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45:力の使い方

 校庭では魔王シュラークの猛攻を由紀が耐えていた。右へ左へと振り回す鎌を何度も受け止める。次第に氷の刀にひびが入ると直ぐに捨て、新しい刀を作り出す。

 一方的な攻勢。手を出せない状況に苛立ちが募る。

 それでも神経を研ぎ澄まし耐える。


「ハッ! 無様だな勇者。だが最高だぞ。今まで我ら魔人達を蹂躙してくれた御礼、貴様の身体でたっぷりとしてくれる」


「何で私に……これだから異世界人って勝手なんだから」


 刃同士がぶつかり合い空気が揺れる。

 魔王に対抗する為に勇者を召還するのは異世界人だ。一方的に勝手に召還するのだから、むしろこっちは被害者と言っても過言ではない。それに由紀はシュラークとは初対面、異世界では魔人と会ってない。彼女からすれば八つ当たりのようなものだ。

 視線の片隅には大きくえぐれた校庭がある。ヒーロー達を一撃で抹殺した力。八つ当たりだからと言って、そんな危険な存在を放置するなんてできない。


「ほらほら逃げ惑え!」


 距離を離したシュラークが飛びながら鎌を振るう。その軌跡に添うように光の刃が形成され由紀目掛け迫る。

 刀を強く握り一歩踏み出す。力任せに振り回す刀が光の刃を次々と叩き潰していく。炎が光を焼き付くし氷が弾く。ぶつかり合う度に由紀の周囲が輝き踊っているようにも見えた。

 その時帽子に仕込まれた通信機から声が聞こえた。


『妹さん、人質は解放した。遠慮はいらん』


 朗報だ。ふっと肩が軽くなり思わず笑みが溢れる。


「……了解」


 善継の言う通り、もう遠慮する必要は無い。殺されたヒーローの仇も、さんざん馬鹿にされてきた恨みも、全部まとめて還してやろう。


「……何が起きた?」


 シュラークも屋上に集まったヒーロー達に気づき異変を察知した。彼女にとっては烏合の衆だとしても、あの間抜けな春人がやらかす可能性は高い。

 そしてその予感は的中している。由紀の笑みに気づいたからだ。


「さてと。攻守交代、逃げ回る時間はあげないけどね」


「クソっ、所詮は人間か。あの無能が……」


「その無能側に付いたのが運の尽きよ!」


『チャージ!』


 柄でギアを叩く。すると力が肉体を駆け巡り血液が熱くなる。

 容赦しない、慈悲もない。向こうが人間に害を成すのならこちらも同じだ。


「消えろ。私の家族に触れる前に!」


『必殺フィナーレ!』


 刀が肥大化し、巨大な猫の手へと変化する。炎と氷の手、鋭い爪を携えた数メートルはある豪腕。それを振るい、虫を叩き潰すようにシュラークを挟んだ。


「くぉ……!?」


 潰されまいと両手を広げ押さえ込む。魔王なだけあって耐えはした。しかし片手は炎に焼かれ、もう一方は冷気に感覚を奪われていく。


「お、おのれ……勇者め! 貴様らは……」


「消えなさい!」


 合掌。炎と氷の手に潰され爆散した。断末魔すら上げる間もなく、爆発の中から黒い塵が溢れ風の中へと消えていく。


「…………次」


 残念ながら感傷に浸っている時間は無い。もっと厄介な勇者が残っているからだ。

 校舎の方に視線を移した時、屋上に小さな光が点る。


「まずい……!」


 感じる膨大な魔力。それが何なのか由紀は察した。

 だが彼女が駆け付けるよりも早く、耳を千切るような爆音と無数の光が校舎の屋上に炸裂した。

 燃え上がる校舎。火だるまになり散っていくヒーロー。ギリギリで逃げたものの衝撃波に吹っ飛ばされる者。駆け付けたヒーロー達はいとも簡単に駆逐されていく。

 

「お姉ちゃん!」


 真っ先に頭に浮かんだのは真理の安否だ。まさかと冷や汗が頬を伝う。もしかしたら、そう考えるだけで心臓が握り潰されそうになる。

 その時、爆煙の中から何か黒い物体が飛び出した。それは大きな翼を広げ、フラフラとした軌道でこちらの方へと高度を落としていく。

 真理だ。真理が善継にしがみつき飛んでいた。


「よかった……」


 胸を撫で下ろし由紀は校庭に下り立った二人へと駆け寄る。


「お姉ちゃん、大丈夫?」


「ああ、何とかな。善継が防御に回ってくれて、直撃は避けられた」


「そうなんだ。八ツ木さんも無事でよかったです」


「俺達はな。何人かは逃げ遅れて……やられちまった」


 仮面の奥、赤い瞳が暗くなる。

 だが悲しんでいる場合ではない。まだ元凶である春人は無傷だ。とにもかくにも彼を止めなければ事件は終わらない。

 ふと上を見ればこちらを見下ろす春人の姿が。隣にはギリギリの所で守ったのだろうアマニダがいるが、彼女の髪は僅かに焦げていた。


「フフフ。こんな下級魔法すら耐えられないとか弱過ぎるだろ。なぁアマニダ?」


「…………嘘でしょ? 正気?」


 アマニダもひきつった笑顔のまま呟く。ドン引きしているのだ。二人の周りには焼け焦げ苦悶の声を漏らすヒーロー達。更に先程の魔法で校内も大混乱に陥っている。

 獣人の感覚から見ても春人の行動は異常そのもの。同じ目線で対話をする思考すら持たない魔人と組み、こんな惨劇を引き起こしたのだ。

 狂気。ここにいる誰もが春人からそれを感じていた。


「まあ、何もかも消しちまえば問題無い。シュラークは残念だが、俺にはアマニダがいる。それに新品で揃える方がいい」


 笑いながら左手を真上に掲げる。数メートルはある魔法陣が展開、空を歪めるような高熱が周囲を満たしていく。


「俺の邪魔をする者は全て消え去れ。俺の最大威力の魔法……最上級炎魔法(マキシマムウェルダン)


 空によく見知った光があった。本来なら一つしか存在しない光。

 太陽が春人の頭上に現れた。

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