51∶さよなら奴隷
肩で息をしながら心臓を落ち着かせる。勝った。まさか勇者を二人でと驚きが隠せない。
「まじか。冷静に考えるとよく勝てたね」
「どうやら普通の勇者より弱いらしい。あれだ量産型になると弱くなるやつ」
「へぇ。でも私ら普通のヒーローには厳しいわね。これを機にクロスギアに換装しようかなぁ。事務所的には最前線に立ってほしくないみたいだけど」
確かに通常のヒーローでは力負けしてしまう。クロスギアでも難しい相手だ。
「こいつらも自分達が強くないのを理解してんだろ。だから二人がかりで捕まえに来たんだ」
「てか、この男。私見覚えがあるんだけど」
そう言いながらついさっき頭から脳天杭打ちをかました男を足で突く。
男は鼻血を流しながら僅かに痙攣。一応生きてはいるようだ。
「俺もだ。確かニ、三ヶ月前に死刑が確定した奴だっけな」
「そーそー。連続通り魔だったよね。こんなのを勇者にするなんて、異世界人も何考えてるのやら」
「さあな。とりあえずナックルは外に避難したファンに顔を見せてやれよ」
ワイヤーを投げ二人を拘束。手足を縛れば問題ないだろう。
「アイドルなんだろ? こっちは俺がなんとかする」
「……ありがとう。そうさせてもらうね」
そう言いながら腕を組み背を向ける。そのまま歩き出すのではなく、逡巡するように足踏みをする。
「なんか、みうみうちゃんって見た目と違うよね。なんか男性的で歳も私より上っぽく見えるし」
「よく言われるよ」
彼女の勘は当たっている。中身はヒーロー歴十年のアラサー男だ。だが世間に隠している以上話す訳にはいかない。
手を振りナックルを見送ると拘束した二人を見下ろしながらスマホで連絡をとる。
「…………ああ悪い。真理、今大丈夫か?」
『もしもし、八ツ木さんですか?』
電話に出たのは由紀だった。間違えたかと画面を確認するも、通話先は真理のスマホで間違いない。
『実はお姉ちゃんに掴まって飛んでるところなんです。私達もキューティクルナックルさんの配信を見てて、今そっちに向かってるとこでして』
「なるほど。だが今叩きのめしたとこだ。こいつら奴隷勇者で、フィルシステムを使いたい」
『奴隷勇者? お姉ちゃん、八ツ木さんがフィルシステムが必要だって。無事鎮圧したみたい』
『解った。由紀、会社に連絡して運んでもらって。あたしらも善継のとこで合流しよう』
「頼む。その間こいつらは俺が拘束しておく。放っておくと何をされるかわからんからな」
電話を切り一息つく。外ではナックルのファン達の歓声が聞こえてきた。
「いいもんだな……っと」
二人は両手両足を縛られている。この状況では逃げる事も出来まい。
善継は倒れている中島に近寄り頬を叩く。
「おい、意識はあるか?」
「あ、ああ。なんと……ひぃ!?」
中島は何かに怯えている。なんなんだと振り向けば、もう一人の奴隷勇者が苦しみながら痙攣している。
ヤバい。そう思った時には口から吐き出された鎖が首に巻き付き、鈍い音を立てて頚椎を締め潰した。
痙攣が止まるのと同時に消える鎖。一目見て理解できる。死んだと。
「おいおい、嘘だろっ!」
奴隷勇者が自殺させられる事は知っていた。だから縛り上げて手足を拘束すれば大丈夫だと思っていた。だが善継は見誤っていた。今まで見てきたのは戦闘力の持たない奴隷勇者だった事を。
動けなくしただけでは止められない。
「い、嫌だぁ!」
中島の悲鳴に誘われるように、右腕の皮膚を突き破り骨の剣が生え巻かれていたワイヤーを切る。人一人死ぬのに刃物一つあれば充分だ。
彼の意思と関係なく右腕が己の首を跳ね飛ばそうと迫っていく。
「させるか!」
善継の動きは速かった。即座にワイヤーを投げ腕を縛る。自殺させまいと引っ張り腕を引き離そうとする。
それなのに少年の顔色は絶望から諦めへと変色していく。
「あ、あいつら異世界人は地球を勇者牧場にする気なんだ!」
「!」
予想はしていたが、そのあまりにも悪辣さに舌打ちするも、意識は両手に集まる。死なせないと必死に押えるも少しずつ切っ先が皮膚に近づいていく。だからこそ少しでも情報を渡そうとしているのが痛々しい。
「拠点は日本のどっかのホテルだ。そこで拐った女の子は異世界に、二十以上やヒーローは子供を産ませてる。俺達が誘拐してるんだ」
「……解った。だが諦めるな」
「俺なんか……」
「助けを呼んだだろ!」
ハッとし口を閉ざす。
助けてと言った。その一言がヒーローにとってどれだけ大きな意味を持つのか。聞き逃すなんてできない。絶対に手を放すものかと力が入る。
「今地球には一時的だが、奴隷魔法を解除できる装置がある。今こっちに持ってきてもらってる。だから諦めるな!」
「でも俺なんかが……。俺みたいなクズは生きる価値なんか無い。俺のせいで沢山の人が傷ついた。自分が奴隷になってようやく気付いたんだよ」
「なら償え! 高校生だろ。まだ人生をやり直せる」
骨の剣を突きつける腕が鈍る。
「君はちゃんと謝って反省できている。後悔してんだろ。だから諦めるな。ヒーローが必ず助ける!」
「う……ああ。ぐあああああああ!!!」
泣きながら叫んだ。意思に反する身体に抵抗し生きようともがく。ワイヤーから伝わる心に善継も力が入る。
見れば骨の剣が少しずつ短くなっていっている。
「そうだ、頑張れ! もう少しで助けが来る。それまで耐」
善継の声援はそこで止まった。バシャっと水風船が破裂するような音が響き赤い液体が善継の顔にぶちまけられる。
目の前にいた少年の顔が消えワイヤーから力が抜けていく。
本来あるべき頭が消え、代わりと言うように白い木が首から生えていた。あれは骨だ。何本もの骨が首から伸び頭を内側から破裂させたのだ。
「嘘……だろ?」
助ける、そう誓った命は呆気なく消え失せた。目の前で、あまりにも惨たらしい姿で。
奴隷勇者は人間ではない、消耗品だ。そう見せつけるようだった。




