50:くそったれ異世界召還
爆煙が風に飛ばされ消えていく。ただ一人、立っているのは善継だけ。
黒い塵へと消えていくコスチューム。身体中から血を流し倒れる春人。呼吸は途切れ途切れで苦しそうだ。
まっすぐ見下ろす善継。顔を横にしたまま微動だにしない春人は憎悪の目で睨む。
「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる」
もはや呪詛だ。敗北し地に倒れているのが余程屈辱的なのだろう。彼から発せられるのは怒りと憎しみだけ。
そんな彼を善継は冷ややかな目で見下ろしていた。
「怪我が治ったら真っ先に殺してやる。お前の家族も目の前で殺してやる。自分から殺してくれって言うまで拷問してや……」
「無理だ。気づかないか? お前、身体の感覚無いだろ」
「は……?」
何の事かわからなかったが、首も動かせず土に触れている感触が無い事に気づく。
「脊髄を破壊した。お前はもう身体を動かせない」
「待て……それって」
「嬉しいだろ? 植物のような平穏な人生を送れるぞ」
頭の中で状況の理解が進むに連れ冷や汗が出てくる。
「戦う必要は無い。ああ、それに女の子を抱く必要もなくなったぞ。子供ができたら責任とらなきゃいけないからな。どうだ?」
「…………嫌だ」
悲痛な声。
「そんな、一生このまま? 嘘だろ? 俺はもっと暴れたい、可愛い子は俺のモノにしたいんだ。頼む、助けて……」
「医者も治さない、いや治せない。勇者法でお前は粛清対象になったからな」
「…………殺してくれ」
絞り出すような声。力をひけらかす事もできない、女遊びも不可能。自分が求める快楽に触れる事が永遠にできない。そんな人生は嫌だ。なら死んだ方がマシだ。
だが善継は許さない。
「言っただろ、死に逃げさせないって」
「…………」
震え絶望にうちひしがれている春人にアマニダが歩み寄る。彼女もまた春人を見下ろしている。
「よくわかんないけど、一生動けない? みたいね」
「アマニダ……助けて」
「……無理ね。魔王と組むような人は助けられない。ただ、それさえ無ければ私は首輪無しでも従ってたかな。負い目もあるし」
「負い目?」
しまったと口を押さえる。だが言ってしまった事は変えられない。アマニダはため息をつくと話し始める。
「ねぇ春人、ちょっと考えてみて。どうして王国はあんたの力に気づかず無能って追放したと思う? どうしてちょうど王国に恨みを持つ美少女奴隷がいるの? しかも売れ残りだなんて、不自然じゃない?」
確かにそうだ。どうして勇者の力に気づかない? それにアマニダは善継から見ても美しい女性だ。買い手に困るだなんて考えられない。
だからこそ気づく。
「まさか……」
「ええ、全部仕組んでいたの。私達獣人が土地を取り戻す為に、こいつは利用されていたの」
春人は言葉すら出ないくらいに憔悴している。
「召還した魔法使いも国王に反感を持ってたから協力してくれたわ。私を売った奴隷商だって耳と尻尾を切り落として人間のふりをした仲間よ」
少しだけアマニダは笑っていた。
「自己肯定感と自己愛の塊みたいなあんたは、王国に恨みを持った。そんな時に獣人の話を聞き大義名分も手にした。楽しかったでしょ? 国を滅ぼしたの。だからね、私らも恩もあるし利用した負い目もある。だから私は奴隷になった。本当なら首輪も偽物の予定だったのよ?」
「だけどお前は堤を見限った」
「当たり前じゃない。チキューからしたら厄介な魔物くらいしか考えてないけど、獣人や向こうの人間から見ても魔王は最悪の敵。私の罪悪感もひっくり返ったわ」
善継は拳を震わせる。彼女が、彼女達が全ての元凶だったのだ。
「貴様!」
襟に掴みかかる。体格差のせいか持ち上げられずつま先立ちになってしまった。
「言っとくけど、こいつは私達がやらなくてもいずれ召還されてたでしょうね。馬鹿で欲と劣等感にまみれた人間なんて、勇者に持ってこいの人材よ。ちょっとちやほやして女の子をあげれば簡単に従う。利用したら餌を絶ってチキューに自分から帰るよう誘導すれば良い。本当……」
ゆっくりと善継に顔を寄せる。鼻先が触れるような距離まで。妖艶かつ侮蔑を込めた目で善継を見ている。
「狂った人間ね。劣等感に潰されながらも自己肯定感とプライドだけは高い。無能なくせに欲望にまみれてる。そんな人間がいる限り、勇者召還は無くならない」
「…………!」
嫌な言葉だが否定はできない。イジメられっこ、ニートに社畜は無くならない。異世界人が呼びたい人材は山ほどいる。
魔物の脅威が無くなれば止まるか? 否、次は人間同士の戦争に利用される。これからも勇者は生まれ続けるだろう。
「……くそったれが」
「お互い様でしょ?」
言い返せなかった。自分の行いを正当化させるつもりは無い。勇者に対する憎悪と言われれば否定しない。人一人の人生を壊したのだから。
静かになった学校。遠くから近づいてくるサイレンの音。事件が終わったとそう告げていた。




