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32:怯え

「……誰だおっさん」


 ジロリと睨むも善継は動じない。内心冷や汗ものだが、由紀がいる以上迂闊な行動はしないと読んだ。

 激しく動く心臓を抑えながら善継は春人の前に立つ。


「俺か? 俺はメタルスパイダーだ。知ってるだろ。オルタナティブに所属している」


「ああ、由紀に言い寄ってるおっさんか。いい歳して恥ずかしくないのか? そんなに若い女性に囲まれたいとは……情けない」


「…………よく言われるよ。魔法少女戦隊の邪魔者だってな。だがそれはお前の事じゃないか?」


 由紀とアマニダを順に見る。少女の奴隷を連れているくせに、そう言いたいくらいだ。


「何の事だ?」


「その獣人、奴隷なんだろ? 自分に従順な子を連れ回しながらうちのメンバーにも声をかけて。勇者はハーレム願望のある奴が多いってのは本当なんじゃないか?」


「下らない。そんなんだからスターカウントをクビになるんだ。俺はただ平穏な日常を過ごしたいんだ。大切な、信頼できる人とな」


 そう言いながらアマニダを抱き寄せる。お互いに顔を見合せ微笑んでいるも、アマニダの本心は違うだろう。

 矛盾。彼の言葉に本心は見られない。


「なら何故勇者と公開しスターカウントに入った? お前、たしか料理関係の精霊らしいな。なら普通の学生として生活し、調理師免許取って働けば良いじゃないか」


「それじゃ平穏は訪れない。魔物だってこっちに来るじゃないか。俺は身の回りの平和を守る為に仕方なく戦ってるんだ」


「なら他の勇者やヒーローがやれば問題無いだろ? そっちがでしゃばらなくても人員はいるんだ。先日だってお前が介入せずとも終わっていた」


「…………」


 返す言葉が出ない。事実、春人が何もしなくても由紀や他の勇者がいる。彼が勇者として活動する意味は無い。


「そうよ、ただ暴れてイキリたいだけなんじゃないの」


「だよねー。学校でもカッコつけてるけど寒いし」


「てか奴隷とかダサっ。こうしないと女の子と並んで歩く事もできないんだ」


 由紀のクラスメート達も口々に春人を煽る。ただ由紀の背中から出ようとはしない。彼女達の様子に苦笑いが出そうになるが、言っている事も間違いじゃない。


「あー、お嬢さん方はその辺で。っとまあ君の言動はブレているんだ。わかるかい?」


「う、うるさい! 俺は勇者だぞ! 今まで散々俺を馬鹿にしてきたくせに、勇者になったらネズミみたいに逃げるんだろ。認めろよ。俺が超越した存在になったのが羨ましいんだろ! 最愛のパートナーだっているんだ。お前の言葉もモテない男の僻みにしか聞こえないな」


「…………なるほどな」


 春人の声色に善継は何かを察した。彼は優しく、諭すような口振りに変わる。


「なあ堤君。君は何を恐れているんだ?」


「恐れてる? 最強の勇者である俺が? ハッ! 俺に恐れるものなんか無い。今までコケにしてきた澤山も、カツアゲしてきた新城もみんな俺にビクビクしてんだぜ」


「そうか。なら質問を変えよう。君はなぜ信頼できる彼女を奴隷のままにしているんだ?」


「!!!」


 春人の顔が一気に青ざめる。思わずアマニダの首輪に目がいき、ゴクリと唾を飲んだ。


「最愛のパートナーなんだろ? なら何故彼女の首輪を外さない。聞いてるぞ、奴隷の首輪は主人の魔力で強制力を持つんだってな。そして外せるのも主人だけだって」


「ち、違う……」


「何が違うんだ。答えてやろう。君は怖いんだ、自分が見捨てられる事が、拒絶される事が。そして自分が誰からも好かれない人間だと自覚もしているんだ」


「違う!」


 叫ぶもその声は震えている。


「なら首輪を外せばいい。大切な人なんだろ? 信頼しているんだろ?」


 春人は震えながらアマニダを抱き寄せる。そしてひきつった笑みで語りかける。


「そうさ、この首輪はアマニダが自分の意思で着けてるんだ。俺は外しても良いって言ったんだけど、彼女が着けるのを選んだんだ。そうだろ?」


 アマニダは笑ったままだ。その笑顔は仮面のようにも見える。とても虚しく、見ているこっちが辛くなるような笑みだ。


「そうだよ! 私は自分の意思で首輪を着けてるの。これはご主人様と私の絆の証、身も心も繋げてくれるものなんだから」


「聞いただろ! これが事実だ!」


 誰しもが思っているだろう。これは言わせているんだと。奴隷である彼女に自分の都合の良い言葉を。


「……お前、いつか痛い目に会うぞ。ヒーロー歴も長いからな、お前みたいな勇者が破滅したのを何度も見ている。だが今ならまだ間に合う、やり直せる」


「やり直す必要はない。俺は被害者なんだ、皆が俺を認めないから悪いんだ。今は世界が償う時なんだよ!」


「いや、お前はもう償う側にいる」


「!」


 春人の手に光が集まる。一瞬後に光は刃渡り一メートルはある包丁へと変貌していた。

 だが同じタイミングで由紀も氷の刀を作り出し春人に突き付ける。


「堤君、貴方の負けよ。八ツ木さんの言ってる事は正しい」


「お前……」


「私と本気で戦いたいなら相手になるよ」


「…………」


 春人は包丁を消し舌打ち。アマニダの手を引き善継に背を向ける。


「堤春人!」


 善継の呼ぶ声にも耳を貸さない。だが善継は彼の背に忠告する。


「自分が被害者である事は、加害者になっていい免罪符にはならないぞ」


 この言葉は春人の耳には届いているのか。それは善継にはわからない。立ち去る彼を止める事もできない。

 春人の姿が見えなくなると由紀も刀を消し善継の方に振り向く。


「……八ツ木さん。たぶん無意味だと思いますよ」


「まだ若い。希望はあるさ。俺が見てきたやつよりかはな」


「もしかしてお姉さんを……殺した勇者ですか?」


 姉が出てきた事に善継は驚く。だがすぐに理解した。


「真理から聞いたか。……そうだ。姉さんを殺した勇者は粛清された」


「他の勇者に殺されたんですか?」


「いや」


 善継は自分のバイクの方に歩き出す。


「生きている。本人の望ましい形でな」

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