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3:ヒーローってのはこれだよ

 夜の街。人目の遠ざかる暗い世界で大学生らしき一組のカップルが腕を組みながら歩いている。

 仲睦まじい二人。人気の無い暗い公園に足を踏み入れ談笑している。


「でさ、来週サークルで合コンに誘われてんだよ」


「酷い、私がいるじゃん」


「当たり前さ。断ったに決まってるだろ」


 その時空気が揺れ木陰から光が溢れた。暗がりに隠れ何かが光の渦からはい出る。

 何者かが異世界から地球に転移してきたのだ。


「ん?」


 男性は小枝の折れる音に気付く。暗がりの中、月明かりに照らされ巨大な影が姿を現す。

 暗い緑色の肌、薄汚れた腰巻き。三メートルはある巨体にブタに似た醜悪な風貌。成人男性と同等の大きな棍棒を引きずる悪鬼。

 オークだ。


「嘘……」


「魔物!?」


 二人は驚き後退る。目の前に現れた異界の住人に恐怖心が身体を侵食していく。

 一方オークは二人の姿に舌舐りをする。地球に逃げて運良く人里に来れた。しかも目の前には獲物が二つ。

 知性の低い彼からすれば今後の安寧よりも刹那の快楽。若い肉と女体に歓喜した。


「え、エリ逃げ……」


 男性は恋人を守ろうと前に立つ。オークが女性をどう扱うかは知っている。そんな悲惨な目に彼女を会わせてはいけないと本能が叫ぶ。


「フヒッ」


「ガッ!?」


 オークは彼を嘲笑い蹴り飛ばす。男性は小石のように吹っ飛び地面に転がった。


「タク……嫌!」


 駆け寄ろうとする女性を捕まえた。振り払おうとするも体格と身体能力の差は歴然。身動きすらとれない。


「フヒヒヒヒ」


「嫌……」


 鼻息を荒げ女性の衣服に手を伸ばす。オークにとっては久しぶりの女体だ。楽しませろと下品な笑みが語っていた。

 その時だ。


「ハッ!」


 何者かがオークの目を蹴り抜く。人間よりも遥かに頑丈な身体とはいえ、露出した眼球は違う。

 女性を手放し後ろに倒れた。


「ったく。地球に来て早々女漁りか。風俗巡りをしている馬鹿と同じだな」


 女性を抱える一人の男性。それは善継だった。

 善継は女性を男性の隣に下ろし彼の様子を確認する。


「怪我は? 動けるか?」


「ケホっ……なんとか」


「大方君に見せつけるつもりだったんだろう。相変わらず下品な連中だ」


 男性が大きな怪我をしていないのを確認しオークの方を振り向く。オークも立ち上がり、先程とは違い怒りに鼻息を吹かしていた。


「君、彼女は恋人か?」


「え? あ、はい……」


「なら彼女を守るのは君の仕事だ。俺がやるべき事じゃない」


「ちょ……」


 もしかして立ち去ってしまうのか? そんな嫌な予感に男性は焦る。


「だけど君を守るのは俺の仕事だ」


 善継はスピリットギアを左手に巻く。それを見て男性は察した。善継がヒーローだと。


「お、お願いしますヒーロー。助けてください」


「承った」


 二人に微笑み善継はメダルを弾き握る。


「さてさて。地球に来て早速だが……退場してもらうぞ!」


 メダルをギアにはめる。するとギアから男性の声が鳴り響く。


『Set!』


 善継の頭上に赤い六芒星の魔法陣が描かれ、そこから紅白に色分けされた球体が現れる。

 誰もが一度は見た事があろう。ガチャガチャのカプセルだ。


『Something is coming out! What is it?』


「……ガチャ」


『Pon!』


 レバーを回すとカプセルが口を開き善継を飲み込む。


「!?」


 オークも何が起きているのか理解出来ず驚いている。

 カプセルは小さく痙攣すると粉々に弾け飛ぶ。そして中から異形の戦士が姿を現す。

 銀色の金属質のスーツ。赤い八個の目、ドレッドヘアのように頭から垂れる四本の脚。クモを模した怪人がそこに立っていた。


『I'm a predator』


「ふぅ」


 これが善継のヒーローとしての姿。メタルスパイダーだ。


「さてと、勇者から逃げた先は蜘蛛の巣ってのは御愁傷様だが…………覚悟しろよ」

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― 新着の感想 ―
[一言] この章をありがとう
[気になる点] 『「ったく。地球に来て早々女漁りか。風俗巡りをしている馬鹿と同じだな」』←違うのでは? 例えが分かりづらい。 レ○プ(性犯罪)とお金払って風俗を利用するのは同じではないのでは?
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