40:魔の目から見た世界
校舎の屋上、そこにいるのは学生達ではなかった。
青白い肌と羊のような角を持つグラマラスな女性。人間と掛け離れた美貌の魔人、魔王シュラークは屋上から周囲を見回す。
「ふむ。あちこちで小競合いが起きているな。が、所詮人間の雑兵。脅威にはならん。それよりも……」
シュラークは自分の隣にいたローブを着た骸骨の方を向く。骨の魔法使い、リッチだ。それだけではない。何体ものスケルトンに鎧で武装したオークもいる。
その中ではリッチが一番地位が高いのだろう。先頭に立ちシュラークにお辞儀をする。
「この学校とやらにいる人間の選定は?」
「順調です。生娘かつ美しい娘は別室に集めております。しかし条件に合う娘は少なく……」
「構わん。奴の餌を用意してやらねばなるまい。なぁに、側室をとでも言えばすぐ食い付くよ……勇者春人はな」
シュラークは笑いながら手すりに寄りかかる。
「予定通り選定に叶わなかった娘はオークの孕み袋にしろ。ああ、肉付きの良い奴はワームの苗床だな。食いごたえがある。男は食ってもかまわん。骨をスケルトンとして復活させろ。人員は好きに使え。チキューでの軍備拡大が優先だ」
「仰せのままに。ですが魔王様、何故生娘を? 美しい人間なら誰でも良いのではありませんか?」
リッチの疑問は尤もだろう。美しい女で囲まれたいと思う男は少なくない。人間ではない彼にも知識としてなら理解している。
そんなリッチの質問をシュラークは馬鹿にするような笑い声で答える。彼に向けてではない、春人に向けてだ。
「ハハハ! 奴は他の男と比べられるのが怖いのだよ。雄として劣っているのを知っているからな」
「ホウ……」
リッチも連られるように笑う。
「なぁに私も肉人形を夜の相手に貸してやってるのだがな。あんな男に妾の顔をした人形が抱かれているのは吐き気がするが、あんなしょぼくれた雄は久しぶりに見た。女の喜ばせ方も知らぬ小僧以下だ」
「なんとも。人間の中でもより下等な男だとは。勇者は力はあれど身も心も醜い者ばかりの噂は本当だったようですね」
「ククク。全く、愚かよのぉ。妾が惚れ込んでいると思ってるとは。利用されているのは奴の方なのに」
「ですがよろしいのですか? 奴の為に負け戦を演じるとは……」
「構わぬ。奴にも餌が必要だし、こちらも戦力を整えなければならない。勇者は何人もいるのだ、そしてヒーローと言う紛い物勇者もな。戦力の増強は優先事項だ。そして」
シュラークは街の方へと視線を移す。地球の街並み、それは今まで見てきたどの都市よりも広大で発展した世界だ。彼女達の出身である異世界には存在しない科学、その力にシュラークも心が奪われる。
こちらに来て手渡されたスマホ。テレビ、車、電車に飛行機。彼女達の常識の外にある科学技術、それは魔人達にも大きな財産となろう。
「バルルが言っていた通りだ。これだけ便利な世界、勇者どもがチキューに帰りたがるのも頷ける。まあ、大半は娯楽目当てだろうがな」
スマホを取り出しおぼつかない動きで操作する。ゲームアプリを起動したが、彼女はその画面を鼻で笑うだけだ。
「人間は快楽に弱い。召還した連中が女しか勇者を引き止める術が無いのは当たり前だ。チキューにはこんなにも娯楽が溢れている。女だけでは飽きてしまうだろう」
「人間とは愚かですね。己を律する事もできないとは」
「フフフ。だからこそ扱い易い。召還しいいように操り、不用となったらチキューに自分から帰るよう仕向ける。なら妾もそれを利用させてもらうまで」
シュラークはわざとらしく自分を抱きしめ、上目遣いで身体をくねらせる。
「魔人は強い者に惚れるの。だからダーリンは妾の理想のタイプ♪ と言うだけで信じるからな。間抜けにも程がある……っと、来たな」
階段を昇る足音が聞こえる。シュラークが手を振るとリッチ達魔物が跪いた。
少し錆びた扉を開き、ニヤついた笑みの春人が入ってきた。




