44:ヒーロー達の戦い
善継が手を振るうと、指先から目に見えるかどうかの極細のワイヤーがばらまかれる。光を反射し輝く金属の糸が春人の周囲を囲んだ。
指をほんの少し動かせば鋭利な糸の刃が全身を輪切りにするだろう。
しかし圧倒的な力の前では小細工など児戯に等しい。
「弱い弱い弱い弱い弱い弱い!!!」
左手に灯った炎が一瞬の内に春人を包み、周囲のワイヤーを蒸発させる。勿論それは囮だ。炎魔法と相性の悪いのも善継は知っている。
ワイヤーが消えた瞬間、真理の銃が鍋を狙う。
そっと静かに銃口を向け引き金を引いた。
「ハハハ! 貧弱、虚弱、雑魚がぁ!」
それも春人は見ている。次は水を手から放つ。水は蛇のようにうねり、粘液の弾丸をまとめて飲み込む。
傷一つつけられない。思いの外戦闘時は視野が広い。彼の性格から考えてがばがばだろうと思っていたが、国を一つ滅ぼしただけはある。
「俺の力にひれ伏せ。命乞いをしろ!」
「速っ……」
踏み込んだかと思えば一瞬で距離を詰める。即座に蜘蛛の巣型の盾を編み構える。
「いちょう切り!」
盾と呼べるのかも疑問だ。文字通りいちょうの葉のように盾は切り刻まれる。
(料理だから刃物の扱いもってか? でたらめだろ)
下がりながら真理も援護射撃を止めない。しかし春人だけでなく鍋の周りも渦巻く水を抜けなかった。
「善継、どうすんだ! こいつ手加減しているのにどうにもならんぞ!」
「わかってるって!」
ナイフを作り投げるも、これも水に阻まれる。
「堤、どうして魔王と手を組む? あいつらが信用できると思ってるのか!」
「弱者には理解できないだろうな。俺は強い、強さが魔人の価値だ。俺は魔王ですら嫁にする絶対強者なんだよ」
続けて真理の撃つ弾丸と混ぜるように編んだ刺を放つも、次は包丁で軽く切り伏せられる。
触れる事すらできない。同じ土俵にいるのかすらも怪しく見える。
「先日の件もそうだ。こんな自作自演をして何になる。街を壊して人々を傷つけ、お前は何がしたいんだ!」
包丁を奪おうとワイヤーを巻き付けるが、即座に包丁から炎が吹き出し消滅させる。
「言っただろ。俺は平穏な人生を送りたいんだ。俺が安心して暮らせる世界、環境、それを整えてるだけなんだが?」
「それで周囲を傷つけては意味が無いだろ」
「お前馬鹿だな。世界が俺を傷つけたんだ。だから償いをさせている。それに……俺以上に優しい男はいないぜ」
「はぁ?」
真理も呆れて言葉を失う。
「今回もそうさ。俺はこの力で他の人も幸せにしてやらなきゃならない。だけど俺の手は無限じゃない。だから選別していたのさ。清い救うべき人をな」
「そこで選別って言葉が出るのがおかしいって気づかないのか?」
「気づくならここにいないっての」
自分に酔っているのだろう。言葉の一つ一つが噛み合わずめちゃめちゃ。幸せになりたいのに混沌を招くだなんて明らかに異常だ。
「わかってないな。まあ君も望むなら幸せにしてやってもいいぞ、由紀と一緒にな」
「お断りだ」
にやついたまま真理にウインクするも吐き気しか感じられない。
「あたしはな、年下はタイプじゃないんだよ」
「…………」
真理が騒いでいる中、善継は周囲を見回す。息を整え耳を澄ました。
聞こえてくるのは魔物達と戦うヒーロー達の声だ。すぐ近くまで来ている。
「…………よし」
善継はギアのレバーに触れる。
「真理、同時必殺技だ。準備ができた」
「任せな」
準備、その意味を真理も察し自分のギアに触れる。
『チャージ!』
銃を組み合わせ弓を作り、翼を広げ飛び上がる。
『Finish!』
善継もレバーを回し両手から蜘蛛の巣型のカッターを作った。
「いいぜぇ、来いよ。力の差ってやつを見せてやる」
逆に春人は楽しそうだ。ヒーローにとっての奥の手、それを正面から潰し優越感に浸るのが目的だからだ。
「「くらえ!!!」」
『必殺デストロイ!』
黒い矢と蜘蛛の巣の刃が同時に放たれる。
そして二人の攻撃に重なるように春人の背後から人影が現れた。
「は?」
春人も驚いただろう。十人のヒーロー達が屋上に集まり取り囲んでいたのだ。
「今だ! 総員一斉攻撃!」
ヒーロー達の頭には細いワイヤーが繋がっていた。善継は糸電話のようにワイヤーを使い、外のヒーローと連携を取っていたのだ。
確かにヒーローの力で勇者の防御を抜くのはほぼ不可能。しかし善継の目的は彼を倒す事ではない、人質の救出。魔物を殲滅したヒーロー達が駆けつけるのを待っていたのだ。
ヒーローも一斉にギアのレバーを回し攻撃を開始する。巨大化した剣を投げ、手から光線を、銃から雷を放つ。一人一人の力は勇者に及ばずとも、コスチュームのような防具を持たない春人には当たるだけで命に関わる。
「くそが!」
炎と水の渦が春人を囲む。竜巻のように肥大化し、ヒーロー達の攻撃を完全にシャットアウトした。
だがそれも囮だと彼は気づかない。経験の浅さ、自分以外全てを破壊する戦い方しか知らなかったのが彼の足下をすくった。
「飛田!」
「はいっ!」
自分の防御に夢中になったこの一瞬。飛蝗男が飛び出した。
『Finish!』
黄色い光をまとった飛び蹴り。自分を弾丸とし鍋を蹴り抜いた。
「あっ……」
春人が気づいた時にはもう遅い。ひっくり返った鍋から生徒達が投げ出され、即座に二人の女性ヒーローが連れて逃げた。
「よし。妹さん、人質は解放した。遠慮はいらん」
『……了解』
由紀にも通話を飛ばしホッとする。もう彼女を縛る物は無い。全力で魔王を仕止めるだろう。
だが縛る物が無いのは春人も同じだ。
「……てめぇら、俺をおちょくりやがって」
炎と水の渦を解き春人は善継を睨む。あれだけの攻撃を受けながらも、彼にはかすり傷一つ無かった。
「雑魚のくせに俺に歯向かうなんて許さない。ヒーローはおとなしく踏み台になってれば良かったんだ」
「…………」
わなわなと身体を震わせる様子に善継も冷や汗が流れる。
子供じみた身勝手な精神をしている彼が何を考えているのか、想像するのは容易い。自分が下だと思っている者に出し抜かれるなんて、春人のねじ曲がったプライドが許すはずがない。
「全員逃げろ!」
「生かして帰すか! 下級炎魔法連射!」
春人の指先一つ一つに炎が灯る。小さな炎はサッカーボール程に肥大化し、次々と増える炎球は屋上を埋め尽くし一斉に爆発した。




