47:諦めない心
善継は二人を庇うように前に立つ。右手の指からワイヤーを、左手は握り腰を落としていつでも飛び掛かれる構えをとる。
肩で息をしながら寄ってくる春人に、善継も少しばかり希望を抱いていた。これだけ消耗しているのだ。もしかしたら勝てるかもしれない。そんな期待と知識である勇者の脅威に板挟みになる。
「やるじゃねぇか。正直消されるとは思ってなかったぞ。けどまぁ…………消耗しきったお前は怖くない」
「……怖くないか」
何気ない春人の一言が引っ掛かる。
「堤、お前はやっぱり臆病なんだ」
「はぁ?」
春人の視線が善継の方に向く。その間に善継はワイヤーを一本真理の額に飛ばした。
「愛がある、心が繋がっていると言いながら奴隷を解放しない。正面から戦わず魔王をけしかける。お前は自分に自信が無い」
「違う!」
「それを認めず周りを下に見ようとした結果、今までイジメられてきたんだ」
「…………!!!」
春人は一気に顔を真っ赤にする。図星だからだ。
善継は煽りながらもワイヤーを伝い真理に話し掛けた。
『真理、あの勇者に勝てるシステムってどうやって使うんだ?』
『えっと、今使うのは危険だし一枚足りない……てか、ギアをあいつに着けさせなきゃいけないんだ』
『はぁ?』
何故そんな手間が必要なのか理解できない。そもそもギアを勇者に着けたからといって何の意味がある。毒針でも仕込んであるのだろうか。
理論上は可能だろう。今すぐ魔法少女に変身しなおし、空いたギアを春人の腕に巻くのだ。
だが彼がそれを許しはしない。
「黙れ!」
「っ!」
放ったのは小さな炎球。すぐに気付き盾を作る、だが……
「がっ!?」
善継を包むような爆発。全身を焼かれるような感覚と殴られたような衝撃に身体がひっくり返った。
「うぐっ……」
地面を転がりながら変身が解ける。ギアが腕から外れてしまったのだ。
(くそっ、挑発し過ぎたか? てかあんな魔法使った後なのにこんな威力が出るなんて)
攻撃されるのは想定内だ。だがあの疲れた表情から力は大きく低下していると想像していたが、大きく外れてしまった。
目の前にメダルがころがってくる。相棒たる蜘蛛のメダルだ。それを砂ごと握り立ち上がる。
「口には気を付けろよおっさん。俺の機嫌でテメーらの生死が決まるんだ」
「悪いが機嫌取りをする気はない」
「まあいい。由紀、お前が今すぐ奴隷の首輪を着けて俺に跪けば、姉ちゃんは助けてやるぞ」
「……」
由紀は何も言わない。春人がそんな約束を守るとは思っていないからだ。それはここにいる全員が思っている。
「聞く耳を持つな妹さん。どうせ真理も奴隷か魅了魔法を使うに決まっている」
「黙れ。生身のお前なんざ、さっきの半分の威力で充分だ」
「それはどうかな?」
善継の手にはクロスギアが握られている。この状況で魔法少女に変身するのを躊躇う程愚かではない。
変身しようと蓋を開けた時、男性の雄叫びが校庭に響く。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
『Finish!』
飛田だ。幸い無事だった彼が春人目掛け飛び蹴りを繰り出す。
背後からの奇襲。それは悪くない。だが一人きりなのがまずかった。
「飛田、待……」
嫌な予感は的中した。黄色い光を纏った飛び蹴りは春人の身体に触れる事はなく、割り込んだ水の塊に阻まれる。
それだけでは終わらない。水はそのまま球体に変形し、飛田の身体を飲み込む。
「くっ!」
急いで変身しなければ。メダルを入れるも春人が包丁を作り振り上げる方が早い。
「みじん切り」
包丁が水を切る。いや、通り過ぎる。飛田を捕らえた水は形を変えず、ただ静かに春人の前に浮かぶ。
「あ……」
無数の斬撃が同時に飛田を襲い、水の塊は一瞬で赤い塊へと変色した。
「飛田……」
「おいおい、何を驚いてるんだ。百回の斬撃を同時にやっただけなんだが? 普通だろ?」
「っ! 堤ぃ!」
荒ぶる気持ちを押さえきれない。彼は命を奪ったと思っていない。ゲームで裏技のようなテクニックを披露し、このくらい普通だとイキリ自慢しているのと同じだ。
まともな人間の感性とは思えぬ所業に善継も我慢ならない。
そんな中、真理は血と肉の塊となったモノの中で僅かに光を放つものを見つける。それは飛田の使っていたメダルだ。続くようにアマニダ、春人、転がっている善継のギアに目が移る。
「…………」
息を飲む真理。視線を落とし逡巡するが、意を決したように前を見る。そして焦ったように怒鳴り出した。
「善継! 急いでギアを回収するんだ!」
「っ! そう言えば」
善継は思い出す。彼のギア、スピリットギアには打倒勇者の特別な仕掛けがある。それを失ってしまえば完全に詰みだ。他の勇者が来るのを待っている間に全滅する。
だが真理の言葉は彼の考えとは全く別物だった。
「お前のギアは新型だ。勇者が使えるギアなんだろ! 絶対に堤に取られるな!」
「……?」
「あいつに使われれば、文字通り地上最強の勇者になる。神を超える存在になっちまう!」
何を言っているんだ。善継と由紀は真理の言葉に思考が停止する。
それもそのはず。勇者が使えるのはクロスギアであり、スピリットギアではないのだ。
二人が真理の意図を理解するよりも先に、春人は口角を吊り上げアマニダに命令した。
「アマニダ、そこに転がっているやつを持って来るんだ!」
「……はい、ご主人様」
それからは一瞬の事だった。流石は獣人。人間よりも素早く走りギアを拾うと春人へと手渡した。
「へぇ? 勇者にも使えるギアか。成る程、そいつはいいもんだ」
春人は笑いながら左腕に着ける。
「ずっと思ってたんだよ。お前らヒーローは雑魚のくせに見た目だけは優秀だって。俺も目立ちたくないからさ、お気に入りのイラストレーターにデザインさせた服装でさ、顔も隠したかったんだよ」
背後の赤い塊に手を入れる。そこからとりだしたのは飛蝗のレリーフが描かれた飛田のメダル。
「飛田だっけか? あいつもデザインだけは悪くなかったから、目障りだったんだよな。だがヒーローと勇者の力か。最高じゃないか!」
『Set!』
メダルをはめると頭上に赤い六芒星の魔法陣が描かれ、ガチャガチャのカプセルが現れる。
善継も目が点になる。本当に勇者が使えたのだ。本来なら使えないはずの者が。
『Something is coming out! What is it?』
「ガチャ!」
『Pon!』
カプセルは春人を食らい爆ぜる。散り散りになった破片が光を反射し輝く中、飛田と同じ飛蝗を模したコスチュームを身に纏った春人が姿を現す。
『My kick crushes everything』
「ほぅ? なかなか着心地は良いじゃないか」
楽しそうに笑う春人。先程の疲れた様子も無く、ただ満足げに自分の顔を撫でていた。




