勇者についてどうお思いですか?」


「勇者ですか」


 軽くため息を溢し肩を落とす。


「良い感情はありませんね。私が契約解除になったのも勇者のせいですし、手柄を奪ったと攻撃された事もある。良い関係を築けた者もいますが、圧倒的に少ない」


「ヒーローからすればそんなもんでしょう。一般人からも似たり寄ったりだ」


 玄徳も残念そうに視線を落とす。一瞬由紀の方へと目を向けていた。おそらく彼女も勇者だからだろう。身内を悪く言うようで気が引けているようだ。


「周辺の被害を考慮しない戦闘行為。魔物退治による金品の要求や肉体関係の強要。SNSで炎上させようものなら調べ上げて復讐。今じゃ勇者の評価はだだ下がりだ」


「自業自得と言えれば良いのですが、勇者が人類には必要なのは間違いありませんから。悔しいが、我々ヒーローでは対処できない強力な魔物もいます」


「そうだとも。そもそもヒーローも勇者の協力があってこそ誕生したのだ。勇者全てを悪と見なすのも違う」


 だからこそ余計にたちが悪い。自分達の有用性を盾にし、否定するのなら力で黙らせる。そんな理不尽が通ってしまっている。

 そのせいで肩身の狭い勇者もいよう。ならば自分もと横暴になる者だっている。由紀だってそうなりかねない。


「そんな時真理から案を出されてね。由紀とヒーローを共闘させるチームを作りたいと。ヒーローが露払いをし、勇者が強大な魔物を討つ、それが本来あるべき姿だと」


「それは……理想的ではありますね」


 玄徳の言う通り、それが勇者とヒーローの想定された運用法だ。ヒーローが雑兵を蹴散らし市民を守り、その間に手に負えない強力な魔物を勇者が倒す。お互いの担当を分けて協力し合う、それがヒーローが作られた当初の計画だった。

 しかしその計画はすぐに破綻する。勇者よりも力の劣るヒーローは踏み台扱いされていた。やる気が起きず多くのヒーローが魔物にやられた事もある。

 彼の言葉は今や理想論でしかない。


「だから彼女達がやるのです。他の勇者の模範となる為に」


「……妹さんは納得してるのかい?」


 由紀は真っ直ぐと、真剣な目で頷く。


「私は家族を守りたいんです。それを取り巻く環境も。私が地球に帰ってきたのもその為ですから」


「そいつは頼もしい」


 言葉に嘘偽りは無いだろう。真理も頷いている。


「そうして真理の新型ギア開発を機に立ち上げたのです。勇者である由紀を中心としたチーム、魔法少女戦隊オルタナティブを」


「………………は?」


 思わずすっとんきょうな声が出る。聞き間違いだと信じたいが耳は特段悪くはない。玄徳は確かにこう言った、魔法少女戦隊だと。


「申し訳ないのですが、魔法少女と言いました?」


「そうです。ファン獲得やイメージ戦略の結果、魔法少女戦隊を発足すると会議で決定しましてね。それと……」


「……実を言うと新型ギアにも理由があるんだ」


 真理にバトンが渡される。


「理由?」


「ああ。スピリットギアは勇者の力、精霊を地球上の技術で擬似的に再現したものだ。人体に精霊を移植する術が無いから、機械を媒介にして使うってコンセプトでね」


 ノートパソコンを鞄から出し起動。一枚の精霊メダルの写真を見せる。それは善継が所持しているメダルとは少し違う。本来なら銀色の本体に銅の縁、そして宿る精霊を模した金色のレリーフが描かれているはずだ。

 赤い本体に白い縁、金色の猫のレリーフが描かれたメダルだった。


「全てはこのメダル。バイオメダルが伯父の会社で開発されたのが切っ掛けだ」

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