16:女三人集まれば(前)
話を終えた黒井姉妹は二人揃って帰路についていた。遠目から見れば仲睦まじい姉妹そのものだ。
ただ二人の身長差は真逆。由紀の方が姉に見えるのはいつもの事だ。
「お姉ちゃん、なんだか不機嫌だね」
歩きながら真理を見下ろす。彼女の顔はムスっとしたまま目を細めていた。誰が見ても不機嫌そのものだ。
妹に指摘され一瞬真顔になるも、すぐにため息をついてくしゃくしゃの髪を掻く。
「まーね。ぶっちゃけジェラシー感じるわ。あの黒い液、まじで精霊を薬品化させたものだったら、作った奴は天才だ」
「でもお姉ちゃんだってクロスギア作ったじゃない」
「あれは伯父さんがバイオメダルを作ってくれたからだ。いや、そもそもバイオメダルだってめちゃくちゃだよ」
赤信号で足を止める。
「候補はそれぞれ複数の精霊と適合している。その中から一つを選んで使用するだろ」
「うん、勇者が複数の精霊を宿してるのと同じ理屈だよね」
「そう。そんで精霊側から見ても適合する人間は複数いる。善継が姉と同じメダルに適合したようにな」
信号が青になり再び歩き出す。
「だけどバイオメダルは完全に個人専用に組み換え、使用者との親和性を高めている。あれを作ったのだって信じられない位だ」
「でも伯父さんお金持ちだし、大きな会社の社長だよ。有名な研究者とかお金で雇えば出来るんじゃないかな?」
「……そうかも。いつの時代も画期的な発明は偶然やふとした閃きから生まれる。運も味方したんだろうね」
「そこは伯父さんの人徳だよ」
自然と笑みが溢れる。真理は考え過ぎだと自分に言い聞かした。
二人は進み住宅街の方へ。もうすぐ家族の待つ自宅だと思った矢先、ある物が目に入る。
黒塗りのリムジン。ここはそんな高級住宅街ではない。明らかに浮いた存在だ。
だが真理はその車に警戒し足を止める。
「お姉ちゃん?」
「まさか善継の言っていた……」
彼女が足を止めたのを見たのだろう。車から初老の男性が出ると後ろの扉を開ける。
出てきたのは赤い学生服を着た少女だ。
「こんにちは」
少女は笑顔でこちらに歩み寄りお辞儀をする。綺麗な人形のような動き。その足運び一つ一つから育ちの良さが滲んでいる。
真理は警戒するように由紀の前に立つ。
「……柳原明美ね?」
「はい。魔法少女マリリンさんと……勇者のユッキーさん。はじめまして、柳原明美です。八ツ木さんから聞いていたのですね」
「まあな。そんであたしらに何の用だ?」
「私が魔法少女戦隊に応募したのはご存知でしょう? 未来の仲間にご挨拶をと思いまして」
じっと明美を見上げる。由紀には劣るも真理よりも背は高い。しかし年下に怯むような人間ではない。威嚇するような目で明美の視線に重ねる。
だが明美は微笑みを崩しはしない。自分よりも小柄な真理を見下ろす目は子供をあやすような目付きだ。
火花が散りそうな睨み合いに青山が割り込む。
「そう敵意を向けぬようお願いいたします。お嬢様に邪念はございません」
「アクアダンディだね。一応あんたには会社として礼を言っておくよ。初期型ヒーローに会えるなんて思ってもみなかった」
「いえいえ。人として当たり前の事です……」
ちらりと青山は明美の方を見る。彼女が頷くと青山は咳払いをする。
「所で……あの銀行強盗は何者でしたか? メタルスパイダーは何やら気にしておりましたが。いえ、私も血痕が残っていたのが引っ掛かりまして」
「お察しの通り人間だったよ。個人は断定していないけど。おそらくあのベルトがギアのような働きをしているようだけど。犯罪者ヒーローと同じ対応をする事になった」
「やはりですか……」
青山も同じ考えだったようだ。ため息をつき肩を落とす。
そんな彼に由紀が話しかけた。
「あの、引退されてるんですよね?」
「ええ。今は柳原家の運転手です。ああ、勿論ギアの所持は許可を取っています」
明美も自慢げだ。
「ふふふ。引退しても緊急時は人々の為に戦う。素晴らしいと思わない?」
「そうだな。尊敬するよ」
いかなる時にでもヒーローの信念を忘れない。真理だけでなく由紀も尊敬の念を抱いている。
「ただ……」
明美の目付きが一変する。怒りや憎しみを込めた鋭い目に。
「そんな人間としてまともな感性すら持たない者もいますから。例えば、勇者とか」
口元は微笑んでいるが目は笑っていない。
由紀が感じとったのは強い憎悪。勇者へと向けられる憎しみ。勇者を嫌悪する者はごまんといるも、ここまで強い恨みを感じた事は無い。
凍る空気。しかしすぐに明美は表情を和らげる。
「ごめんなさい。一応貴女はまともな勇者なのは存じています。それに……個人的にユッキーさんには感謝しているんですよ」
「感謝? 私は柳原さんとは初対面のはずだけど」
「ええ初対面です。ですが関係はありますよ。先日のロックドラゴン襲撃事件でね」




