11:ネットの世界
暗い部屋の中三つの画面を食い入るように睨む男がいた。紅白に染めた奇抜な髪をした男、インターネットで動画配信をするネッチューバーのドゥドゥだ。
彼は自分の動画のデータとにらめっこしながら頭をかきむしる。苛立ち鼻息を荒げて。
「くそが。再生数も下がってるし、ネットでも評判いまいちだな。オワコン呼ばわりしやがって」
彼の憤りは止まらない。ストレスに胃が痛み、自分を称賛しない言葉に憤慨する。
最近低迷となったチャンネルに降って沸いたチャンス。先日の魔法少女戦隊との邂逅だ。
偶然だった。いつもなら魔物との戦いに巻き込まれないようすぐに逃げていた。動画にすれば注目はあるものの、ヒーローの魔物狩りを撮影するのはリスクが大きい。だが今回は違った。あの今話題の渦中にある美少女ヒーロー達。世界で初めて勇者を粛清したヒーロー。そんな有名人がいたのだ。
これ幸いと撮影に向かったが断られ、更にうざったい邪魔者まで現れた。
思い出すだけでイライラする。リスナーは二人の魔法少女に喜んでいた。彼女達を利用すればまた一歩進めると思っていた。
もっと人気になりたい。ちやほやされたい。承認欲求に飢えていた。
あの男、メタルスパイダーが現れてから事態は一変。邪魔だと言っていた者だけでなく、ドゥドゥを非難する声も現れ始めた。更に今回の件で二葉製薬から警告まで出てしまい、それがネットに広がっている。
「チクショー! ヒーローなら俺の為にも働けよ! 俺を守れよ!」
だだっ子のように椅子に寄りかかって暴れる。じたばたと手足を振り回す姿は子供そのもの。自己中心的で我が儘な男なのだ。
そんな彼に手を差し伸べる者はいない。一人を除いて。
「こんばんは、ドゥドゥさん」
顔を押さえ覗き込む女の姿。金髪の人外じみた美貌を持つ異質な者がこちらを見ていた。
「な…………なんだ? 人んちに勝手に入って、誰だよ!」
一瞬彼女に魅了されそうになるも、驚きと自宅に勝手に現れた事に理性が耐える。こうした変なファンは付き物だ。
だが顔が動かない。彼女の力が凄まじい。こんな細腕からは想像もつかない腕力だった。
嫌な予感がする。何かヤバい奴にロックオンされたのと同じ感覚だ。
「驚かせてごめんなさい。急で申し訳ないのですが、あなたに仕事を依頼しに来ました」
「は、はぁ?」
手を離すとドゥドゥは慌てて彼女から離れる。そして女の全身を見て息を飲んだ。並のグラビアアイドルが逃げ出すレベルのスタイル。露出の激しい服装、妖艶過ぎて何もかもが作り物のような美しさがあった。
「あ……ああ、あんたは? どうやって部屋に入った?」
「さあ? どうやってでしょうか。考えてみては?」
小馬鹿にするような笑みに頭にきた。いくら美人であろうと、不法侵入し馬鹿にされては許せはしない。
「ああそうかい。ならさっさと通報させてもらうよ。頭のおかしい奴を相手してやる時間は無いんでね」
警察に通報しようとスマホを取り出し画面を見る。が……
「あら、どうやって?」
「は……?」
圏外。全く通信が繋がっていない。
あり得ない。家の中だ。パソコンを使う以上通信環境は完璧だし、今まで自宅で電話ができなかった事はない。
血の気が引いていく。おかしい、非常識、あり得ない。そんな言葉が頭を埋めていく。
「どうして? まさか……勇者?」
可能性はある。人間の常識が通用しない規格外の存在、それならこんな芸当は可能だろう。
だが彼女は笑うだけ。
「それは想像にお任せします。ただ私は先程お伝えした通り、仕事を持ってきただけです。配信でおっしゃってましたね、候補だと」
「…………ヒーロー関係か?」
「おや、何故そんなに嫌そうな顔をしているのですか?」
彼はあからさまに面倒そうな、そして嫌がるような顔をしていた。
「当たり前だ。あんな命懸けの仕事なんかやってられるか。ああいうのは外から見てるのが良いんだよ」
「ですが世間からは好評ですよ。まあ、魔物狩りは勇者の方が安全ですし、勇者になりたいのですか?」
「っ!」
ドゥドゥの顔色が変わる。怒り、羞恥、そんな色が見える激しい感情の起伏に表情を歪めた。
握る拳が震え、壁を思いっきり殴った。
「俺は底辺じゃない!」
感情のままに叫ぶ。
「俺は大人気ネッチューバーだ! 無能な陰キャや誰からも相手にされないブスとは違う。勇者に選ばれるような連中とは……違うんだ」
声が震え出し嗚咽が溢れ座り込む。女はそんな彼の姿を舌舐りをしながら笑う。
「モテない仕事もできないイジメられっこ。そんな奴らが勇者に呼ばれてるって。だったら俺は違う。俺は成功者だ。人生の勝ち組なんだ」
「勿論存じていますよ。あなたは蔑まれる者ではない」
女は近づきながらそっと抱きしめた。温かく柔らかな感触。なのに何故かその背中は暗く澱んでいる。
「ですが忘れていませんか? 確かに勇者はそんな人物が多いが、全員ではない。そうでしょう?」
そっと耳元に唇を近づける。紅いルージュに揺れる唇が色気を放ちながら誘惑する。
「変身してみませんか? 新しい自分に」
「変身?」
「ええ。もっと、もっと上へ。元が下等なのに力でイキる勇者よりも……もっとね」
女の目が怪しい光を放つ。人間離れした美貌から魅せるその全てがもはや魔法。色欲を誘い堕落させる麻薬のような微笑みだった。




