16:学校でも一騒ぎ
授業と授業の合間、赤いチェック柄の学生服を来た少女達がざわつきながら行き交う。その中の一人、明美は次の授業の準備をしながら時計を見る。
(もう実験終わったのかな。上手くいってるといいんだけど)
明美は奴隷解放実験には不参加だ。いたとしてもやる事も無いし、今魔物が出現した場合対応できるのは自身だけ。通学という待機状態な事に不満は無い。
思考を切り替えているとクラスメート達が話し掛けてくる。
「ねえ柳原さん、これって柳原さんのとこのだよね? 今ネットで騒がれているよ」
「騒ぎ? え、何があったの?」
ふと嫌な予感がした。トラブルを呼ぶとしたら由紀がやらかしたか、彼女と契約した奴隷勇者だろうか。特に後者は保護の為とはいえ、グラビアアイドルを奴隷にしているのはイメージ悪化になる。
しかし明美の予想とは少しばかり外れていた。
「…………誰?」
見せられたスマホに映っているのは紅白頭の若い男。こんな派手な風貌をしているのだから一般人ではないだろう。
「ドゥドゥっていうネッチューバー。しかも勇者」
「勇者ねぇ。この人がどうしたの?」
「ユッキーが保護してる奴隷勇者いるじゃない? そこの病院に突撃して配信したみたい」
「嘘……」
保護してるのは公開しているが、病院は秘匿されているはず。こんな所にまで涌いてくるなんて気持ち悪い、そう言いそうになる。
「まさか由紀さんのとこに来る人がいるなんて。自殺願望でもあるんだか……。いや、これは」
よくよくSNSの書き込みを確認すると、善継が上手くあしらったようだ。善継こと魔法少女みうみうが尾崎のファンを味方につけ、女の武器をフル活用していた。
「意外とみうみうも可愛いトコあるよねぇ。動画とか見てると俺っ娘みたいで、こういうのもギャップがあって良いなぁ」
(………………八ツ木さん。面白いって思ってごめんなさい)
中身がアラサー男性であるのを知っている明美からすれば、先程のみうみうの言動は痛々しく見える。そして滑稽にもだ。笑った事を内心謝罪していると他のクラスメートも混ざる。
「あーこれね。勇者同士で暴れないかヒヤヒヤしてた人多いみたい。まあ、ドゥドゥがユッキーに喧嘩売るとは思えないけど」
「どういう事?」
「これネットでの噂なんだけどさ。こいつ非戦闘型の勇者って噂されているの」
紅白頭の男を指差す。
「うちもさ、勇者の動画配信者けっこう見るんだけど、勇者ってだいたい自分の力を誇示するような動画を上げるのよ。例えばドラゴンをナメプで倒した~とか、スケルトン百体でTAしてみたとか」
少しだけ見た事があるのを思い出す。
勇者にとって目立ち自己顕示欲を満たすのが基本的な行動。動画配信者ともなれば、巨大な魔物を一撃で粉砕し「あれ? 今の最弱の魔法なのにな」「なんでそんなに驚いてるの? ちょっと手加減しすぎたかな」なんてイキリ散らす。
「でもさ、なんか他のバラエティ系みたいな事ばっかで。たまに魔物狩りの動画出しても弱そうなのだし。絶対ユッキーにビビって逃げたのよ」
「なるほど。勇者の力に強弱もありますし……よく見ると周りの被害を盾にして、ユッキーさんが外と言ったら逃げましたね」
「でしょー? 弱い勇者ってさ、イキってるのに他の勇者にビクビクしてるんでしょ。一番ダサくない?」
話しを聞いていた何人かが笑い出す。彼女達が笑うのも理解はできる。規格外の力を得たと思えばもっと上がいる。そんな連中に怯えながら無力な者には強気。あまりにも情けない。
しかし嘲笑は一瞬でかき消された。
「そうよねぇ。半端者の勇者なんてゴミでしかないもの」
教室に入ってきた人影が呟く。森留美子だ。
「せっかく力を得ても弱いまま。人生一発逆転も中途半端。そんな惨めなままなんて死にたくなるわよねぇ。まあ、私は違うけど」
そばかすだらけの頬を釣り上げ高笑い。寝癖だらけの髪を揺らしながら指を鳴らした。
すると窓の外が一気に暗くなり、何かが一斉に窓に突撃し当たる音が教室中に響く。
「カラス……」
窓を黒く染めたものの正体はカラスだ。無数のカラスが一斉に窓ガラスに押し寄せ外を埋めつくしていたのだ。真っ黒な羽毛とその隙間から覗く無数の目。今にもガラスを突き破りカラスの大群が雪崩れ込もうとしている。
教室中は当然大騒ぎ。中には必死に留美子にすがり付く者もいる。
「どう、ヒーローちゃん。いや、痛い魔法少女って言えば良いな。勇者の力ってのにチビッた?」
どうだと言いたげな高慢で人を見下した瞳。イキる、とはどういう意味か彼女を見れば一目瞭然だった。
「スゴいスゴい。ああ、そういえば森さんに聞きたい事があったのよ」
「聞きたい事?」
怯える周りとの違いに少しばかり不満そうだ。
「ええ。先日の事よ。森さんが出ていった後、魔物が出て私も早退したの。その時森さんはどこにいたの?」
「ああ、あれね。簡単よ。勇者の私はあんたらよりも早く魔物を察知して見に行ったの。勇者が必要か確認しにね。だから……」
ニヤリと下品な微笑みに背筋が冷たくなる。
「あーんたのショボい活躍も見てたわよぉ。チビなみうみうに手柄を取られてたのもバッチリと」
周りに宣伝するように声が大きくなる。明美は役立たず、活躍していないと言いふらしているかのようだ。
「あーんなちっちゃい娘より劣るなんて情けないわねぇ。恥ずかしくないの? ヒーローになってイキっているみたいだけどど、結局お荷物なんじゃない? あんなチビ以下なんて、恥ずかしくて死にたくなるわ」
「…………まさか」
「は?」
煽り小馬鹿にするような言い方だが、明美は全く気にしていなかった。それどころか笑っていたのだ。
「誤解しているようですが、みうみうさんは私より先輩で歳上ですよ」
「え? 嘘」
「みうみうちゃん歳上なの?」
周りからも驚きの声が上がる。確かに見た目だけならみうみうは歳上、それも小学生くらいに見えるだろう。
「それに彼女はチームでは二番目の実力です。私が入る前に勇者を一人植物人間にしてます。……試してみます?」
「…………ふん。あんなののどこが良いんだか」
「?」
捨て台詞のように呟き指を鳴らす。すると窓を被っていたカラス達が飛び去っていく。
「あんた、ノートとっときなさい。あたしは帰るから」
「は、はい……」
帰り際に明美を一睨み、彼女も応えるように睨み返す。
恨みの籠った瞳で。




