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28:奴隷の少女

 全員の思考が停止した。何故、どうして、そんな言葉が三人の頭を行き来する。

 彼女は勇者の奴隷。二葉製薬の社員でもない部外者だ。ここにいて良いはずがない。

 最初に意思が戻ったのは善継だ。


「あー、妹さん? ここ、会社だぞ。部外者を入れるのはダメだろ」


「わかってます。ですが……彼女がどうしても話があるとしつこくて。基本的に獣人は身体能力は高いので振り切れませんでした」


「ごめんねー。話し終わったらすーぐ帰るから」


 明るく笑うアマニダの様子に善継は違和感を感じた。昨日はもっと……そうだ、猫なで声だったような気がする。今日の彼女は明るくハキハキとした物言いに聞こえる。


「んで、あの子は? たしかシノビーだっけ? そんな服着てる魔法少女」


 彼女の言っているのは魔法少女となった善継の事だろう。勿論善継が正体だなんて言えやしない。


「あの子はいない。今日は来ないからな。言いたい事があれば俺から伝える」


「あっそう。まあいいや、それなら魔法少女達に言うけど……」


 軽く呼吸を調えるように息を吸う。


「魔法少女達をスターカウントに勧誘しにきたの」


「「「「………………」」」」


 何となくだが想像はしていた。と言うよりもデビューが決まってから何人かの勇者に誘われたり、二葉製薬への入社を要求された事がある。その都度由紀を矢面に立たせ突っぱねてきた。だから春人が自分の為に、魔法少女を()()()()にしようと企むのは想定していたのだ。

 そんな善継達の冷たい視線を余所に酔ったように語り始めた。


「ご主人様に協力すればもっと活躍できるよ。それに最強無敵の料理人であるご主人様が最高の幸せをくれるの」


「ハッ! 協力と言いながら結局それか。あたしは年下に興味無いと言っただろ」


 真っ先に拒絶したのは真理だ。当然由紀も喜んでだなんて言いはしない。


「絶対に嫌。堤君気持ち悪いし」


「まあまあ。少し落ち着きなさい」


 彼女達の前に玄徳が立つ。年長者として間を取り持つような口振りだが目は笑っていない。こちらにも勇者、それもヒーローの力を持つ規格外の存在が身内にいるのだ。勇者からの要求にも強気に出ている。


「さて、君は昨日報告にあったアマニダさんだね? 勇者堤春人君の……」


「ええそうよ。あんたここの偉い人? ならこっちの要求を受けるのが正しいってわかるでしょ?」


 フッと鼻で笑う。玄徳のこんな冷たい表情は初めて見た。勿論、姪として長年付き合いのある真理達もだ。


「お断りします」


 予想通りきっぱりと断った。


「そもそも彼には魔人の件もあります。協力を拒絶したのはそちらからでしょ?」


「…………勇者に喧嘩売るの?」


 そんな玄徳を脅すような言い方。彼女の言う通り、本来勇者に逆らうのは自殺行為に近い。法は勇者から人々を守りはしない、牽制か行動を少し躊躇わせるくらいだろう。勇者を裁けるのは勇者だけだからだ。

 そんな事玄徳も知っている。だからこそ強気なのだ。


「お忘れですか? こっちにも勇者がいるんですよ」


「…………」


「それも私の親族です。勇者同士で争いたいのなら、相応のリスクとなりますよ。それでも構わないのですか?」


 勇者にとって一番の脅威は他の勇者。法を犯せば依頼された勇者に襲われる。それも知っているはずだ。

 アマニダは少し考えるように周囲を見回す。そして()()()()()()泣きながら座り込んだ?


「そんな……。なんでみんなご主人様の事を拒絶するの? ご主人様は目立たずただ平和な暮らしをのぞんでいるだけなのに」


「いや、だったらヒーロー事務所を乗っ取るなよ」


 善継のツッコミも聞かず、泣きながら長々と春人について語り出した。


 何でも彼は召還された国から追放されたようだ。混ざった精霊が料理と戦闘向けではない事が原因らしい。

 その後彼女を偶然買い、実はその国は獣人から奪った土地にある事、国を滅ぼし獣人に土地を返した事、文明の利器を求めて日本に帰還した事を話した。

 ずっと芝居じみた言い方に善継も辟易している。

 そう、何と言えば良いのだろう。「可哀想」「善人」「だから素晴らしい」「だから何をやっても許される」そんな単語が見え隠れしている。

 だからか、話が終わると善継はため息をついた。


「で?」


 善継の声も冷めきっていた。


「だから他の勇者とは違うと? 悪いがやってる事は変わらない。スターカウントを乗っ取ったのを俺は忘れないぞ」


 そうだ。実力のあるヒーローを排除し、女性ヒーローと新米ヒーローのみを残した以上他の勇者と大差ない。自分勝手の塊だ。


「これ以上私達に関わるなら、私も容赦しないよ。堤君に伝えて。次は無いって」


 由紀も怒気を全身から滲ませる。握る右手からは炎が吹き上がっていた。

 誰一人として要求を受け入れない。そんな状況にアマニダは泣くのを即座に止める。


「ですよねー。はいっ、仕事終わり。いやーごめんなさいねー。私一応奴隷の鎖があるから仕事はしないといけないのよ」


 そう言いながら笑い出した。

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