49:魔法少女VSヒーロー
「前会った時言っただろ、二十八だってな。俺にも色々あるんだ」
「……うう」
男をナンパしていたのがショックだったのだろう。再び愕然としている。
「さて、こっからは容赦しない。俺がお前を地獄に縛る糸だ」
「カッコつけんじゃねぇ!」
拳を振り上げ殴り掛かる。外から見れば少女を襲う暴漢だ。
今の善継では体格差は明白。だが彼は避けようともせず、正面から春人の拳を片手で受け止めた。
「え?」
拳はピクリとも動かない。それどころか握られた拳がメキメキときしみ悲鳴を上げる。
「遅い」
手を払いバランスを崩した所で跳躍。膝蹴りを顔面に直撃させる。
「ぶっ……」
蹴られた痛みは小さいが、衝撃で脳が揺さぶられる。それでも踏み止まりもう一度拳を突き出す。
善継は後ろに跳びながらワイヤーを投げ腕に巻き付けた。
「甘い」
ハンマー投げのように回転し春人を振り回し、身体を浮かせると全力で地面に叩き付ける。土煙が高く立ち上ぼり、その中から春人は這いつくばりながら出てくる。
「ぐぅ……何で、何で。俺は被害者だ、復讐者なんだ……うあぁぁぁぁぁぁ!!!」
がむしゃらに腕を振り回し殴り掛かるも、その間を縫うように避けて溝尾を蹴る。痛みにむせながら膝をつきうつむいた。
「お前は確かにイジメられていた。やり返したい気持ちも理解できるし…………俺には想像つかない苦痛があったんだろう」
「うざいんだよその上から目線が! 俺は勇者だぞ、主人公のような選ばれた存在なんだぞ!」
「ならその力をもっと世界の為に使えばよかっただろ。ギアの開発だって勇者が協力したからできたんだぞ。同じ立場で手を取り合えるはずなのに」
「冗談じゃない。俺はもう搾取されはしない。俺は、俺は奪う側なんだ!」
再び蹴り掛かるが、軽く受け流し後ろに回り込み背中を蹴る。更に背中から蜘蛛の脚を伸ばし連続で突く。
黄土色の装甲を削り、何度も殴ると回し蹴りで突き飛ばした。
「ぐぁ……」
「イジメていた連中と同じになってどうする。そんな奴らと同レベルだなんて嫌だろ」
「違う……」
砂を握り立ち上がる。泣いているように声がかすれ、足も震えている。
「俺は違う。俺を傷つけたのが悪いんだ。俺は正しいから違う…………俺が正義なんだ!」
拳を振り上げ善継の額に打ち付けた。目の形をした髪飾りにひびが入り額から血が流れる。
善継の目はじっと春人の方へと向けられている。暗くじっとりとした瞳だ。
「正義か。そんなのお前の妄想でしかない」
「妄想じゃない。俺をみんな裏切った。アマニダだって……」
「もういい」
拳を払いのけ右手にワイヤーを巻き鋼のグローブで胸をなぐる。今までで一番重い一撃。めり込んだ拳を中心に、装甲の表面に亀裂が走る。
「まだまだ……」
ワイヤーをほどき今度は蜘蛛の巣型のカッターを両手に生成、連続で切りつける。コスチュームを貫通はしなかったが、止まらない連撃に切り傷が増えていく。
「うあ……」
怯える声が溢れるが善継は無視をする。
更に周囲に爪先から太いワイヤーを出すと、蹴りと同時に鞭のように春人を打ちのめした。
地面を転がり砂に汚れ、全身の傷口からは火花が散っている。
「嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ。俺がおっさんなんかに負けてたまるか!」
春人はギアのレバーに触れる。ヒーローの奥の手、必殺技。メダルの力を瞬間的に引き出し最大の一撃を繰り出すのだ。
だがレバーを回しても何も起きない。何度も回してもうんともすんとも言わないのだ。
「何だこれ? 壊れてんのか?」
「壊れてない。さっきも言っただろ、メダルが拒絶しているって」
「あ……」
真理の言っていた事を思い出す。
「精霊を抑える為にコスチュームだけは生成したようだが、お前に力は貸さないようだな」
「ど、道具の分際で……」
「じゃあ、終わりにするぞ」
ギアの表面を軽く叩く。
『チャージ!』
力が沸き上がる。身体中から闘志が燃え上がる。その瞳は狩人の目だ。
圧倒的不利な状況、対抗手段すら手元に無い事に春人は気づく。
「う……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
彼が選んだ選択は惨めに泣き叫びながら逃げる事、だった。自分が好む状況、ただし狩る側での話だ。嬉々とし嘲笑いながら嬲る存在に自分がなっている。
『必殺撃滅!』
善継は容赦しなかった。嘲笑う事もなく、粛々と逃げる獲物に牙を突き立てよう。
「はぁ!」
跳躍し右足に蜘蛛の脚を展開。蹴りと共に鋭利な先端を突き刺す。春人の背中、その中心の背骨に添って。
コスチュームを貫く抵抗感、骨を破壊する嫌な感触が足に伝う。
「朽ちろ」
亀裂がコスチューム全体へと広がり、火花が添って走ると……光を放ち爆散した。




