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25:痛くないよ

 勇者の力は絶大だ。由紀にかかれば人間なんて一瞬で消し炭にできる。だからこそアディクショナーを捕らえる事には不向き。いくら凶悪な力を振り回しているとはいえ、現代の法に従い逮捕するのが常識だ。


「あのアディクショナーの耐久力がまだ読めないし、異常なタフさに力加減もわからない。私よりお姉ちゃんや明美が本気で殴った方がちょうど良いんじゃないかな?」


「でも私の攻撃も防がれてしまいましたし……。真理さん、アームドギアは?」


「火力は上がるが危険だ。あたしらじゃ過剰か不足と極端過ぎる」


 生捕りは殺すよりも難易度が高い。今までやれていたのが不思議なくらいだ。

 男は品定めするように三人を順に指差す。


「ゲホッ、ゴホッ。フフフ、魔法少女の氷像か。ガキは論外だし、そこの二人だけでいいかな」


「あ? お姉ちゃんはいらないってどーゆー事よ」


「相手にするな。それより……もっと!」


 飛んで来た氷柱を避け、三人は男を囲むように散る。

 どうしようかと足踏みしている所に、由紀のギアから善継の声が聞こえた。少し離れた場所、倒れたテーブルの影に隠れているのを見つける。


『ユッキー、あいつの片足を折れるか?』


「折る? それ、やり過ぎになりませんか?」


『勘が正しければこれが最適だ。責任は俺がとる』


「…………わかりました」


 氷の刀を床に突き立て手を離す。刀を中心に冷気が広がり、床を凍らせながら俺の方へと駆ける。


「お姉ちゃん、明美! 八ツ木さんに考えがあるみたいだから、私に任せて!」


 冷気は男の足へと伝いまとわりつく。氷の足枷が床と接着させ動きを止めた。


「あん? 足を止めてどうする!」


「こうするの!」


 両手に炎の刀を生み出し柄を合わせる。双刀を振り上げブーメランのように投げると、炎が粘土のようにうごめき刃が赤い猫の手へと変形する。

 男の肩が焦ったように震えた。迎撃しようと指先から氷柱を連射するも、次々と蒸発されていく。


「チィ」


 諦めたような舌打ち。投げた刀は右足の脛に直撃した。床と繋がった氷は砕け、男の身体は一回転し頭から落ちる。

 数秒の沈黙。


「弱い弱い。俺は最強の……」


 そして立ち上がろうと一歩踏み出す。だが……


「あれ?」


 男の足、脛に新しく間接ができたように曲がり膝を着く。足に力が入らない。足が言うことを聞かない。立てない。


「効いてる?」


「うわー痛そう。骨、完全に折れてるじゃないですか」


 折れ曲がった足なんて見ているだけでも痛々しい。だが目を背けている暇はないのだ。


「マリリン、アミ、今だ!」


 善継の声にハッとする。あくまで足を止めただけ。まだこの男は動ける、戦える。無力化はしていない。


「私は腕を止めます!」


「ああ、任せろ!」


 薙刀で床を叩くと伸びた蔦が両腕に絡み付いた。全身の動きが止まった一瞬、真理はギアを叩く。


『チャージ!』


 拳銃を構えもう一度叩く。そして両手でグリップを握り引き金を引いた。


『必殺デストロイ!』


 発射された粘液の弾丸は小さな蝙蝠へと変形、縦横無尽に空を飛び男の腹目掛け風を切る。

 そしてすれ違い様にベルトに刺さったアンプルを掠め取った。黒い液体の入ったビンを咥え蝙蝠は飛ぶ。主の下へと真理の方へと飛び。


「フン」


 拳銃に付いたナイフで一閃。中身の薬とアンプルの破片が床に散らばる。


「薬はもう無い。これ以上暴れても薬切れが早まるだけだ。大人しくしてろ」


「あ……ああ……」


 全身の力が抜けていくのを感じているのだろう。男は力なく項垂れる。

 薬を奪ってもしばらくは怪人の姿のまま。しかし次第に薬の効果が切れ元の姿に戻る。反撃しようと力を使えば薬の効果はより早く切れてしまう。

 腕も塞がり反撃する手立てもない。男は完全に詰みとなったのだ。


「さてと。で、善継。こいつのカラクリは何だったんだ? さっきまで攻撃は通じてなかったのに、足だけは何故か折れてる」


 三人は視線を男に向けたまま。逃がさない。最後に一撃加えようとする可能性もあるからだ。善継も警戒しながら近寄る。


「攻撃が効いてなかったんじゃない。最初から通じていたんだ。ただ……」


 赤いベルトを一瞥する。新しいベルト。そこに追加されたであろう機能に嫌悪の視線を向けた。


「ダメージを認識できてないんだよ」


「……つまり、痛覚が遮断されてるって事か? とんでもない機能を追加してるな」


 真理は頭痛で額を押さえながら項垂れ、呆れたようにため息をつく。


「えっと、つまり痛覚が無いからノーダメージに見えてただけで。由紀さんの攻撃はモロに食らっていたって事ですか?」


「嘘でしょ? じゃあ気づかない内にボコボコにして殺しちゃった可能性もあるの? うわぁ」


 二人も少しばかり焦る。ダメージを受けてないように見えれば、こちらも加減がわからない。知らぬ内に過剰に攻撃し殺めてしまうと思うと冷や汗が流れる。


「まっ、それはこのベルトを調べてからだ。もうじき姿も戻るし、そしたら回収して真理が調べてくれ。あと警察にも引き渡さないとな」


 警察。その単語に男がピクリと反応する。


「警……察?」


 捕まりたくない気持ちを察し吐き気がする。善継も嫌悪感たっぷりのため息が思わず出てしまう。なんて無責任な男だろうか。


「当たり前だろ。幸い死傷者が出ていないが、三人がいなかったら大事になっていた。そもそも殺意を持って勇者ドラッグを使っている」


 殺意マシマシ敵意剥き出し。それ所か止めにきた真理達にも毒牙を向けていた。情状酌量の余地があるとは思えない。


「薬で錯乱しているのは知ってるが、ムショで毒抜きして……」


「警察には捕まらないよ」


 ゾッとするような湿った声。明美がいち速く反応し床を叩く。すると蔦が増え男の両腕をがんじがらめに拘束した。


「自殺なんてさせませんよ。罪には罰を。責任を果たすのが大人ではありませんか?」


「責任? いつもそうだ。誰も俺を認めない優しくしない。それなのに責任だの何だの負担ばかり押し付ける」


 首を小刻みに震えさせ、蔦を引きちぎろうと腕を引く。しかし薬の効果が切れかかっているせいかびくともしない。

 それ所か由紀も男の足に刀を突き付け、凍らせて更に拘束を強める。


「絶対に嫌だね。俺は豚箱なんかには行かない。死んだ方がマシだ」


「そうやって逃げるの? お姉ちゃんみたいに立ち上がらないと好転なんかしないよ」


「いーや、逃げるね。お前らか、外に逃げた連中か、一人でも殺してからな」


 なんとなくだが笑っているような気がした。仮面に隠れた奥で、今着けている仮面と同じような無機質な笑みをしているのかもしれない。

 男は軽く息を吸い、早口で呟く。


「システム起動、コードEFL」


 ヒヒッと下品な笑い声を溢し善継達を見上げた。


「パスワード……エスケープ、フロム、ライフ」


「何を……」


 何かのまじないか暗号か。意味のわからない言葉に首を傾げる。だがその意味を真理は察した。


「まさか……!」


 カシュンと金属が擦れる音、そして男の背後から転がる空のアンプル。笑顔の仮面が剥がれおち、男の顔が露出する。

 上下から突き出た歯に咥えられるように。


「どうせ詰んでいる人生だ。犯罪者として生きるくらいなら、道連れに死んでやる」


 これ以上の言葉を封じるように、口が閉じ歯の隙間から血が吹き出す。

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