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33:正しい道とは?

 ノートパソコンを一心不乱に叩く人影が一つ。真理が真剣な面持ちで画面にかじりついている。

 彼女の背後には若い男性社員が緊張したように直立していた。そして二人の前にはぐったりとした様子の少女、魔法少女に変身した善継が椅子に座っていた。


「黒井さん、どうですか?」


「悪くないと思いますよ。伯父……社長もオッケー出したんですし、あたしがどうこう言う必要はありません。むしろ……」


 真理は善継の方を見る。疲労困憊、精根尽き果てているようにも見える。


「善継。撮影が忙しかったのはわかるけど、確認くらい自分でやってくれ。そもそもメタルスパイダーとしても撮影やってただろ」


「すまん……ただこの姿だと勝手が違ってな。笑顔振り撒いていたせいか顔面筋肉痛だよ」


「ああ、なるほどな」


 真理も察した。魔法少女や女性ヒーロー、特に顔を出しているヒーローはビジュアルが命。通常のヒーローよりもアイドル的な立ち振舞いを要求される。

 今までフルフェイスで顔を隠していた善継には慣れない事だろう。撮影するなら笑顔を振り撒き可愛いポーズをキメなければならない。真理も苦労したものだ。

 真理のパソコンにも公式サイトやSNSに掲載する魔法少女みうみうの写真が映っている。


「姉妹揃ってこんなのをやってたのか。いや、それ所か顔出しヒーローって凄いわ。俺、十年やってんのに……」


「向き不向きはあるって。じゃあデータは広告担当に渡してください」


「はい、では失礼します」


 男性社員は急ぎ足で立ち去る。その背中が見えなくなるのを確認すると真理はパソコンを閉じる。

 善継も席を立ち真理の方へと近づいた。


「…………で、何だあたしに相談って」


「悪いな」


『お疲れ~♪』


 ギアからメダルを外すとワイヤーが全身を包む。そして金属の糸が消えるとスーツ姿の善継に戻った。

 彼にしては珍しく神妙な顔をしている。いつも歳相応に落ち着いているせいか、真理もこんな顔は殆ど見た事が無い。


「堤春人を止めるにはどうすれば良いかな」


「はぁ?」


 呆れたような声が出る。


「あの力に溺れた厨二病を? 馬鹿を言うな。あいつは手遅れだよ。脳と生殖器が直結した猿みたいなガキだ。自分が漫画の主人公だと思いこんでいる典型的な勇者だ」


「ガキだからこそまだ間に合うだろ。俺と同年代の元引きこもりの勇者を見た事があるが、そいつよりまだマシだ。完全に人格が固まる前にどうにかしてやりたい」


「…………」


 意外、不思議、そんな言葉が真理の顔に浮き出る。しかし彼女からすれば無意味極まりない行為だ。

 真理にとって春人はその辺の勇者と寸分違わぬ存在。身勝手で我欲に満ちた獣だ。そんな獣を律する事なんか不可能だと思っている。


「善継の気持ちはわかったが、あたしに相談してどうする。二十歳そこらの小娘に聞くか? あんたの方が歳上だろ」


「……それもそうなんだがな。若い子がどうすれば立ち直れるのか俺にはわからない」


「わからないか。違うぞ、若い子じゃなくて勇者になる連中の気持ちがわかるかだ。善継に堤春人の気持ちがわかるのか?」


 アマニダの言葉からして根性のねじ曲がった者が召還され易いようだ。真理は善継の人生を全て知ってる訳じゃない。双子の姉がいたのも先日初めて知ったくらいだ。

 だから彼の人生が勇者として呼ばれる者と同等だとは思えない。


「イジメられた事は? 無能と罵られた事は? 挫折や失敗は? 友達は? 彼女は? お前が所謂リア充ならあいつの気持ちは絶対にわからないぞ」


「俺は……」


 善継は自分の半生を思い出す。春人と同じ歳の頃はどんな生活をしていたのだろうか。


「……普通だと思う。イジメられた事も無いしした事もない。友達は人並みにいたが彼女は高校生の頃は…………一回だけいた」


「ほう……」


「挫折や失敗だって何度もあるさ。助けられなかった人もいる。大怪我を負った事だってある。姉さんが殺された時だって…………俺はただのガキだった」


「なるほどわかった。つまりその都度立ち上がり、負けじと努力を続けたと。お前は苦難や逆境に負けなかった訳だ」


 真理の声は暗く重苦しそうだ。呆れているような、失望しているような、残念そうな声だった。そして僅かながら怒気を感じられる。


「善継、やっぱお前じゃ勇者の気持ちは理解できない。お前がどれだけ説得しようと、リア充の上から目線の言葉にしかならないな」

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