13:怪人騒動
自動ドアの壁が紙切れのように吹っ飛んだ。真っ二つに切り裂かれた破片が銀行内に転がる。誰もが何が起きたのか理解できず一瞬の静寂が流れるも、人々は状況に気付き悲鳴を上げた。
無くなった壁の先から何者かが姿を現す。
「何だあれ?」
善継も見た事のない異形の者。
刀の爪に剃刀の刃を絡み積み重ねたような人型の怪物。刃物を寄せ集めて作った怪人とも言える。ただ顔と腰に巻かれたベルトだけはちぐはぐな印象を持たせている。笑顔を上下逆にした陶磁器のような仮面。白いランプを中心に右にバルブ、左には黒い液体の入ったアンプルが設置されていた。
どう見ても人間ではない。となれば考えられるのは一つ。魔物だ。
その怪物はリュックを受け付けに置くと叫んだ。
「全員動くな! おい、この中に金を入れろ、さもないと……」
右の人差し指がぐらつく。手を振ると刀飛び壁に突き刺さった。
「挽肉にしてやるからな。お前、早くしろ!」
「ヒッ……」
中年の女性職員数にリュックを押し付け、指先の刃を周りに突き付ける。コスプレとかそんなんじゃない。本物の化け物だ。どうにもできない彼女達には従うしかなかった。
ただ一人を除いて。
「言葉が通じるって事は魔人か? 魔人はもっと人間に近い形をしているって聞いていたが」
ガチャガチャのレバーのようなブレスレット、スピリットギアを左手に巻き善継が近づく。ヒーローとして見過ごすなんて事はできない。例え人間の強盗であっても止めに入っただろう。
(魔人となると魔法少女になるしかないな。どっか人目のない場所まで誘導して、そこで変身しなおすか)
どうしようかと頭を動かす。一人でどうにかしなければならない。今は被害を抑えるのが先だ。
「しかし魔人が銀行強盗とは。奇っ怪な事もありますな」
そして何故か青山も善継の隣に立つ。彼は目の前の異形に臆する事なく、寧ろ興味深そうな視線を向けていた。
「離れてろ。鍛えているようだが、あんたの相手じゃない。俺達ヒーローがやる」
「なら問題ありません。私もお手伝いします」
そう言いながら青山も左手に何かを着ける。それはスピリットギアだ。
「あんた…………そうか、どっかで会った事あるかと思ったら、ヒーローだったのか。思い出したぞ」
「ではやりましょう。いざ!」
二人の手には銀色の円に銅色の縁、中心には金色のレリーフが飾られている精霊メダルがある。善継のメダルは蜘蛛、青山のは津波のレリーフだ。
そんな彼らに魔人、いや怪人は驚いていた。
「ヒーロー!? ぐぐぐ……させるか!」
いや、寧ろ動揺している。そして焦ったように両手を振り回し指先の刃を二人へと投げつけた。
『『Set!』』
二人の頭上に赤い六芒星の魔法陣が描かれ、そこから紅白に色分けされた球体、ガチャガチャのカプセルが飛び出した。それは善継達の盾になるように跳びはねながら刃を弾く。そしてお互いにぶつかり合いながら二人の周囲を跳ね回った。
『『Something is coming out! What is it?』』
「「ガチャ!」」
『『Pon!』』
レバーを回すとカプセルが口を開き善継と青山を飲み込む。カプセルは小さく痙攣すると粉々に弾け飛び、中からヒーローが飛び出した。
『I'm a predator』
『Welcome to the water world』
蜘蛛の巣模様の銀色コート。頭髪のような脚を伸ばした蜘蛛男。メタルスパイダー。
そしてもう一人。青い燕尾服にシルクハット。カイゼル髭が特徴的なサファイアのような仮面。彼もまた怪人と呼べるような凄まじい出で立ちだ。
「メタルスパイダー、参上!」
「アクアダンディ、緊急時により限定復活!」
銀行員達、そして客の皆が驚き沸き上がる。異常事態に現れた二つの希望。文字通りヒーローの登場に歓喜した。
彼らの幼い頃に活躍したヒーロー達が目の前にいる。三、四十代の人々からすれば憧れの存在がここにいた。
「メタルスパイダーだ!」
「アクアダンディ? 四年前に引退したはずじゃ」
「頼むぞヒーロー!」
人々の声援を受け、ヒーローは異形の怪人へと一歩踏み出す。彼らの足取りは軽く、それでいてたくましかった。
「動きはそちらに合わせます。フォローはお任せください」
「初期型から戦ってきた先輩に背を押されちゃ……こっちも恥ずかしい戦いはできないな」
指先から細いワイヤーを出しながら歩く。心なしかワクワクしているような声色だった。
アクアダンディこと青山も手に水のステッキを作り出し弄ぶ。
「……行くぞ!」
「御意!」
善継の声を皮切りに二人が同時に駆け出した。




