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12:Go to bank

 昼過ぎの八ツ木家。食器を片付ける善継、そして席についたまま茶をすすりながらテレビを見る老人がいる。後退した頭髪、小動物のような目。善継の父、善隆だ。


『昨晩未明、会社員の男性が魔物に襲撃され意識不明の重傷を負いました。発見されたのは玩具メーカー勤務の佐竹渡さん三十一歳……』


「おおう、怖いねぇ。善継、魔物だってよ」


「ん? ああそのニュースか。うちの管轄外だけど、ギリギリだからこっちに来るかもしれないな。その前に討伐してくれると良いんだが」


 皿を食洗機に入れスイッチを押す。水の音がゆっくりと聞こえてくる。


「そうか。……なあ善継、最近あれだ、魔法少女のお前を見ていないんだが」


 善継の手が停まる。


「あれは基本的に緊急時用だ。仕事が無い訳じゃないけどな」


 ふとテレビを眺める父の横顔が目に入る。彼はみうみうの事をどう思っているのか。姉……彼からすれば娘の姿なのだ、何かしら思いがあるのかもしれない。


「親父、前から気になっていたんだけどさ。親父はみうみうに俺がなるのをどう思っているんだ?」


「…………」


 思う所があるのか、善隆は少し考えるように目を閉ざす。湯呑を置き数秒、視線を善継の方へと向ける。


「見た時は美海が生き返ったと思ったよ。美海の友達、三丁目の石井さんの子から電話も来たね。けどまあ……死人は蘇らない、俺は割り切っている。あれは美海じゃない、善継だって」


「そうか。割り切ってるなら良かったよ」


「善継はどうなんだ?」


 善継も改めて考え直す。姉の姿となり活動をする、先日の事件により知名度もうなぎ登り。落ち着いて考えると異様な事だ。

 だが仕事として必要だ。単純な力としてクロスギアの性能は大きい。だからこそこう思う。


「複雑だな。姉さんにどんな顔すれば良いのかわかんねぇんだよ」


「だろうな。一番めちゃくちゃなとこに立たされてるんだ」


「とりあえず今度墓参りにでも行くよ。原因と一緒にな」


「たまには顔出してやれ。あっと、そういや」


 善隆はテレビを置いている棚の下、鍵のついた扉を開く。そこには頑丈そうな金庫がしまってあり、中から通帳を取り出す。善継もしっている、この店の通帳だ。


「悪いが通帳の記載を頼む。俺はこの後町内会への納品の打ち合わせがあるんだ」


「わかった。行ってくるよ」


 少し古ぼけた通帳を受け取る。近所の銀行のものだ。歩いて数分の所にある。

 善継は急ぎ足で家を出る。歩き慣れた道、時代と共に変化した街並みを眺めながら目当ての銀行へと向かう。

 歩いて数分。銀行の中は空調が効いているおかげか快適だ。善継以外にも人はちらほらと見え、番号札を取って椅子に座る。


「どうも。あの後いかがでしたでしょうか」


 不意に隣に座った男性から声を掛けられる。この男性に見覚えがある。先日声を掛けてきた少女の運転手、青山だ。

 一瞬不機嫌そうに顔を歪めかけるが、冷静に息を整える。そんなあからさまな態度はいくらなんでも失礼だからだ。


「またあんたか。今日はお嬢様はいないのか?」


「フフ。流石に平日の昼です。お嬢様は学校ですよ」


「それもそうだな」


 彼の言う通りだ。あの由紀でも今の時間はきちんと学校に行き勉強をしている。勇者でも本質はただの高校生、学校に行くのは当然だ。


「ところで、魔法少女みうみう様とお会いできませんか? 連絡が無いので不躾ながらこちらから直接お伺いしました」


「連絡が無いのだから、彼女が会わないって事だろ。悪いがあんたらに不信感しかないからな」


「それはごもっともですが、本当にお伝えしていただけたのですか?」


「一字一句間違いなく」


 何せ本人がここにいる。嘘は行っていない。

 青山も少し疑いの視線を向けていたが、善継の揺らがない目に息を吐く。


「…………残念ですな。勇者に勝利したヒーローに私めもお会いしたかったのですが」


「そう言ってるのは何件も来てるよ。こっちも困ってるんだ」


 世間から悪い意味で注目されている。ただでさえ亡くなった姉の姿を借りているのに負い目を感じている。その姿で金儲けなんてもっての他だ。

 ある程度は玄徳も理解し断ってくれている。あくまで魔法少女の力は緊急用。現行のシステムで勝てない相手の場合のみだ。


「わかったら帰ってほしい。今日は家業の件で銀行にいるんだ」


「ああ、あの酒屋ですね。ではお邪魔になりますので、私はここいらで退散……」


『Weak, now is the time to hold the blade』


 不意に部屋の隅、入り口方からくぐもった声が聞こえた。

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