2:ネットの者
魔物を殲滅し称賛される。ヒーローにはよくある事だが、特に真理にとってはむず痒い光景だ。人々の声も耳に入る度に不思議な気持ちになる。
由紀は一人氷を融かしながらため息をついていた。
「皆さんお怪我はありませんか? あっ、どうもー」
愛想を振り撒きながら手を振る真理。姉のこんな媚びたような姿は初めて見る。ぶっきらぼうでがさつ、愛嬌とは無縁の女性、それが黒井真理と言う人物像だ。
イラついていると真理が駆け寄り耳打ちをする。
「……ほら、由紀も。あたしらのイメージが会社に直結してるんだ。多少は愛想良くしなさい」
「う、うん」
無理やり笑顔を作るもどこかひきつっているようにも見える。由紀はこういった行為を毛嫌いしているからだ。
「伯父さんには恩があるんだから、少しは我慢して。親戚だろ」
「わかってるよ。けど、どうも苦手で……」
肩を落とし氷を融かしきると、アスファルトの地面が顔を出した。
帰ろうと刀を消すと二人に声をかける人物がいた。
「ちょっと待って! ああ、カメラカメラ」
髪を紅白に染めた奇抜な頭をした若い男性。スマホを自分に向けながこちらに駆け寄った。勿論二人は知らない人物だ。
「はーい、只今緊急生配信をしておりますクックルチャンネルのドゥドゥです。なんと、偶然! 現在人気爆発中、勇者とヒーローの共同チームである魔法少女戦隊オルタナティブの魔物狩りに遭遇しちゃいました~。せっかくの機会なので、噂の美少女戦士にインタビューしちゃいまーす!」
二人の顔が固まる。どうやらこの男性は動画配信者のようだ。
こういった輩は今に始まった事じゃない。特に人気があるヒーローには付き物。会社の宣伝もあり、最近話題の二人もついに目をつけられたかと内心ため息をつく。
魔物狩りを盗撮された事はあるが、こうして直接声を掛けられるのは初めてだ。やはり勇者である由紀を恐れているからだろう。だがこの男性は違うようだ。
今にも手を出しそうな由紀を抑えながら真理が前に出る。
「あのー、すみませんがこういうのはお断りさせていただいてまして。配信を切ってもらえませんか?」
「んな事言ってもさ、今どんどん視聴者増えてるよ。ほらほら笑って笑って」
姉としてあくまで冷静に、穏やかに対応するも彼は聞こうとしない。ドゥドゥと言う男の中では配信の方が優先なのだろう。
流石に真理も青筋が浮かびそうになる。深呼吸をし怒鳴りたいのを抑えた。
「あのですねぇ。いい加減に……」
その時、真理の言葉を遮るようにエンジン音が割り込む。
「はい、そこまで。勝手に撮影するんじゃない」
バイクから降り真理達の前に割り込む異形の男。蜘蛛の巣模様のコート、ロングヘアーのような脚、黒いバイザーから覗く赤い瞳。ヒーロー名メタルスパイダー、本名八ツ木善継。彼が向けられたカメラを遮った。
「ちょ、邪魔すんなよ。てかあんたみたいなロートルヒーローはお呼びじゃないの。むしろみうみうちゃん連れてきてよ。みんなもそう思うだろ?」
画面の中ではこの配信を見ているのであろう人々のコメントが流れる。邪魔だ。引っ込め。そんな心無い文字が善継を批難する。
善継は一瞬戸惑う。しかしこの程度で引っ込むなんて事はできない。むしろこんな言葉は日常茶飯事だ。魔法少女の間に割り込むおっさんと呼ばれ、ネットでも叩かれているのを知っている。
「ったく。君もいい年してんだから、こっちも迷惑だってのわからんのか? 二人とも、先に帰ってろ」
「……行くぞ」
「あ、うん」
善継に促され真理は由紀を掴み飛んでいく。男は追い掛けようとするも、当然善継は引き止める。
憎らしげに睨まれるも痛くも痒くもない。
「おいおい、こっちはチャンネル登録四十万のネッチューバーだぜ。俺の邪魔をすんなよ。お前、炎上するぞ」
「ハァ。あのね、勝手に動画に出す方が問題だろ。そんなに出てほしかったら会社通せ。それが筋ってもんだ」
「いや、こういう偶然があるから視聴者も楽しめるんだよ」
「言葉が通じないな。あんた、所謂炎上系ってやつか? とにかくあんまりしつこいと顧問弁護士に相談せにゃならんな」
弁護士の名に怯む。その隙を善継は見逃さない。バイクに跨がりエンジンを動かす。
「じゃあな。次やったら……出るとこに出てもらうぞ」
そう釘を刺し走り出す。
ドゥドゥの配信では善継を批難する声だけでなく、彼の非常識な行動を注意する者も現れ始める。
悔しそうに地団駄を踏む中、彼らのやり取りを眺めている一台のリムジンがあった。そして善継の姿が見えなくなるとどこかへと走り去っていくのだった。




