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1:日常と書いて非日常と読む

 街は平穏であるべきだ。人の悲鳴、嘆き、そんなものが聞こえて良い場所じゃない。平和とはもっと明るいものだ。

 だが人の世を脅かす存在は多々ある。その主になるのは犯罪者だろう。しかしここにはそんな人間を超える力を持つ脅威がある。

 魔物。一昔前は空想の中の存在であったモンスターが地球を襲っている。

 異世界への召還。魔物やそれを統括する魔王に困った異世界人が地球から勇者を呼び、その結果居場所を失った魔物が地球へとやってきた。一見彼らは被害者に見えるも現実は違う。

 魔物は人類の敵だ。

 そんな魔物から人々を守る存在がある。それがヒーローだ。




「スゥ……はっ!」


 胸元の開いた赤と青のドレスに猫耳と尻尾。ショートカットの少女、黒井由紀がその服装と見合わない武器を振るっている。

 彼女の前にはボロボロの西洋甲冑達。それには中身は無く、首や腕の欠けた空っぽ鎧だけが少女に襲い掛かる。正にモンスターだ。

 しかし由紀にとっては恐れる必要は無い。ただの人形だ。炎と氷の刀を振り回すと、炎の斬撃と氷柱の矢を飛ばし鎧の亡霊を一撃で消滅させる。

 ただ、由紀の力は強大だ。炎も氷柱も鎧を破壊しただけでは足りず、そのまま近くの車や自販機に被害を出してしまった。


『妹さん、もっと威力を抑えて。いくら保険が適用されるとはいえ、やりすぎるとこっちも弁償しなきゃいけない』


「は、はい」


 帽子の仕込まれた通信機から声が聞こえる。自分達の司令、ベテランヒーローの八ツ木善継だ。

 彼の指示は間違っていない。彼女の視線の先には炎上する車と氷柱でめちゃくちゃになった自販機。幸い人的被害は出ていないが、鎧達を貫通し周囲まで破壊してしまう。

 勇者の力。それは人間一人が持つには過剰な力。人間核兵器とも呼ばれる規格外の存在。

 手加減が難しいのは善継も知っている。だけど力の加減は必要な事。敵を滅ぼすだけなら全力で焼き払えばいい。しかしここは街の中だ。彼女は守る側。人間だけではない。

 街、そこにある物も守らねばならないのだ。壊してしまえば当然責任に問われる。この場合由紀ではなく雇っている会社、二葉製薬がだ。

 由紀は直接切り付ける戦闘スタイルに変える。走りながら刀を振り、力任せに鎧達を叩き潰していく。


「ユッキー!」


 彼女を背後から狙う鎧を、黒い粘液の弾丸が撃ち抜く。全身を穴だらけにし倒れ伏す金属の塊。見上げると蝙蝠の翼を広げた黒い魔女が銃をむけている。

 由紀より小柄で幼い風貌にボサボサの無造作に伸ばされた髪。由紀の姉、真里が空から魔物を襲撃している。


『マリリン、相手は対空戦力が無い。その分妹さんに負担がかかる』


「わかってる。けど勇者なら問題無いだろ」


『だがヒーロー同士なら連携は必要だ。それに逃げ出す魔物を抑えるのが仕事だろ。ほら、七時の方向』


 善継に言われ確認すると、こそこそと逃げ出す鎧が一体いた。


「あっ。逃がすか!」


 翼を羽ばたかせ追い掛けようとするが、彼女よりも先に由紀が素早く跳躍。炎の斬撃で頭から一刀両断にする。

 黒い塵となって消えていく鎧の亡霊達に由紀は切っ先を突きつける。


「残り三。そろそろ片付けよう、お姉ちゃん」


「あ、ああ。スパイダー、どうする?」


 帽子に触れ、スパイダー……善継に聞く。


『妹さんに大技を使わせる訳にはいかない。ならわかるな?』


「あたしがやるのか。ユッキー、フォロー頼む」


「うん。行けっ!」


 由紀が地面に氷の刀を突き刺す。刺さった先から地面が凍てつき、地面が氷っていく。走る氷は鎧達の足を捕え動きを封じる。

 どれだけ暴れようと逃げられない。中には足を切り落とし逃げようとするも、逆に腕を氷らされてしまう。


「よし」


『チャージ!』


 首から下げたコンパクト、クロスギアの表面を叩くと女性の声が響く。力が沸き上がる。銃を握った手に力が入る。


「ぶち抜け!」


 広げた翼が細かく崩れていく。小さな粘液の破片は生き物のように動きながら蝙蝠の大群へと変形した。


『必殺デストロイ!』


 蝙蝠達が無人の鎧に群がる。一匹一匹が鎧に噛みつき食らいつく。逃げる術を失った鎧達は一方的に貪られていく。噛みちぎり傷口が塵となって消え、あっという間に霧散した。

 残されたのは不自然に手足の後を残した氷だけ。そんな彼女達に拍手喝采を浴びせる人々。

 そう、市民達だ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 人を容易く殺せるような害獣の駆除現場に、なんで市民がいるんだ? 危機管理意識が最悪な世界観だわ。
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