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42:セイギノミカタ

 バイクを停め真理と善継が降りる。ちょうど春人達を挟むように由紀と向かい合うように立ち身構えた。

 春人の隣にいる女が魔人なのは一目瞭然。それ所か魔物の姿もある。常識的に考えれば勝ち目の無い戦いだ。しかしこちらには勇者もいる。それも並大抵の勇者を超える力を持つ勇者がだ。勝つ見込みは充分にある。

 善継の声は聞こえていないのか、春人は焦り後ずさる。


「聞いているのか堤春人。勇者法によりお前には粛清指令が出ている。覚悟はできてるんだろうな。魔人と手を組み人間の敵になるとは、見下げ果てたぞ」


「……うるせぇなおっさん。誰に向かって言ってんだ」


 強気に振る舞うも声が僅かに震えている。それもそうだ。彼は由紀と争うのを避けている。ただ力を持つだけの自分と違い、ヒーローと共に活動をしている由紀とでは根本的な力量が違う。

 その恐れを善継も察している。


「お前に言っているんだ。知ってるはずだ。粛清対象となった勇者は人間とは扱われない。危険な害獣として駆除される」


「…………」


 何とかしようと顔を青ざめる春人と違い、シュラークは冷静だ。善継の目には春人の狼狽を楽しんでいるようにも見える。


「クッ……そうだ、由紀! お前新城達をどうしたんだ。はっ! どうせ見捨てたんだろ」


「あんたと一緒にしないで。魔人も潰して助けてるっての。まぁあの後逃げたかは知らないけど」


 言葉に詰まる春人の肩にシュラークは手を添える。その様子に善継も首を傾げた。


「落ち着けダーリン。問題なのはあの赤と青の勇者だけだ。ヒーローは妾の敵ではない」


「魔人にしては妙だな。あんたらは人間は下等生物だって見下してなかったか? スウェンって魔人も俺達を馬鹿にしていたが」


 スウェンの名にシュラークの目付きが変わる。


「まさか、貴様がスウェンを破ったヒーローか」


「……知り合いって事か。はっ、なんとなくだがわかったぞ。あんたが魔王シュラークか」


 嫌な予感がする。ピースがはまるような感覚。先日の事件と線が伸び繋がりそうになる。


「……いかにも。妾こそ魔王シュラーク。歓喜し頭を垂れよ人間」


 背筋に悪寒が走る。勇者は脅威だ。圧倒的な力を持つ絶対強者。だが彼女はそれと違う、もっと原始的な怖ろしさを感じる。

 魔人の中の最上位の存在魔王。異世界の住人がその対処の為だけに勇者を呼ぶような存在だ。只者ではないのは考えるまでもない。

 そして善継だけでなく真理も確信する。先日のロックドラゴンの事件、これも春人が関わっていると。


「おい……」


「心配するなダーリン。ヒーローのような人間なぞ最初から信用しておらん。対策もしてあるわ」


 彼女が余裕な理由はわからなかった。しかしその答えはすぐに判明する。

 一体のオークが両手に一人ずつ、二人の男子生徒を連れて来たのだ。


「ダーリンは男は全員殺せって言っていたが、残しておいたのさ」


「……は…………ハハハ。流石シュラーク。俺の真意を読み解くとはな。そうだ、それが正しい。全員殺すのは愚策だからな」


「…………」


 シュラークの目が一瞬凍る。しかしすぐに笑顔へ切り替え春人に抱きつく。


「当たり前だ。ダーリンの事はわかってるからな」


「そうさ、それに……はっ!」


 春人の手から放たれた火球が由紀の氷柱を相殺する。


「悪いな由紀、手を出すなよ」


「…………何が真意よ。あんた行き当たりばったりで何も考えてないくせに」


「フッ、俺の知能を理解できてないなんて、異世界の連中と変わらないな。上っ面しか見ていない。そうだ、俺の真の力を見せてやる」


 手をかざすと魔法陣が手の平に広がる。


「料理人は調理器具を使いこなすから土魔法が使える」


 光を粘土のようにこね、魔法で作られたのは浴槽程のサイズもある鍋だ。オークは鍋の中に男子生徒を投げ入れる。


「美味い料理には良い水が必要。だから水魔法が使える」


 続けて魔法陣から大量の水を放出し、鍋の中を満たしていく。


「そして料理には火も必要だ。だから炎魔法も使える」


 最後に鍋の底に火を点け中の生徒達を()()()()()()

 鍋の水はどんどん高温になり、次第に二人の悲鳴が大きくなっていく。


「堤! 何をしている、彼らを解放しろ!」


「安心しろ。まだ死ぬような温度じゃない。ちょっと熱い温泉くらいさ。ただ……どうなるかは俺の機嫌次第だな」


「相変わらずのクソだな」


 非人道的な物言いに真里の舌打ちをする。善継も真里も迂闊に動けない。

 由紀もどうにか隙を見つけ鍋を破壊しようとするが、中の生徒に傷をつけず鍋だけを壊す威力となるとシュラークにも簡単に遮られてしまうだろう。


「さてと。シュラーク、計画変更だ。俺の観客を魔物に守らせろ。ヒーローと言う邪魔者からな」


「……良いのか? ここが手薄になるぞ」


「問題無い。君が由紀を校庭で半殺しにするんだ。そして後は予定通り俺がシュラークを撃退し……って寸法だ。なぁに、証拠はいくらでも潰せる。俺には魅了の料理もあるんだからな」


「よかろう」


 シュラークの手に紫の光が集まると身の丈を超える大鎌へと変化した。


「勇者を嬲れるだなんて滅多にない機会だ。フフフ……最高ではないか!」


 由紀に飛び掛かり鎌を振るう。当然由紀は刀を交差させ防ぐが、湾曲した刃を引っ掛け校庭の方へと引っ張る。


「なっ!?」


 由紀と大差ない細腕ながら、圧倒的な腕力に引きずられ屋上から二人は姿を消した。


「由紀!」


「待つんだ真理。大丈夫、彼女は強いからどうにかなる。それよりも……」


 もっと大きな問題がある。自尊心と高慢さの塊に核兵器を持たせたような存在。


「さてさて。お前らヒーローなら…………そうだな、本気出してもいいぞ」


 刀と見間違えそうな包丁を突き付け、自信満々に笑う春人がいるからだ。

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