48:TRAP
善継だけでなく由紀も開いた口が塞がらない。想定外を超えた最悪の事態だ。
(もしかして真理の言う勇者を倒す術って、勇者から精霊をひっぺがすとかか? 逆にメダルがあれば使えるとか……どうなってる?)
頭がぐちゃぐちゃになる。しかし今はそんな事を考えている場合じゃない。
目の前にいる飛蝗男となった春人をどうにかしなければならない。
「さてと。サンドバッグもある事だし、色々やってみたいな。そうだ火炎キックとかいいな。おっし、加減してやるから、ちゃんと立ち上がるんだぞ。他にも試したいからな」
そう言いながら春人は足を引く。飛び蹴りをしようとしているのだろう、腰を落とし跳ぼうとする。
だが跳ねる事はなく春人は硬直する。
「………………あれ?」
春人は自分の足を見る。何も異変は無い。だが春人は次第に焦ったように地団駄を踏み、手をかざし狼狽える。
「何でだ? どうして、どうして魔法が使えない?」
「…………まさか」
善継は真理の方を向く。彼女は顔を伏せて震えている。
「ク……ククク……アッハハハハハハハハハハ! バーカ! 引っ掛かったな間抜けめ」
大声で笑い出した。どこか悪質で嫌味ったらしく、こんな笑い声を真理がするとは思ってもいなかった。
「善継、これがヒーローが勇者を殺す術だよ。おい堤、お前はもう勇者じゃない。ヒーローだ」
「ヒーロー? どういう事だ!」
「こいつは確かに勇者にも使えるギアだ。だけどな、一つだけ落とし穴がある。これを使いヒーローに変身すると、精霊の力が上書きされるんだよ。フィル今、お前の身体に混じった精霊は抑えられ、メダル一枚分の力しか使えないのさ」
「…………!!!」
「そういう事か」
不可解な真理の行動にも合点がいく。全て春人を誘導していたのだ。あんな大声でヒーローになれると言えば飛び付くと予想していたのだ。
「ふざけやがって。こんなもん」
春人はメダルを外そうとする。しかしメダルに触れた瞬間、電流のようなものが身体を襲った。
「あぐぅ……!? な、なんだよこれ?」
「まさか、メダルが拒絶している?」
「そうさ。メダルには、精霊には自我がある。あたしらとコミュニケーションはとれないが、そこには意思があるんだよ。メダルも怒っているのさ、相棒を殺されてな」
応えるように一瞬飛蝗のメダルが光る。
「ちぃ。アマニダ、こいつを外すのを手伝え! ……おい!」
春人が叫ぶもアマニダは動かない。焦る春人を数秒眺めると、奴隷契約の首輪に触れそれを外した。
「え?」
ガシャンと音を立てて落ちる首輪。それなりに重さがあったせいか、首を鳴らしながらアマニダはため息をつく。
「成る程ね。言ってる事はだいたい察したわ。精霊との繋がりが遮断されたって事ね」
「待てよ、どうして奴隷契約が?」
「簡単よ。私の奴隷契約の魔力は精霊から来ている。その繋がりが途切れたって事は、主が死んだのと同じ。忘れてた? この首輪って主人との魔力が途切れると外せるのよ。私はもうあんたの奴隷じゃない。だからあんたを助けない」
「!?!?!?」
顔が仮面に隠れていてもわかる。彼は驚き絶望している。
「いや、お前俺を愛して……」
「ハァ? あんたが無理矢理言わせてたんじゃん。私はね、あんたに惚れてなんかいないから。そんな事もわかんないの? あんたの頭って、そのぶらさがってる粗末なブツと同等なんだね」
春人は後退りながら身体を震わせる。怒りじゃない、絶望と恐怖からくる震えだ。
真理も由紀を置いて銃を構える。
「善継、今のあいつはヒーローレベルまでパワーダウンしている。これなら……」
「そうだな。だけど、悪いが俺一人でやる」
「善継?」
銃を諌め善継が前に出る。その背中に何か嫌な気配を感じる。
「……なあ善継。何であんなに挑発していた? 危険だろ。あたしにはまるで…………堤の心をえぐろうとしているようにしか見えなかった」
「否定しない」
「勇者が憎いのか?」
「憎いさ。だけどそのせいで飛田も…………だから俺がケリをつける。真理が手を汚す必要はない」
ギアの表面を叩いた。
春人の事を馬鹿になんてできない。結局自分もクズなのだ。彼を見ているだけで姉を殺めた男の顔が浮かぶ、勇者の我が儘を聞くだけで吐き気がする。
『セット!』
飛び出すのはワイヤーでできた結いぐるみの蜘蛛。それに気づいた春人も思わず身構える。
「堤。勇者法に従いお前を粛清する。だけど俺はお前を殺さない」
「……何だと?」
「お前を死なせはしない、お前には償いをさせる」
春人は肩を震わせ笑いだす。安堵したのか、それとも嘲笑か。彼の様子は一変する。
「殺す覚悟の無い奴が戦場に出るんじゃねぇよ。フフフ。そうさ、俺は負けない。相手はおっさんとチビと魔力切れの勇者に裏切り者だ。お前ら全員殺した後でこいつは壊せばいい。ヒーローの力だけでも充分だろう」
「違う」
善継はギアを握りしめる。
「俺はお前を逃がさないだけだ。死に逃げるなんて事は……させない。トランス!」
『ドレスアップ!』
善継の声に呼応し蜘蛛が抱きつき全身を包む。繭となった身体は縮んでいき、そこから小学生と見間違うような少女が飛び出す。
『魔法少女みうみう! 参上!』
「なっ……!?」
やはりと言うか、春人は善継の姿に驚く。誰だってそうだろう、善継も同じ反応をしていた。アラサーの男が小学生くらいの少女に変わったのだ。




