53:貴方の気持ち
事務所のパソコンに向かい、半ば虚ろな目でキーボードを叩く男が一人。善継は昨日の会社と警察に提出する報告書、パステルライブプロダクションとのやり取りに忙しかった。
今回の事件は被害も小さく大した事ではない、そう見えるが実態は違う。
「奴隷牧場か。異世界人もくそったれな事を考えるもんだ」
思わず悪態が溢れる。牧場、なんて悪辣な言葉だろうか。地球を、そこに住む地球人を同じ人間と思っていないのだろう。
しかしそんな事は今更だ。ただでさえ勇者を使い捨ての武器程にしか考えてない連中なのだ。同じ人間とは思えない。
だが異世界人が地球にいるなら多少なり話しは変わる。今まで一方的に勇者召喚をされていたが、勇者の奴隷以外の異世界人がいるとなると対話が可能となる。
「話し合いで終わると良いんだがなぁ。まっ、そういうのは専門家に任せますか」
メールを送りSNSを開く。少し調べると何件かお目当ての情報が出てきた。
あのスリットの入った仮面と黒ローブの男達の写真だ。
「奴隷勇者達、動いているのは日本だけじゃないみたいだな。拠点は日本にあるようだが……」
虱潰しに探すのも可能だが、奴隷勇者が跋扈している場所を簡単には攻められない。はっきり言って戦力不足だ。
性能が落ちているとはいえ勇者。並のヒーローでは対応しきれずアームドギアが必要。そんな強さと数が揃った場所に勇者が出向くか。
答えは否だ。あいつらは力を楽しむ事にしか使わない。確実に勝てる、一切の負け要素の無い戦いしかしない。
「……仮に見つけたとして、どうやって攻め入るかだな。フィルシステムで奴隷化を解除しても一時的なもの。そもそも異世界人のやり方に賛同してたら無意味だ」
頭が痛い。奴隷勇者軍団に対抗するには勇者が必要だ。現に異世界人は奴隷勇者の侵攻から身を守るために勇者召喚をしている。
どうにかして奴隷勇者にされた人々を救おうと彼らも必死に戦ってくれた。実際自殺させられたが奴隷勇者を救助した実績がある。
なのに地球の勇者達はなんて体たらくだろうか。無料働きは絶対にやらないと、自身の安全と優越感の感じない仕事はしないと、そんな鋼の意思で動かない。
椅子に寄り掛かり大きくため息をつく。
「アームドギアの配布も視野にいれるか? いや、あれは俺達で実験運用中って事になってるし。そもそも追加でメダルを探すのが難しい。あー、くっそ!」
少しずつ苛立ちが積もる。上手くいかない実情、己の力不足、異世界人への怒り。
そんなストレスが積み重なり胃が痛くなってきた。
「由紀ちゃんに無理させる訳にもいかないし、俺らがアームドギアで挑んでも人数がわからんから危険だ。そもそもあいつら地球で好き勝手やり過ぎだろ」
ネットを見れば友人や恋人が襲われた、仕事中のアイドルや女優が拐われたなんて話しがちらほらと書かれている。それだけでなく、ここ最近の行方不明、失踪事件も彼らが関与していたのかもと噂されている。
一刻も早く潜伏先を見つけなければならない。しかしそんな不審な場所は全く見つからなかった。何せヒントは日本のホテルのみ。奴隷勇者は神出鬼没で何処からともなく現れては消える。もしかしたら片倉雄二のような能力を持つ奴隷勇者がいるのかもしれない。
「くっそー! まじでどうすりゃいいんだよ! 何処に逃げたのかもわからんし、そもそも隠れてるのも無理あるだろ」
一人、二人なら隠れるのも簡単だ。しかしネットで見た限りでは十人以上はいる。そんな大人数でホテルに隠れるなんて可能なのだろうか?
もしかしたらホテル側もグルなのかも。それとも異空間を作れるのか。考えれば考える程頭がパンクしそうになる。
「……ん。善継か」
そうして頭を抱えていた所に真理が顔を出す。普段の彼女と違い少々疲れているようにテンションが低い。
真理も先日の事件に立ち会っていた。彼女も思う所があるのだろうと心配になる。
「おう。悪いな、昨日も休みなのに来てもらって」
「いや、いい。あんな状況じゃあ人手は必要だろ?」
視線が下がり善継から離れる。彼に対し負い目でもあるのか、いつもより距離を感じる。
そしてソワソワしながらよしの方へと振り向いた。
「なあ善継。今回の配信さ、キューティクルナックルの……マネージャーさんと知り合いだから出たんだって?」
「何で知ってんだよ」
「犬飼さんと会った」
善継の心臓が跳ねた。
やましい事はない。しかし何故か胸が痛くなる。息が苦しくなる。
「お見合いしてんだって? けっこー綺麗な人じゃん。隠してたなんて水臭いな」
そう言う真理は茶化しているようで、何処か悲しげに見えた。




