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6:嫌な奴ら

「だけどさぁ、中には嘘つく馬鹿もいるよなぁ」


 ふと少年の声が教室に響く。教室の隅、金髪でガラの悪そうなクラスメートがニヤニヤと笑っている。机の上に座り前の席、ベタついた髪に小柄でおとなしそうな少年の背を蹴る。


「候補だ、勇者になったら復讐してやるとか宣ってさ。証拠出させたら……ダッセェよ。逆に俺が候補だったし」


 蹴られる少年がビクりと震える。それだけで誰もが理解した。彼は金髪の少年からイジメられている。そして自分の身を守る為に候補と言ったが……実際は逆だったのだ。

 由紀にとってどっちが候補だろうと関係無い。ただ無性にイライラする。


「中島君、足どけたら? 見てて目障りなんだけど。それとも足の置き方すらわかんない幼稚園児以下なのかな?」


「…………ちっ」


 流石に勇者である由紀に歯向かう気は無いらしく、おとなしく足を退かす。

 だが彼、中島は忌々しそうに睨む。そんな彼の視線を由紀は鼻で笑った。


「……そうね、中島君なら勇者に呼ばれるんじゃない? 小原君みたいなタイプ以外にも勇者はいるもの」


 皆が驚く。素行が悪く一番勇者にしてはいけないタイプの彼に、勇者になれるなんて事を言うとは思えなかった。

 中島もポカンとするも、すぐに上機嫌になる。


「だよなぁ。底辺のカスだけじゃねぇ、俺みたいな上の人間も勇者になるよな。黒井もわかってんじゃん」


「ええ、中島君は堤君以上にクズで馬鹿だもん。偽物のお姫様をあてがわれても気づかなさそうだし。いいように利用されて簡単に捨てられそうね。それと、異世界人にとって勇者って消耗品よ? そんなのになりたがるなんて。奴隷願望でもあるんじゃない」


 静まり返る教室。クスリと小原が笑うのを皮切りに教室中に笑い声が響く。

 由紀に同意するような言葉と中島を小馬鹿にするような声。そんな声に中島は顔を真っ赤にする。

 勇者は圧倒的な力を持つ存在と知られているが、魔王やら魔物から自分達を守る為に利用する、それが勇者召還。そう、勇者とは異世界人の道具なのだ。

 中島もその事に気付き羞恥心に潰される。だがこのままでは終われない。


「んだよ。大口叩いておきながら、堤を倒したのはみうみうってやつじゃん。弱いくせに」


 由紀の心に突き刺さる。本来勇者の対応は同じ勇者である由紀が行わなければならない。防御に回った事やフィルシステム等のイレギュラーもあり、善継に頼らなければならなかった。

 彼女も気にしていた。一歩間違えれば全滅していたかもしれない、学校に残された生徒や救助作業中のヒーローもどうなっていたか。

 だが全てが同じ考えではなかった。


「けどさ、一番先に助けに来てくれたの黒井じゃん」


 男子の声が聞こえる。


「そうそう。それに魔王も倒したし、堤の魔法から学校も守ってくれたじゃない。私達だって巻き込まれたかもしれないんだよ」


 同調するような女子の言葉。

 少しばかり恥ずかしい。校内の魔物も春人を追うついでに蹴散らしただけ。魔法も一番守りたかったのは姉だ。そんな聖人君子じゃない。

 そう、自分もまた他の勇者と同じクズなのだ。

 だけど、ほんの少しだけ、感謝の言葉が嬉しかった。





 二葉製薬本社の一室。魔法少女戦隊オルタナティブに用意された事務所。資料やメモリ、メモにノートと汚い整理整頓なんて言葉をどこかに投げ捨てたような席で真理は一人パソコンをいじっていた。

 彼女の片手にはガチャガチャと腕輪を混ぜたような機械、スピリットギアだ。候補である彼女もヒーローへの変身アイテムであるこれを使う事はできる。しかし女性にしか使えない制限はあるも、より強力な魔法少女に変身するクロスギアを主に使っている。真理がこれを持っているのは珍しい。


「はぁ……」


 めちゃくちゃに伸ばした髪を掻きため息。彼女は先日の魔物狩りの事を思い出していた。

 フォローをするのは自分の仕事なのに、結局妹である由紀が片付けてしまった。勿論元の戦闘力が勇者である由紀の方が圧倒的だ。それに真理は元々は研究職、由紀が暴走しないようストッパーである事が魔法少女になった理由だった。

 だが魔法少女も魔物を狩るヒーローだ。何もしない訳にはいかない。


「不思議なもんだ。妹が……ねぇ」


 十年前を思い出す。まだお互い小学生だった頃、小さな妹の手を引いていたのは自分だった。

 だけど今や背丈もスタイルも天地の差。しかも人類を超越した存在、勇者となり完全に雲の上だ。何か大きな壁ができたような気がする。

 そうだ。今は守られるのは自分の方なんだ。

 モヤモヤした気持ちが頭を埋める。そうしていると扉が開く。


「おっ、いたのか」


 細身で小動物のような目をしたアラサーの男性、善継が入ってきた。

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