27:姉のもの
翌日の夕方、善継は二葉製薬の会議室に訪れていた。彼の目の前にはパソコンが置かれ、その前で頭を抱えていた。
隣では玄徳が苦笑いをしている。
「しくった……」
苦しそうに絞り出す声。彼の前のパソコン、その画面には一人の少女が映っている。そう、魔法少女姿の善継だ。別名魔法少女みうみう。彼と言うより彼女がゴブリン討伐に参加している動画だった。それも動画投稿サイトにこれがあったのだ。
なぜこんな動画がネットに流れているのか。それは昨日の事だ。
勇者堤春人の介入で魔人を灰にされた後、憤りを感じながら残党の駆除へと向かった。変身し直すのが面倒だった、特に周囲の目を気にする必要がなかった、苛立っていたので少し暴れたかった。そんな気持ちがあったせいか魔法少女のまま戦闘を行っていたのだ。
それがまずかった。何処かに張っていた一般人、それもヒーローや勇者の活動を盗撮し公開する動画投稿者に見られていたのだ。
「いやはや。八ツ木さん、嫌がってた割には頑張ってますね」
「一回自分の意思で使ってしまいましたからね。何だかつっかえが取れたと言うか…………いや、今回だけです。ええ、緊急時以外は使いません。ああ、姉さんごめんなさい……」
ぐったりと項垂れながら頭を掻く。
ネットでの書き込みは遺憾ながら上々だ。真理よりも幼い風貌、くノ一のようなコスチューム。人気は想像以上に出ている。
姉の人気と考えれば嬉しいが、何だか複雑な気持ちだ。
一方玄徳も困ったように善継の後ろから動画を見る。
「しかしまぁ……どうしますかね。会社にもあの魔法少女は誰だと問い合わせが来てまして」
「申し訳ございません。私のミスです」
「いえいえ。効率を考えれば間違いではありませんから。それに魔人に勝つにも必要でしたし。ただ……」
玄徳の声色が少しばかり重々しくなる。
「今後デビュー予定の魔法少女、としてやり過ごしています。緊急時の為に出動したと行政には伝えてまして」
「…………」
「八ツ木さん、どうですか? 魔法少女みうみうとしての活動も、もう一度考えてはみませんか? 勿論極力顔を出さずメタルスパイダーとして活動してかまいません。ですが、兵器でもあるギアの所在と管理を明白化させなければならないので」
「わかります、わかりますよ。……はぁ」
正直嫌だ。だけど自分のミスが原因な上、会社にも少なからず迷惑をかけている。ならば善継がとる選択は一つしかない。
「はい、魔法少女みうみうの登録をします。強力な魔物など、緊急時には変身します。ですが基本的には……」
「ええ、勿論メタルスパイダーとして活動してください。給料も弾みますよ」
表情を一瞬で笑顔に変える。笑ってはいるものの、彼の顔は商人のそれだ。抜け目がない。
玄徳を悪く言うつもりはないが奇妙な気分だった。
「はぁ。姉さんの墓にどんな顔をして行けば良いんだ……」
ため息をつきながら椅子に寄りかかる。どっと全身に怠さがのしかかった。
そんな時、会議室の扉が開く。
「善継…………と伯父さんもか」
真理が入ってきた。彼女は部屋の中を見回し善継の方へと歩いてくる。何処か真剣で思い詰めたような表情だった。
「ちょっといいか? 話がある。伯父さんもいてほしい」
「話?」
大きく頷く。
「善継、お前のメダル……少し調べさせてもらった」
「メダル? それがどうしたんだよ」
「結論から言うと、それはバイオメダルだ」
二人が驚き目を見開いた。
「ま、待て。そんなの聞いてないぞ。俺のメダルは……」
「殉職したヒーローから、だろ? 確かにそうだ。ヒーローが亡くなったり引退した後、別の適合者に渡るのはごく普通の事だ。だけど善継の前は違うだろ?」
「…………」
善継は押し黙る。何か言い難いように視線を反らした。
「真理、どういう事かな?」
「彼の言う事は嘘じゃない。ただ、先代ヒーローと善継の間にもう一人メダルを手にした人物がいたんだ」
「…………まさか」
「ええ、私の姉です」
善継は自分のメダルを取り出す。蜘蛛のレリーフが飾られたメダルを。
「あんたの姉さんも候補だったんだな」
「そうだ。ヒーロー活動を始める前、すぐ適合するメダルが見つかってな。それがこれだ」
「と言う事は、八ツ木さんも同じメダルと適合したと?」
「はい。たまにあるそうですよ、血縁者が同じメダルと適合する事って。私は姉に譲って、別の適合するメダルを探してたんですが……見つかる前に亡くなりました」
メダルを握りしめる。その手は僅かに震えていた。
「勇者に……殺されましてね。ナンパを断ったのが原因で」
「…………なんと」
玄徳も言葉を失う。なんとも身勝手で後味の悪い最期なのだろう。
だがそういった事件は今も起こっている。勇者を裁けるのは勇者だけ。そのせいか我欲にまみれた勇者による犯罪は無くならない。
「血まみれになってね。このメダルは姉の形見でもあるんです」
「それだ。その八ツ木美海の血液をメダルが吸収したんだ。だからクロスギアを使える、善継の姿が彼女になるんだ」
「予想はしてたけど、こう言われると複雑だな」
乾いた笑い声。十年以上も前の事だが、善継にとっては昨日のように鮮明に覚えている。姉の身体から流れる血の色も臭いもこびりついている。
そんな中玄徳だけは不思議そうに首を傾げていた。
「しかし妙だな。バイオメダルは専用に加工する必要があるのに。血液が付着しただけで変異するのか?」
「精霊もまだわからない事がたくさんあるからね。地球の技術では解明していない事なんて山ほど。そもそも魔法なんて非科学的なもんを扱ってるんだ。理解の範疇を超えても不思議じゃな……」
そう言いかけた時、再び扉が開く。
部屋に入ってきたのは不機嫌そうに眉間に皺を寄せる由紀だった。
「……話はまた今度にしよう。由紀、学校は」
「…………」
由紀は口を開かない。そんな彼女を不審に思っていると背後からもう一人部屋に入ってくる。
「はぁい。魔法少女の皆さんこんにちは~」
由紀と同じ学生服でありながら、首には無骨な首輪、犬のような耳と尾を持つ奇妙な少女だ。それは春人に付き従う奴隷、アマニダだった。




