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5:変わる立場、変わらない立場

 翌日の朝。登校した由紀は静かに自分の席に座る。

 教室は普段と変わらない日常を広げているが、ここは数週間前に比べ少しばかり静かになっている。いくつか穴のある席、傷ついた壁、あちこちに残された悲劇の痕跡。堤春人の起こした魔王軍による占拠事件、その傷跡だ。

 幸い対応が早く春人が選り好みをさせていたおかげで被害は少ないものの、死傷者は零ではない。もっと早く対応すれば、来てくれたおかげで助かった。由紀に対する学校からの反応は様々だ。


 元々由紀に対する周囲の反応は極端だ。勇者を恐れ離れる者、彼女の力にあやかろうとすり寄る者。漫画のように今までと変わらない対応をする者はいなかった。

 確かに最初の頃はいた。中学からの友人なんかがそうだ。だが彼女達も変わってしまう。何となくだが察してしまうのだ。自分を見る目が変わっていく事に。

 特にここ最近、春人の事件が切っ掛けに由紀を恐れる生徒、教師は格段に増えている。

 勇者への恐怖。そして事件中、校内でオークやスケルトン相手に暴れる由紀を皆が恐れた。

 こいつは人間じゃないと。


 こんな日々を過ごしながらも由紀に話し掛ける二人のクラスメートがいる。


「おはよう黒井さん」


「昨日の見たよ。クックルチャンネルで配信されてたね」


「……ああ」


 彼女達の言っている事を思い出し顔をしかめる。由紀にとって嫌な出来事だった。自分達を食い物にされているようで不快極まりない。

 勿論これが会社を通した仕事なら文句は無い。現にビジュアルを重視したヒーローの中にはタレント活動を行っている者もおり、由紀達にも仕事が来ている。

 二人は由紀の不快感を察した。


「迷惑だよね。あのドゥドゥってネッチューバーは他にもヒーローに突撃したりしてたし」


「だよね。でも堤だったらドヤ顔で引き受けてそう」


 ピクリと由紀の眉が動く。


「でも男だから引き受けないかもよ。女性のネッチューバーなら簡単についてきそう」


「言えてる。あいつクズでキモいし。あー、でもくたばって清々した」


 笑い出す二人。それだけでなく教室からは彼女達に同意するような声も聞こえる。


「そう言えば堤の実家、ネットで特定されて今大変みたい。学校の被害とか責任取らされてるって」


「仕方ないじゃない。きちんと教育してなかったお……」


「うるさい」


 空気が凍てつく。痛いくらいに冷たい由紀の声。二人の話は神経を逆撫でる。


「みんながそう言ってるから、堤君はああなったんじゃない。確かに彼の人柄も問題はあったけど、それを助長したのは誰だと思ってるの?」


「あれ? 黒井さんもあの噂信じてるんだ。底辺が勇者になりやすいって」


「…………っ」


 思わず口を閉ざす。


「あっ、でも黒井さんがそうじゃないってのはみんなわかってるから。私中学も同じだし、黒井さんが……まあ普通だってのは知ってるもん」


「そう……」


 確かに由紀はイジメられた事は無い。同じような勇者もいるだろう。しかし世間にクローズアップされている勇者は逆の立場の人々だ。

 春人が異世界から連れてきた奴隷の少女、アマニダは言っていた。我欲やコンプレックスにまみれた候補を狙って召還していると。餌を与え欲望を充たす事でコントロールしていると言っていた。

 この事は世間には公表されていない。だが先日の事件の主犯、春人の過去がネットに流れた。おそらくこの学校の生徒がやったのだろう。

 それが火種となり様々な情報が世間に流出した。粛清された勇者の過去がだ。死人に口無し、生きている勇者からは報復が恐ろしいが粛清されれば別。皆群がり口々に非難し小馬鹿にした。

 容姿の醜さ。イジメられていた。仕事ができない。嫌われ者。単純な悪口だけでなく、その勇者がいかに惨めな人生を送っていたのか書き連ねていた。それはあまりにも過激かつ気色悪さすら感じる程だ。

 勿論報復の意味もあるだろう。だが中には別の目的がある者がこの騒動を斡旋していた。

 そう、その勇者達と同じような人生を送っている者達だ。

 彼らは自分達の身を守る為にこの噂を広げていた。俺を馬鹿にしたらどうなるか、私をイジメれば勇者になって復讐してやる。そう言いながら。

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