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18:力をください

 夕方の黒井家、その一角にある真理の部屋。机に向かいノートパソコンにかじりつき、イライラしたように頭を掻きながら隅に置いてあるマグカップを取る。

 すっかり冷めてしまったコーヒーを一口。そしてドン、と当たるように机に叩きつける。


「馬鹿か!? こんな過剰出力じゃギアがブッ壊れるわ! 強度を保持するなら十倍はでかくする必要があるぞ。そんなもん運用できるか!」


『エー。意外とチキューの物質って貧弱だナァ』


 パソコンの画面には二つの目のような穴の開いた白い仮面が映っている。三号だ。彼とオンライン会議をしている。

 話している内容は勿論、新たなヒーローの強化プランについてだ。


『じゃあじゃあ、先週見た昔の特撮ヒーローの動画でやってたアレ。ヒーローと同じアイテムを使うんだけど、相手は消耗品として使う事でより強い力を出せるってヤツ。精霊のエネルギーを徹底的に搾り出して使えばイイんじゃないカナ』


「コストを考えろコストを。いちいちメダルを使い捨てるなんてできやしないし、あんたは仲間の命を使い潰す気か! あー、そういや精霊って群体生物みたいな価値観があるんだっけ?」


『マアネ』


「だとしても精霊の倫理観を持ち出すな。使うのはあたしら人間なんだぞ」


『ウーン。となるとメダル単体で性能を上げる……ノハ、バイオメダルが限界だしナァ』


「そこだよなぁ」


 頭が痛い、話しも何もかもが進まない。こういった押し問答を何日も続けていたのだ。どれだけ頭を使おうとも、アームドギア以上の力を得るには障害が多すぎた。

 ストレスには甘いものだとばかりに、小袋のチョコを口の中に放りこむ。甘い。少しだけイライラが治まっていく。

 だが、三号は真理のストレスを無視するように笑っていた。


『じゃあ、当初の予定通りにメダルを増やすカナ。いっそアームドギアを複数個連結させちゃおウカ』


「んな事してみろ、ヒーローが耐えられんわ。一つでもあたしがぶっ倒れたんだぞ。いくら反動が抑えられたとはいえ、あんなのを二つも三つも同時に使ったら流石に死ぬ」


『そこをどうにかスルのがボクとマリリンの仕事じゃないカ』


「解ってるけど、今の技術じゃこれが限界なのかも。あったま痛いよ」


 背もたれに寄りかかり顔をくしゃくしゃにしながらため息をつく。何か一つ考えるのさえ億劫だ。ただでさえ今の話し合いも業務時間外、謂わばサービス残業に等しい。精霊相手に労務管理やら三六協定やら持ち出すのも不可解だが、今は一休みしたい方が勝っている。

 そろそろお開きにしようかとタイミングを見計らっていると、扉を叩く音が聞こえた。


「っと。今日はここまでにしよう。誰か来た」


『そうダネ。また明日』


 オンライン会議のアプリを切り画面が暗くなる。ふぅ、と疲れたように肩を落とし項垂れた。

 それでも外にいる人を待たせる訳にはいかない。


「どーぞ」


「ごめん、お仕事中かな?」


 入ってきたのは由紀だった。ノートパソコンを閉じ振り向く。


「いや、終わったとこ」


 疲れたようにため息をつき頬杖をついていた。由紀もそんな様子に心配し曇らせる。


「なんか、忙しそうだね。八ツ木さんの穴埋めもあるし」


「まあな。ここ数日魔物もアディクショナーも出てないからいいとして、営業が増えたのは面倒だけど…………一番の問題は、ヒーローの強化プランだ」


「アームドギアじゃダメなの?」


 眉間にシワを寄せながら真理は頷く。由紀から見ても難航しているのが解るくらいに、真理の心労が全身から滲み出ていた。


「三号の要求は魔王と戦えるレベルだからなぁ」


「確かに、そのくらいなら数を揃えれば勇者にも対抗できそうだね。でも上手くいってなさそう」


「そこなんだよ。人体の制限、ギアの限界、メダルの制約。ヒーローってのはしがらみの多いこった」



 勇者のように倫理観の狂った事はできない。そもそも勇者は人体を直接改造しているようなものだ。ヒーローは違う。勇者のような手段で力を得るなんて断じて許されない。


「って、仕事の話しをしてても仕方ないな。で、何の用? 宿題か?」


「いや、そのー」


 なんだか歯切れが悪い。躊躇するような物言いに疑問符が浮かぶ。


「実はさ、告白されて」


「あーそっちか。なんか、勇者になってから久しぶりだな。前は月に二回は告られていたのに」


 げんなりするように顔をしかめる。この手の話題は苦手だからだ。恋愛とは無縁な人生を送っている真理にとって、たとえ妹の相談であろうと何もできやしない。

 当然由紀に嫌味がないのは解っている。しかし精神を削られるような感覚にテンションが急降下していく。


「胸か? 胸だよなぁ。ああもう、どうしてあたしの身体はお母さんの遺伝子しか仕事しないんだか」


 母親似と言われれば褒め言葉だろう。しかし七年前から一切成長せず、妹にも全てにおいて小さいのは流石に心苦しい。


「って事は、お父さんみたいな人がお姉ちゃんにはお似合いって事だよね」


 一瞬目が点になる。まさか、あの由紀からと耳を疑った。以前なら「お姉ちゃんに近づく男はみんなロリコンの変態だ」なんて言っていただろう。驚きつつも嬉しい変化だ。


「由紀……変わったな」


「うん。鶴美さんのおかげかな。あ、あと青山さんにも小言言われちゃったし。年上の話って聞くもんだね」


 アハハと苦笑いをしている姿にホッとする。

 勇者になってから過激になっていたが、こうして落ち着いているのを見ると嬉しくなる。彼女もまた成長しているのだ。


「っと、話しが逸れちゃったな。告白されたって、何か問題でもあったの? 断るのも簡単だろ」


 そう言いながら再びコーヒーを一口。そして……


「いやー。それが生徒会長からでさ」


「ブフッ!?」


 飲みこもうとしたコーヒーは勢いよく吹き出してしまった。

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