26:勇者、堤春人
善継は唖然としていた。目の前にいる少年が阿保らしく、やたらと馴れ馴れしい口調で初対面の人間に話しかける。しかもさっきの一撃、おそらく彼が放ったのだろう火炎魔法に巻き込まれかけたのだ。善継の常識では非常識の一言につきる。
そのせいか善継も冷静さを失い怒鳴り出す。
「こ、小僧! 何をやってるんだ! こっちは巻き込まれかけたんだぞ!」
「ああ悪いな、ちっちゃくて見えなかったよ。でも本気じゃなかったし大丈夫だろ? ハハハ」
笑いながら頭を撫でてくる。
不愉快極まる男だ。いくら今の善継の見た目が幼い少女とはいえ、あまりにも無礼過ぎる。
そしてもう一つ、許せない事があった。
「大丈夫だぁ? お前は何を見ていた! 魔人を、折角の情報源を消し飛ばしやがって。何て事をしてくれたんだ! ああくそっ。魔王が攻めてくるんだ、どんなやつなのかも、戦力も聞き出せてないのに」
「ん? でもあんなの放置している方が危ないだろ。情報だって吐かないだろうし」
「そうそう。それに最強無敵のご主人様がいれば問題無しだよ。情報とかそんなの、ご主人様の前じゃ散芥なのだ」
「無敵って……。ふぅ、俺は平穏に暮らしたいだけなんだが……」
その言い方に善継は引っ掛かる。平穏に生きたい、奴隷の異世界人。このキーワードに聞き覚えがあった。
「っと、君も大丈夫かな? 回復魔法代わりに何か料理を出してやるよ」
「ご主人様の料理は最高だよー」
少年は次に真理の方へと微笑む。しかし真理はイライラしたようにため息をつくだけ。
「遠慮しておくよ、堤春人」
彼女の言葉で善継も気付く。そう、彼が善継達をスターカウントから追い出した張本人、その勇者なのだ。
「あれ? 俺の事知ってんの? やれやれ、あまり目立ちたくないんだがな」
「何が目立ちたくないだ……善継の件とか全部あんたのせいだろ」
小さく聞こえないように悪態をつく。彼も気付いていないのか、ヘラヘラとした態度を崩さない。
正直怒りしか感じないが二人は口を閉ざす。勇者を怒らせててはいけない。もし善継が本来の姿で文句を言ってたら半殺しにされていただろう。勇者に異議を唱えるのなら慎重にいかなければならない。
「俺の料理はポーション以上だ。遠慮せず好きな料理を言いな。子供だしハンバーグとかか? それとも……」
「悪いが年下は守備範囲外でな。餌付けしようとしても無駄だよ」
「は?」
「へ?」
春人だけでなく奴隷の少女も一緒になって驚く。
「あたしは二十歳だ。それに彼女も二十八だぞ」
「嘘だろ……」
真理が二十歳なのを驚くのはよく見ている。更に幼い風貌の善継に目が点になるのも当たり前だ。
勿論嘘は言っていない。確かに善継は二十八。ただ、この姿は違うだけ。訂正すべきなのかもしれないが、春人は二人を少女として扱っている。捕虜を消されたのだ、力で敵わないのだから少しくらいからかっても問題無いだろう。
「は……ははっ。おませさんだな。そんなに大人に見られたいのかい?」
信じてはいないようだ。軽く笑い飛ばしながら真理の頭を撫でようと手を伸ばす。
その瞬間……
「お姉ちゃんに触れるな」
冷たい氷の刃が遮った。
怒りに燃え、氷点下レベルの冷たい目をした由紀がいた。
「由紀か。お姉ちゃんって……まさか本当に二十歳なの?」
「そうだけど。それに堤君、私とはそんな仲じゃないよね? 気安く名前で呼ばないで」
「おいおい、同じ勇者じゃないか。あっ、それと魔法少女のコスチューム似合ってるぜ。ヒーローと違ってガワだけだけど、可愛いよ」
由紀はお世辞にも顔色一つ変えない。返事もせず無表情のままだ。
そんな彼女の様子に奴隷の少女は冷や汗を流しながら後退る。由紀も勇者だからか、彼女を恐れているようだ。
「ったく。それよりもさ、提案なんだけど……俺と組まない? 魔王が来ても簡単だけど、二人で組めば効率が良い」
「おあいにく様。私の相棒はお姉ちゃんだけだから。それに今更来て何のつもり?」
「お嬢様学校でカッコつけられなかった腹いせか? 悪いがこっちも仕事なんだ、理解できない程子供じゃないだろ」
善継の言葉に皆の視線が集まる。善継だけは知っている。彼が他の勇者と同じように学校で待ち構えていた事を。
由紀がいる今なら対等だ。言いたい事も多少は言える。
しかし春人は笑うだけだ。
「何の事かな? 他の勇者が悔しがっていたのは知ってるけど……言い掛かりつけると、可愛い子でも容赦しないぞ?」
「それはこっちの台詞。堤君、邪魔をするなら私も本気で切るよ」
由紀の足元から氷柱が伸び、もう片方の刀から炎が吹き上がる。
流石に由紀の怒気には手を下げる。勇者同士で争うのはリスクしかないからだ。
「……やれやれ、俺の平穏はどこに行ったのやら。アマニダ、帰ろう」
「はーい」
立ち去る二人。その背中に罵声の一つでも言ってやりたい。しかし善継は喉元でぐっと抑える。
抗議をするのは簡単だ。それに魔人の殺害は魔王が攻めてくる今後の大切な情報源。それを消したのは大罪だ。
だが勇者の力に溺れた彼にとって自分が法。どれだけ文句を言おうと無意味。せいぜい事務所にクレームを入れるのが限界だ。
春人達が立ち去り、由紀は刀を下げる。そんな中、真理はげっそりとした表情でため息をつく。
「何だあいつは! あー気持ち悪い。何が可愛いだ。『可愛いなんて言われたの初めて。ポッ』なんて事になるとでも思ってんのか?」
「…………思ってんだろ。俺もいきなり撫でてきたし」
「イライラするな……っと」
話していると真理の方から音楽が聞こえる。彼女のスマホだ。
「メールか。ん? ……すまん、ちょっと離れる」
「お、おう」
真理は走り二人から距離を置く。そして何処かに電話をかけた。
「……黒井です。今メールを確認したのですが、あれは本当ですか? ……はい、はい。成る程、だから……」
一瞬善継の方に目を向ける。彼も本部に報告をしているのだろう、誰かと通信をしている。
ただ真理の目は彼を見ていない。その首にぶら下げられたクロスギアを見ていた。
私の中でのヒーローと勇者の力関係
一般人:Lv1
地球の兵士:Lv10
ヒーロー:Lv20~30
魔法少女:Lv40~50
並の勇者:Lv100




