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41:闇の者達

 人間よりも強靭な生命体である魔物、魔人。それらが一斉に自分に頭を下げる。言葉としては優越感に心を踊らせる者もいるだろう。自分があらゆる存在を超越した強者だと言われているようだ。

 ただ一人、アマニダだけは顔を青ざめ異様な光景に目が点になる。

 本来敵対している存在が跪いている。それがどれだけ異常な事か彼女も知っている。


 魔人を配下にするなんて流石ご主人様、素敵!


 だなんて事を言っておだてるのが勇者の扱い方だ。だが、今はそんな称賛の言葉すら彼女の口から出ない程困惑していた。

 更に獣人である彼女の鼻は魔物達から感じる明確な敵意を察知している。頭を下げているのはただのポーズだ。


「…………」


 怯える彼女の肩に春人はそっと手を置く。


「だから心配するな。魔王は俺の女だからね。なぁシュラーク」


「勿論だダーリン。それとはじめましてだなアマニダ。妾は魔王シュラーク。そなたが第一夫人なら、妾は第二夫人だな。なぁに同じ男を愛する者同士、仲良くしようではないか」


「…………ええ、よろしく」


 ひきつったような笑顔で彼女達は握手する。酷く冷たい手だ。


「さてアマニダはちょっと待っててくれ。これから俺の英雄譚について打ち合わせがあるからな。行こう」


 アマニダを置き去りに二人は屋上の隅の方へと歩く。

 魔物達からも離れると、春人はシュラークの腕を乱暴に掴む。


「どうしたダーリン。妾と戦うのはもう少し後だろ?」


「ああその予定だ。だけど聞きたい事がある」


 春人の手にはいつの間にか包丁が握られていた。


「お前、俺の事を愛してるんだよな?」


「当たり前だ。魔人にとって雄の価値は力だ。お前に惚れぬ者なぞいない」


「ならさっきの話は何だ? 俺を利用していると聞こえたんだが」


 先程の会話、全てでなくとも聞こえていたようだ。なのにシュラークは顔色一つ変えない。まるで予想していたのかのように。


「ああすまんな。妾も部下の手前、ある程度は見栄をはらねばならないのだ。春人が強いとはいえ人間だ。快く思わない者もいる」


「そいつらに見栄をはってどうする。殺せば良いだろ」


「春人……我が運命の夫よ。力だけでは上には立てぬ。そなたには悪いと思っておるが、下の者の心を掴むのも王の手腕。恐怖だけでは支配者にはなれぬぞ」


 春人に胸を押し当てるように抱きつき、頬に手を添える。


「安心しろ。そなたを不満に思う者は使い潰す。そなたが真の王になる日までにはな」


「…………本当なんだな?」


「妾が嘘をついた事があるか?」


「なら……」


 頬に添えられた手を振り払う。彼の目はシュラークの豊満な肉体を舐めるように見ていた。


「今すぐ脱いで俺に奉仕しろ。できるだろ?」


 だがシュラークはわざとらしく困り顔をする。勿論これも想定内だ。


「青空の下、ってのも乙なものだが……残念ながら状況が悪い。聞こえないか? 周囲で争う音が」


「何だと?」


 春人は急いで学校の周りを見る。そこでは学校を封鎖しているオークやスケルトンと戦うヒーロー達の姿があった。


「馬鹿な。スターカウントの連中には邪魔を近づけさせないよう命令していたはずだ」


「ふむ。しかしそこのヒーローは弱いのだろ? なら負けて通してしまったのではないか?」


「使えない連中め。まあいい。観客は集めているだろうな」


「下にな。そなたの側室に相応しい見目麗しい娘を揃えておる。まあ、数人しかいないがな」


 春人は不満そうに舌打ちをする。


「ゴミみたいな学校だな。ブスと中古品ばかりとは。ゼロよりましか。よし、撮影班を呼べ。俺が魔王を撃退する姿を世界中に見せるぞ」


 包丁が輝くとより大きな包丁へと変化する。刀のように肩で担ぐと指を鳴らす。するとカメラやマイクを持ったスケルトン達が集まる。


「フフフ。こいつらは単純だから教えるのは楽だったな。スウェンの時みたいに馬鹿な勇者を撮影するのもいいが、やはり俺の勇姿を世界に広めるのが一番だ」


「ほう? スウェンに先行させた時も何かしていたのか?」


「ああ」


 自分のスマホをシュラークに見せる。画面を操作すると善継が見ていたあの動画が再生される。


「他の勇者がお嬢様達にカッコつけようと待ち構え……失敗しアホヅラを晒している姿をな。本当は俺がギリギリの場所でやろうかと思っていたが、由紀に先を越された。どっちにしろ他の勇者を落とす事には成功しているがな」


「おやおや。流石は妾の夫、策士よのぅ。だが……」


 シュラークは何かに気付き春人を引っ張る。すると彼がいた場所を炎の渦が吹き飛ばした。


「なっ?」


 黒焦げになったオークが炎の渦から捨てられ、春人の足元に落ちると塵となって消えていく。

 炎が消えると開いた穴から赤と青のコスチュームに身を包む魔法少女が飛び出す。


「由紀……。人質を見捨てたか」


「ごきげんよう堤君。悪いけど魔人一匹で止められると思ったら大間違いよ。それに」


 何かが近づいてくる音が聞こえる。エンジンだ。バイクの走る音が来る。


「由紀!」


 空に飛び出したのは黒い翼。けたたましいエンジン音を鳴らせ緑色のバイクが屋上に着地する。


「魔法少女戦隊オルタナティブだ。勇者堤春人、お前に粛清許可が下りた。速やかに投降しろ!」


 善継の声が響いた。

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