46:規格外に抗う者
あり得ない。そう、これはあくまで例えだ。本物の太陽が地上に現れれば、今頃全てが蒸発している。太陽と錯覚すような大きさと熱量の塊。人間個人が使えるような代物ではない。
改めて勇者の異質さと力の差を見せつけられている。
「迎撃……いや、相殺したとこで余波の被害が抑えきれない。あいつ何考えてやがるんだ!?」
善継もどうにかしようと頭を必死に動かす。だが考えれば考える程どうにもならないと察してしまう。
そもそも春人がこんな大掛かりな魔法を使うのが非常識極まりない。人間数人をしとめるようものじゃない。もっと巨大な魔物に使うはずだ。
だがこの場にはもう一人規格外の力を持つ者がいる。
「……私が押さえ込みます。私にしかできない」
「由紀!?」
由紀が一歩前に出た。炎の刀は消え、両手に氷の刀を握る。
「妹さん、できるのか? ただぶっ壊せばいいって問題じゃないんだぞ」
「わかってます。だけど今この場で対抗できるのは私だけですから。私は……勇者です」
彼女の言う通り、こんな大事は勇者でなければ対処できない。由紀がどうにかしなければならないのだ。
善継としても高校生である彼女に無茶をさせたくないし、真理も不安しか頭にない。それでも勇者を倒せるのは勇者だけ。他の勇者を待っている時間は無い。由紀がやらねばならないのだ。
春人を見上げ睨む由紀。その視線に春人も舌打ちをする。
「生意気だな。逃げるやつを背中から嬲るのが楽しいのに。つまらん、死ね」
手をゆっくりと下げる。動きに合わせるように巨大な炎が地上へと降りてきた。
暑い。一気に南国に飛ばされたような錯覚すら感じる。
「……くそっ」
善継には見ているだけしかできない。ヒーローである彼にできる事は逃げるか指を咥えて眺めるだけだ。
空高く飛び上がった由紀の背には氷の翼が広がり、周囲に冷気をばら撒いていく。
『チャージ!』
「調子に乗らないでよ、堤春人!」
髪が凍り頬にも霜が広がる。息は白く変色し寒さに身体が震える。しかしこの寒さは眼前の炎に向けるもの。
破壊するための力じゃない。押さえ封じる力。勇者の振るう暴力とは違う方向に向けなければならない。
『必殺フィナーレ!』
刀を前に突き出し重ねる。冷気が広がり丸い氷の塊を作っていく。
巨大な猫の頭だ。大きく口を開き、鋭い氷柱の牙を並べ太陽に噛み付いた。
お互い一進一退。猫の頭は溶けながらも再生を繰り返し炎の塊を冷やしていく。寒さと暑さが同時に襲い掛かり異常な気温に吐気がするくらいだ。
「アアアアアア!!!」
由紀の血液が沸騰するような感覚。勇者同士の争い、魔物とは比べものにならないレベルの力との衝突。あの巨大なロックドラゴンが人形に思えるくらいだ。
それでも由紀は止まらない、止まれない。ここで退けばどうなるか想像するのは簡単。ならばやる事は一つ。
「飲み込めぇ!」
咆哮と同時に氷の猫が炎の塊を飲み込んだ。一瞬赤く光ったかと思うと、氷の猫は白い蒸気となって空を覆い尽くした。
「……やった?」
破壊せず打ち消した。多少熱気が残るも空を隠す蒸気の雲が日の光を隠す。
「流石だな妹さんは」
「………………っ!」
空を見上げていると真理が翼を広げ飛翔した。彼女が見ているのはただ一点、ぐったりと力無く落ちていく由紀だった。
「由紀ぃ!」
空中で妹を捕まえ、ゆっくり羽ばたきながら降りていく。由紀の顔は青白く息も絶え絶えだ。
地上に到達すると善継も駆け寄る。
「ハァ、ハァ…………ごめん、ちょっと魔力使い過ぎたかも。精霊がダウンしてる」
どんな強力な力も無限ではない。勇者だって同じだ。精霊の力は無限ではない。使い過ぎればガス欠を起こす。
「嘘だろ由紀? ヒーローならともかく、勇者がパワーダウンを起こすなんて見た事無いぞ」
「いや、あり得る。特に勇者同士の争いならな。考えたくはないが……」
善継の視線の先、そこでは水の階段を少し疲れたように降りてくる春人と、その後ろを小さくなってついてくるアマニダがいる。
「精霊自身のスペックの差。おそらく……妹さんより堤の方が上なんだ。だから彼女がこれだけ消耗しているのに、堤にはまだ余裕があるんだ」




