43:立ち向かう者達
笑顔に苛立ちを超え憎悪すら抱きそうだ。それでも善継は心を凍らせ冷静さを逃さない。
まともに争っても勝ち目は皆無。更に人質までいる。彼の言う通り本気を出しても基本的に問題は無い。全力を出させて力の差を見せつけたいからだろう。
そこに付け入る隙がある。下手に追い込めば人質に手を出すだろうが、その前に人質を助け出すのがベストだ。
「真理、どうにかして二人を連れて離れろ。妹さんにはそれまで耐えるように伝えてくれ」
「…………簡単に言うな。そもそもあたしらが生き残れるかも怪しいんだからな」
善継は拳を構え真理は銃を抜く。冷や汗が二人の手に滲むが逃げられない。背を見せれば嬉々として狩りを始めるだろう。
「んじゃあやりますか。ワンパン即死の綱渡りだ!」
その頃校庭の真ん中で由紀は砂埃を払いシュラークと対峙する。
異世界に召還された彼女にとっても魔王と戦うのは初めての経験だ。魔人の中で最も力を持つ魔の長。見た目はグラマラスな女性だが、先日倒したロックドラゴンよりも強いだろう。
「……魔王シュラーク。あんな下半身に頭があるようなのに引っ付いて恥ずかしくないの?」
「ハハハ。何を言うか。貴様らも同じだろぅ? 勇者は色欲と物欲、承認欲求を満たしてやれば簡単に操れる。利用しているのは妾だ」
「あら、私には馬鹿でスケベな男にお尻を振ってる娼婦にしか見えないけど。だからお似合いよ、その半裸の衣装」
「フン。下等生物なだけあって礼儀を知らんようだな。だが許す。勇者をいたぶれるのだからなぁ!」
鎌を振り上げ飛び掛かる。何度も何度も振るう凶刃を刀で切り払いながら後ずさる。
一撃が重い。幸い由紀に追加された猫のバイオメダルは身体能力に特化している。変身していなければ危なかった。
それに力に頼らず真面目に訓練を受けてきたからだろう、由紀はシュラークの猛攻を捌ききった。
「……ちぃ」
校舎の方をちらりと見る。風に乗って聞こえる騒音、学校の周囲の叫び。魔物の群れを振り切り校内に侵入したヒーロー達も必死に戦っている。彼らの決死の活躍を無下にはできない。
頭から真っ二つにしようと振り下ろされた刃を氷の盾で受け止める。
「どうした勇者。妾に跪くか?」
「お断りよ。どっちにしろ私を放置する気は無いんでしょ」
「当たり前だ。男なら操るのは容易いが、女は妾の美貌も無意味だからな。半殺しと言われているが、貴様は完全に殺しアンデッドとして妾の僕にしてやろう」
「絶対に嫌だっての!」
押し退けるもヒラリと空に飛び上がる。そして鎌を掲げると空中に無数の魔法陣が展開される。
「さあさあ逃げ惑え!」
そこから光の矢が一斉に放たれ由紀を襲う。眼前を埋め尽くす破壊の光。誰もが絶望視する光景だ。
だが由紀は勇者だ。このくらいで諦めたりはしない。
「邪魔だ!」
刀から吹き出した炎で凪払う。炎は巨大な剣となり、触れる光の矢を一瞬で燃やし尽くした。
「……ふむ、流石は勇者だな。こうも簡単に迎撃するとは。全く、人間も厄介な化け物を造ったものだ。精霊と人間を混ぜるなぞ狂気の沙汰よ」
「その狂気に頼っているのはあんたでしょ」
苦々しそうにシュラークを見上げる。由紀は本気を出せていない。下手に追い詰めれば人質に危害が及ぶ。
(お姉ちゃんと八ツ木さんでどうにかなるかな。いや、あの馬鹿なら付け入る隙はある。それまで耐えないと)
かなり分の悪い賭けだ。そもそもヒーローが勇者に勝てるはずがない。それでも隙をつき人質を解放すれば本気を出せる。
ただただ耐えるだけ。そう思っていた。
「よし、魔物は殲滅した。行くぞ! 校内の魔物から生徒達を救出するんだ!」
男性の声が聞こえる。見るとスケルトン達を蹴散らし三人のヒーローが校庭に現れた。
普通なら援軍と喜んでいただろう。だが今は状況が違う。上位の魔物を超える脅威がここにいるのだ。
「ヒーローどもか。妾の軍を乗り越えたのは褒めてやろう。だが!」
「ダメ、来ないで!」
由紀の声はヒーロー達には届かない。シュラークが鎌を振ると、全長五メートルはある光の刃がブーメランのように回転しヒーロー達に投げつけられる。
由紀も迎撃しようと刀を振り上げるも、一歩遅かった。
「あ……」
光の刃はヒーロー達に直撃し炸裂した。校庭の土を吹き飛ばす爆発を巻き起こし、ヒーロー達の姿を跡形も無く消滅させる。
いや、彼らの形跡はあった。爆煙が風に流された場所に、さっきまで人の形をしていた破片が散らばっていたのだ。
「脆いなヒーローとは。成る程、勇者の紛い物とはよく言ったものよ」
高笑いをするシュラーク。命を奪った罪悪感も感じさせない邪悪な笑顔。虫を潰した程度にしか思っていないだろう。
人間と魔人、それが決して相容れない存在だと由紀は改めて理解した。
魔王のレベルは70~80くらいです




