3:お仕事
事件を片付け会社へと戻った三人。特に真理は疲れたように机に突っ伏していた。先程の配信者にそうとう辟易しているようだ。
「あー。ついにあたしらもあの手に言い寄られるようになったか」
「嫌だなぁ。魔法でぶっ飛ばしたかったよ」
「止めなさい。由紀が粛清対象になるでしょ。嫌よ、妹がそんなのになるなんて」
一般人に魔法を使うなんて冗談ではすまない話だ。由紀を諌めながら真理は起き上がる。
そうしていると部屋の扉が開く。
「おう、お疲れ」
「おつ……」
「お疲れ様です八ツ木さん」
入室した善継に挨拶をするも二人の顔色はあまり良くない。善継もそこは理解している。
「大変だったな。さっき相談したんだが、今後はああいうネッチューバー? ネットの動画とかには随時対応するそうだ。法務も動いてくれるって」
「助かるよ。でもヒーローの魔物狩りは盗撮する奴が多いからな。善継もそれで見られたし」
「まあな。正直完全に止めてたらキリがないし、ある程度は許容しないといけないが、今回みたいなのは流石にな」
軽く笑うも下手をすればプライバシーの侵害だ。善継も遺憾に思っている。しかし実際、宣伝効果があるのは事実。折り合いをつけて対応するしかない。
「取り敢えずは会社に丸投げだ。それより……真理、例のアレについてだ」
「っ! どうだ?」
真理の顔色が変わり席を立つ。
「あの勇者の力を上書きする機能、フィルシステムと正式に名付けられ、全てのスピリットギアに搭載される事になった」
「だよね。これで勇者にデカイ顔をさせないぞ」
フィルシステム、それは勇者の力を抑えヒーローの力で上書きをする機能だ。ヒーローは勇者よりも圧倒的に弱い、これなら勇者を打倒する事も可能なのだ。
そんな画期的なシステムが導入される。真理が喜ぶのも当たり前だ。しかし現実はそう簡単にはいかない。
「だが、社長と相談した結果、一部のヒーロー事務所社長のみで共有し公開しない事になった」
「え? 何でですか?」
由紀が不思議に思うのも当然。勇者である彼女だからこそフィルシステムは有効なのを熟知している。運用実験で大きく弱体化したのも身を持って体験しているのだ。
疑問に首を傾げる由紀と違い真理は納得している。
「そういう事か。由紀、もし他の勇者や犯罪を犯したヒーローがフィルシステムを使おうとしたらどうする?」
「勿論着けられる前に壊……そっか、公開すると勇者達も知っちゃうんだ」
真理と善継が頷く。
「本来俺達ヒーローは勇者に太刀打ちできない。だけどフィルシステムならチャンスがある。それを危惧した勇者達が手を組んでヒーロー根絶なんてやり兼ねない」
「まあそのシステムにも問題はあるがな。そもそも変身させなきゃいけないし」
真理の苦笑いに由紀も釣られる。
勇者の脅威は勇者。だから勇者はお互いに距離をおき触れないようにしていた。そんな中、新たな共通の敵が現れる。勇者達がどんな行動をするか目に浮かぶ。
「だから八ツ木さん、魔法少女みうみうが勇者を倒したって事にしたんですね」
「そうだ。今は秘匿しているが、いつかはばれる。それまでにもっと簡単な方法を見つけないと」
善継は深くため息をつく。今の所は自分一人が警戒されていればいい。それにみうみうはそうそう出すつもりは無いのだ。どうにかして勇者に対抗する手段を見つけなければならない。
「まっ、そこは世界中の研究者に期待しよう。もしかしたらフィルシステムの開発者がやってくれるかもしれん」
「……そう言えばお姉ちゃん。システムって貰ったんだよね? 誰が作ったの?」
誰もが疑問に思うだろう。こんなもの誰が作ったのかと。だが真理は困ったように顔をしかめるだけだ。
「いや、わからない。スターカウントに聞いても、他の勇者に命を狙われる可能性があるからって教えてくれないんだ。そこはわかるんだけどな」
「だろうと思ってたよ。取り敢えず妹さんは今日は帰りな。宿題とかあるだろ? 本分は学生なんだ、細かい仕事は俺がやっとく」
「そうですね。ありがとうございます八ツ木さん。じゃあお姉ちゃん、先に帰ってるね」
「おう」
手を振り由紀が部屋を出ていく。二人きりになるも甘い空気なんて微塵も感じられない空間だ。
そんな中真理は少し気まずそうに口を開く。
「なあ善継。その、あんたのお姉さんのお墓って何処にあるんだ?」
「ん? ああ、県外に母さんと一緒にあるけど。どうしたんだ?」
「……いや、あたしのせいで善継が魔法少女になっちまっただろ? しかもお姉さんの姿で。クロスギアの開発者として、ちょっと責任と言うか申し訳なさがあってさ」
「じゃあ来月案内するよ。ただ……」
善継は壁に寄りかかりながら笑う。思い出すように、何処か懐かしむような笑みだ。
「よくよく考えると、姉さんなら笑い飛ばすだろうな。寧ろ分身の術とかやりそうだよ」
そう笑う善継の顔は明るい。姉の死を悔やむのではなく、生きていた時を思い出し記憶を楽しんでいるようだった。




