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15:考察する血

 二葉製薬の会議室、広く並んだ机の大群の中で善継は頬杖をついていた。考えているのは先程の怪人の事だ。

 魔物や魔人は死亡すると肉体が黒い塵となって消えてしまう。血液や体組織も本体から離れると数秒で同じく塵となる。そのせいで今までまともに生理検査を行えず、生物として全くわかっていないのが現状だ。更に明らかに生き物と言えないような連中までいる。


 今回はそんな今まで魔物に対する常識が(くつがえ)った。以前戦った魔人の血は青、今回は赤。そんな違いは大した問題じゃない。オークやゴブリンの血は赤いし、ゴーレムのような無機物もいればスケルトンみたいな骨だけのもいる。

 問題なのは血液が残っている事だ。魔物や魔人の肉体は地球には残らない。あり得ないのだ。

 事実、善継は今まで魔物を倒しその死体が消えていくのを何度も見ている。そして魔人は人間のような知性のある魔物であり、生物としては同じなのだ。


(あれは魔人じゃないのか?)


 疑問は次第に確信へと変わっていく。残された血痕、まるでギアのようなベルト。そう、まるで()()()()()()()()

 まだ確たる証拠は無い。ただ個人的に確信している。

 そんな事を考えていると部屋の扉がノックされる。


「失礼します。あっ、八ツ木さんお疲れ様です」


「妹さんか。お疲れ」


 由紀が部屋に入ってくる。制服に鞄と学校帰りのようだ。

 彼女は善継と二席離れた場所に座る。


「あの、伯父さんからのメール見たんですけど……なんか変なのが出たって」


「ああ、ちょっと厄介そうな奴がな。幸い引退したヒーローが近くにいてね、二人がかりで戦ったが…………逃げられた」


「厄介か。私がぶった斬っちゃいましょうか?」


「いや、俺の予想が正しければ、君と一番相性の悪い相手だ。手を出さない方がいい」


 由紀は驚き目が点になる。それもそうだ。彼女は勇者、人類の頂点に至る最強恪の力を持っている。単純な戦闘力なら善継を軽く凌駕する。

 そもそもこのチーム最大の戦力は由紀なのだ。それなのに何故。疑問があたまを埋め尽くす。


「私じゃダメって。どうしてですか?」


「そうだ。手加減できるなら、まあいけるかもしれないが」


「手加減?」


「俺の予想が当たってたらな。今は真理が調べた結果を待つしかないが」


 頭上に疑問符を浮かべる由紀と違い、善継は少し苛立っているように椅子に寄り掛かる。

 不安だ。彼の顔から浮かぶのは葛藤や困惑、何か考え込んでいるようだった。

 そうしていると部屋に玄徳と真理が入ってくる。二人の様子はどこか暗く、特に玄徳は眉間にシワを寄せて険しい顔をしている。


「やあ。八ツ木さんお疲れ様。由紀も学校帰りにすまないね」


「大丈夫です。それよりも何か変なのが出たって」


「そうだね。その事についてだが……」


 玄徳は善継に視線を向ける。善継も無言で頷くだけだ。彼も話を促しているようだ。

 善継の意図も察し、玄徳は真理に合図をする。


「んじゃああたしの方から説明する。善継、あんたが持ってきた血なんだが……」


「血? 魔物の血ってすぐ消えちゃうんじゃなかったけ?」


 由紀も驚いている。魔物の血が残らないのは彼女も知っているからだ。


「そうだ。だから真理に調べてもらったんだよ。結果は……俺も予想はしているが」


「ああ、お察しの通りだ。細かい検査はできなかったが、あれは()()()()()だってのがわかった」


 やはりなと善継はため息をつく。それは玄徳と真理も同感のようだ。

 現場に残された赤い血、それが人間のものだと三人共想定していた。


「予想通りか。となるとやっぱり」


「ええ。八ツ木さんの報告と銀行の防犯カメラの映像を確認したのだが、あの怪人のベルトはギアのようなものでしょう」


「だけどメダルも使っているようにも見えないし、どんなシステムでやってんだか」


 三人はある程度状況を理解しているが、由紀は何の話をしているのかさっぱりだった。


「あの……何がそんなにおかしいんですか?」


「えっとな、まずこれを見てくれ」


 真理はノートパソコンから銀行の防犯カメラの映像を見せる。善継と青山が怪人を撃退するまでの間、由紀はじっと映像を見ていた。ただ彼女もある瞬間に気付く。

 怪人がベルトを操作した瞬間を。


「……お姉ちゃん、これってギア?」


「わからん。メダルも無いしこんなギアも知らない」


 真理も画面を食い入るように観察していた。腰に巻かれた奇妙なベルト。それが何なのか頭をフル回転させるもわからない。

 玄徳も由紀の後ろから画面を覗く。


「現在世界に存在しているのはスピリットギアとクロスギアの二種類。国柄でデザインを変更しているのもありますが、中身は同じです。誰かが新型のギアを開発したのでしょうか」


「……いや、無茶だ。あたしも伯父さんからバイオメダルを渡されなかったらギアを作れなかった」


「それならそのメダルに代わる物があれば作れるって事だよね」


 由紀はベルトの右側、黒い液体の入ったアンプルを指差す。バルブで操作しているとなると、ここに仕掛けがあると考えるのは当然だ。


「ほらこれ。なんだかこれがメダルの代わりみたいに見えるよ」


「そういやあいつ、薬がどうたらって言ってたような。社長、精霊を液体に加工するのは?」


 善継の問に玄徳だけでなく真理も首を横に振る。


「不可能だ。精霊を体内に取り込み人工的に勇者を作る。その実験で、当然精霊を薬品化する実験は行われた」


「結果は失敗。で、試行錯誤の末にメダルの形になったの」


「取り敢えずこの件は警察が中心となって調べる。私達の仕事はギアのような物の出所を調べる事じゃないからね」


 ノートパソコンを閉じる。そして玄徳は咳払いをして三人に話し始める。


「さて、現在の状況からこの……そう、怪人は犯罪者ヒーローと同じ対応が妥当だろう。八ツ木さん、あなたが適任だ」


「……身柄を拘束し変身を解除。ギアを没収し警察に引き渡す、でしたね」


 ヒーローの中にも力に魅入られ罪を犯す者もいる。犯罪者となったヒーローの対処は警察だけでなくヒーローにも権限がある。だがあくまで戦闘力を奪うまでだ。

 ギアの無いヒーローはただの人間と変わらない。変身を解いてしまえば後は警察の仕事になる。

 そう、勇者の粛清と違いヒーローは逮捕が優先される。


「申し訳無いが真理に手加減をする余裕は無いだろうし、由紀も手加減しても危険だ。勇者の力では過剰すぎる」


 玄徳の言い分は尤もだ。単純に技量で劣る真理には危険だし、由紀では命を奪いかねない。善継が選ばれるのは自然だろう。


 ただ、この一件は簡単には終わらない。善継だけでなく誰もがそう予感していた。

 奇妙なギア。これには何か大きな裏があるはずだと。

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