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0:裏側の者

二章開始します

 殆ど人の通らない暗い廊下、一見ここは病院にも見えるが違う。どこかの研究所のようだ。

 その廊下にある部屋。壁に埋められたカード式のオートロックの上にはこう書かれている。


 検体二十三番 堤春人


 部屋の前には二つの人影が気になったように立ち止まる。白衣を着た中年の女性と若い男性だ。


「あれ? 主任、ここに検体っていましたっけ? てか二十三番って……」


「ああ、最近勇者が一匹捕獲できてね。しかも脊髄損傷による全身麻痺、それをヒーローがやってのけたのだから驚きよ」


「ヒーローが? んな馬鹿な……。だけど本当なら最高ですね」


 男性は驚きながらもどこか嬉しそうに微笑んでいる。世間では勇者よりもヒーローの方が圧倒的に人気だ。彼も勇者よりヒーローを応援している。


「僕の姉なんですけど、学生の頃女勇者に脅されて彼氏盗られた事あるんですよ」


「よく聞くわね。娘も友達が勇者に強引に付き合わされてるってぼやいてたし」


「うわぁ」


 女性はため息をつき肩を落とす。彼女の目はノスタルジックな、何か残念そうな色をしている。


「昔はまだマシだったよ。バカでお人好しな勇者が多かったから。異世界人に魔王を倒してって頼まれて、やってやるって人が勇者に多かったから。だけどいつしか召還される人は変わっていった」


「……冴えない人生の逆転。そうなっていってますからね」


「抑圧された鬱憤が爆発し、勇者は我欲にまみれた災害と思われてる。ここの堤って勇者も同じようなものよ。さっ、仕事に戻りましょ」


 二人が立ち去り数秒、まるで人気が無くなったのを確認するような静けさだ。

 堤春人が収容されている部屋の扉が開く。


「……行ったかな。フフフ」


 同じように白衣を着た若い女性がほくそ笑みながら出てくる。彼女の手には赤黒い液体、血液の入った採血管が三本握られている。


「ここに勤めててラッキーだったわぁ。まさか勇者の血が一本百万で売れるなんて。輸血したら勇者になれるとでも思ってんのかしら? まだそんな迷信を信じてる連中がいるなんてね。とっくに試されてるのも知らずに……」


 ウキウキとスキップをしながら彼女は立ち去る。ちょっとした小遣い稼ぎ、そんな軽い気持ちなのが見てわかる。

 彼女が去る直前、閉じていく扉から小さく懇願する声が聞こえたのも気づいていない。


 殺してくれと呟く声に。

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