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9:お嬢様

 善継の実家である酒屋。彼が生まれる前からこの街で商う小さな店。古ぼけたこの店に場違い感のある一台のバイクが停まる。

 緑色のフルカウルのバイク。うるさいエンジン音を響かせ、乗っていたスーツの男が降りる。彼、善継は薄汚れた配達用のスクーターの隣にバイクを停めるとヘルメットを外す。

 ふぅ、と一息。息苦しさから解放される。視界がクリアになり、ヘルメットに遮られた街の音が頭に入ってくる。


「さてと……」


 この後は店番に配達。ヒーローと家業の両立と忙しい毎日を送っているものの、善継にとっては充実した日々だ。実家住まいなのは少し難だが、家に家族がいるのは悪くない。

 頭の中で予定を思い出しながら家の鍵を取り出す。


「ん?」


 背後から車の音が聞こえる。振り向くと一台のリムジンが停まっていた。こんな下町に似つかわしくない代物に思わず首を傾げる。

 少なくとも客ではないはず。善継の実家ではこんな車に乗る金持ちが嗜むような高級品は取り扱っていない。勿論知り合いにも玄徳以外に金持ちはいない。

 不信に思っているとリムジンの後部座席の窓ガラスが開く。そこにいたのは由紀と同年代の少女だった。


「こんにちは。八ツ木善継さんですね?」


 可愛いと言うよりも綺麗な顔立ちの少女だった。長く艶やかな髪を撫でながらこちらに微笑む。


「たしかに八ツ木ですが、どちら様? それと、車の中から声をかけられてもね」


「これは失礼しました。青山」


「はっ」


 運転席から初老の男性が出てくる。善継よりも高い身長、短く刈り上げた髪、年齢以上に広い肩幅をしたスーツ姿の男性だ。


(ん? この人どっかで見た事あるような……)


 こんな特徴的な男性だ、一度見たら忘れないだろう。思い出すよりも先に車の扉を開けた。

 長髪の少女が車を降りる。由紀よりも少しばかり小柄な身長。抱いた印象は黒曜石のような瞳をした育ちのよさそうなお嬢様だ。それに彼女の服装にも見覚えがある。

 赤いチェック柄の制服。以前勇者達が格好つけようとしていたお嬢様学校の制服だ。


「改めまして、はじめまして八ツ木さん。私は柳原明美です」


 そう一礼する一挙一動が優雅で品の良さが見える。こんな高級車に乗り、更に運転手まで召し抱えているのだ。相当の金持ちなのだろう。


「ああはじめまして。で、君は俺に何の用かな? うちは酒屋だ。未成年には売れないんだがね」


「違います。むしろこうお呼びした方が理解が早いかと。メタルスパイダーさん」


「…………そっちか」


 善継は基本的に顔出しをしていないヒーローだ。しかし活動歴も長く、緊急時は人前で変身した事もある。ネットで調べれば善継の事は調べられるだろう。


「ヒーローとして何か仕事の依頼かな? なら事務所を通してもらわないと」


「仕事の依頼ではありません。実は……私は魔法少女戦隊に入りたくて」


 笑顔でそう言っている。善継も何を言っているのか一瞬理解できなかった。


「…………えっと、すまん。つまりヒーローになりたいんだよね? それこそ事務所の募集に応募するとかさ」


 彼女の言っている事を噛み砕くとヒーローへの就職希望だ。確かに二葉製薬では現在も募集はしている。しかしバイオメダルやクロスギアの事もある。世間に漏れないよう人選には慎重になっていた。

 勇者にも使えるクロスギア。邪な者の手に渡ればどうなるかは考える間でもない。勇者がもっと強くなる。そんな事を知られる訳にはいかない。


「そもそもヒーロー、うちだと魔法少女か。それになるなら候補じゃないと。それに危険な仕事で正規の訓練を受ける必要もある」


「勿論存じています。当然検査も受けて候補なのは判明していますし、半年前から訓練を受けています。……まあ、まだ適合するメダルは見つかっていませんが」


「……なら尚更俺に会いに来る理由がわからん」


 頭を掻きながらため息を一つ。

 聞けば聞く程善継の管轄外だ。善継はあくまで雇われているヒーローに過ぎない。人事権も持たない人物に何を言っているのかと言いたくなる。


「理由は二つあります。まずメタルスパイダーさんはチームの中では地位のある方と伺っておりますわ。貴方の推薦が欲しいのです」


「俺の言葉にそんな力があるとは思えないね」


「少なくとも無力ではないと思いますよ。貴方は自身を過小評価していますね」


「謙虚だと言って欲しいな。それで、もう一つは?」


 彼女は二つあると言っていた。勘ではあるものの、そっちが本題なのだろう。

 明美は軽く咳払いをし善継に微笑む。


「もう一つは、みうみうさんに会わせていただけませんか?」


「……!?」


 心臓が止まりそうになる。バレているのかと冷や汗が流れてきた。会社でも極秘扱い、世間にも公表していない事実だ。


「……何で彼女の事を俺に?」


 息を呑み問いかける。平然を装っているものの内心焦っている。

 善継と違い明美は微笑むだけ。


「予想なのですが……貴方は彼女の親族ではないのでしょうか」


「親族?」

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