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52:すれ違い、思い違い

 呆然とするしかできなかった。顔にべったりと塗りたくられた血を拭う余裕すら無い。

 手足を塞げばいいなんて簡単な問題ではなかった。身体の内側からなんてどうやって止めればいい? 気絶させても身体が動くなんて理不尽過ぎる。こんな力の使い方なんて想像できるかと叫びたいくらいだ。


「クソっ」


 ああ、己の無力さが忌々しい。あんなに助けを求めていたのに。子供一人見殺しにして何がヒーローか。


「こんなの、ヒーローからすりゃ完全敗北だっての」


 胸が痛い。血の臭いが余計に罪悪感を加速させる。

 陰湿だ。外道と叫びたい。しかし善継にどうにかできる問題ではなかった。力不足なんて彼にとって最悪の言い訳だ。


「善継?」


 不意に聞こえた真理の声。小さな足音と共に物陰から顔を出す。

 彼女は


「っ! 善継、大丈夫か!?」


 慌てて駆け寄ろうとする。確かに今の善継は血塗れだ。怪我をしてると思われても仕方ない。


「返り血だ。それより来ない方が良い」


「え?」


 遅かった。真理が見たのは口から鎖を吐き己の首を絞める男。頭の代わりに骨の剣が生えた少年。人間の無惨な死体が転がっている。

 一緒悲鳴を上げそうになったが、流石にヒーローになりこういった惨状に耐性がついたのだろう。息を飲み堪える。


「善継、これは? まさか」


「ああ。自殺させられた。クソがっ……」


 彼女も奴隷勇者にされた女性が自殺を強要された件を知っている。この状況も主人によるものだろうと察した。


「助けてくれって言われたのにこのザマさ。ヒーロー失格だぜ」


「善継のせいじゃないよ。こんな……身体の内側からなんて対処できない」


「だとしても……納得できねぇっての。人を助ける仕事なのに、仕方ないって諦めて平然としてたら人間としてもお終いだ」


 顔に着いた血を拭う。鼻の奥へと伝う鉄臭さ。慣れてしまった臭いだが、今日は一段と吐き気よ誘発そる。

 何故こんな惨たらしい姿にならなければならないのだろうか。これは人間の死に方ではない。

 手元でワイヤーを編み布……いや、もはやこれは鉄板だ。それを中島に被せ彼を隠す。そしてもう一人は首に巻かれた鎖を解き寝かせる。

 自己満足だがやらないよりマシだろう。


「悪い、ちょっと風に当たってくる」


「ああ……」


 ぐったりと肩を落とし、疲弊したようなふらついた足取りで歩き出す。

 そんな彼の前に人影が現れた。


「善継さん、大丈夫ですか? 怪我……」


 ついさっきも聞いたような台詞。に顔を上げる。そこにはロウバイする茜がいた。


「ああ、これ返り血ですよ。あと向こうに人を行かせないようにしてください。あいつら、自殺させられたんで」


 またか、会う人全てに説明しなければならないと思うと億劫になる。しかし邪険にするのも心が痛い。

 できれば誰にも会いたくない。こんな酷い顔を見られたくない。

 それでも他人は心配する。


「その、善継さん……大丈夫じゃなさそうですよね」


「正直きつい。助けてくれって伸ばされた手が目の前で潰されちゃあね」


 何とも弱々しい姿だろうか。みうみうの姿だから余計にそう見えるのかもしれない。

 確かに少し参っている。精神的なダメージが見えて当然だ。


「善継さん、あの……」


 そんな善継の姿を見て茜は優しく手を取る。温かい。寂しくなると人肌がこうも温かくなるものなのだろうか。

 善継の小さな手を握る力が強くなる。目を閉じ深呼吸をし、善継の方へと真っ直ぐ向き合う。


「今夜、一緒にいれませんか? 今の善継さんを一人にできなくて……」


「茜さん……」


 どういう誘いなのか解らないような歳ではない。彼女がどんな気持ちで言葉を口にしたのか察せない程鈍くない。

 慣れてはいないがこの位で狼狽えるような初心でもない。善継も男だ。人並みに欲もあれば人肌恋しい時もある。


「すみません。貴女に当たりそうで……一人にさせてください」


「……そう、ですか」


 ショックを受けたように視線を落とす。どう応えるのが正解かはわからない。しかし今、彼女に甘えるような気持ちにはなれなかった。

 気まずい空気が流れた所でパトカーのサイレンが聞こえた。


「じゃあ警察に話してくる。ナックルも借りるぞ」


「あ……」


 引き止める間もなく足早に立ち去る。仕事をしてなければ頭がどうにかなってしまいそうだ。今は知った人に顔を見られたくない。

 小さな背中が見えなくなると、茜の背後から足音が聞こえた。


「あの」


 茜はその姿を知っていた。魔女のようなコスチュームに蝙蝠のような翼。


「マリリンさん、ですよね?」


「はい」


「はじめまして。キューティクルナックルのマネージャーをしています、犬飼茜です」


 どこか不安そうな上目使い。それでも真理は踏み出す。


「みうみうの正体、知ってるんですね」


「ええ、偶然」


「…………」


 真理の視線には疑いの色が見える。何者なのか名乗ってはいた。アイドルヒーローのマネージャー、だから今回のコラボ配信も手配できた。

 いや、違う。もっと気になる事がある。


「善継って呼んでましたね。犬飼さん、善継とはどういった関係なんですか?」


 そうだ、彼女は名前で呼んでいた。胸がざわつく。真理だけでなく茜もだ。二人の間に流れる空気が重く纏わりつく。


「お見合い相手です」


「え……」

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