15:みうみうちゃん
真理と由紀の顔が凍りつく。場違いな可愛らしい声の主が誰なのか、答えるのを脳が一瞬拒んだ。
「よ、よし?」
真理は陸に上げられた魚のように口をパクパクさせ、由紀は目が点になっている。
二人が驚くのも無理は無い。見た目こそ小学生くらいの少女だが、魔法少女みうみうの中身は善継だ。アラサーの成人男性なのだ。痛い、あまりにも痛々しい。いくらカメラの前とはいえ、真理はおろか由紀でさえこんな声を出した事は無い。
二人が唖然としているのを横目に、善継は手を振りながらカメラ目線。インターネットの先、配信を見ている視聴者達に意識を向けている。
「へぇ、いいねぇ。これなら今日の配信も大バズリだ」
滅多にメディアへ顔を出さないヒーローが出てくる。それだけで話題性も抜群。あとは奴隷勇者を晒し者にすれば……そう企み意気揚々とカメラを向ける。
だがこのような浅はかかつ身勝手な願望が通るはずがない。
「みんな、いつも応援ありがとう! でもね、今日は私だけで我慢してね」
えー
はるなちゃんとコラボはよ
コメントが少しずつざわつき出す。
「いやいや、せっかく地球に帰ってこれたんだからさ。配信者なんだからみんなに元気な姿を見せてあげなきゃ。これは義務だよ」
再びカメラを向けようとするも善継が割り込む。何がなんでも映させはしない、そう笑顔で叫んでいるようだ。
「ダメダメ。ね?」
「あーもう、邪魔しないでよ。勇者相手に喧嘩売るの?」
小さく脅すように囁く。が、善継は引かない。今手を出すのが彼にとっても悪手だからだ。
目を閉じ深呼吸。瞼を開くと笑みを消した。
「今はるなちゃんは苦しんでいます。彼女だけではありません。沢山の人々が異世界に誘拐され、奴隷勇者として非人道的な扱いを受けています。そして奴隷勇者に対抗する為、更に多くの人が勇者召還され家族や友人と引き離されています」
由紀が一瞬顔を伏せる。自分が勇者召還された時の事を思い出したのだ。
「自力で地球に帰っても、戦いの傷で亡くなった人。契約者に自殺を強要された人。奴隷勇者の問題は後を断ちません」
「…………何? 偉そうにお説教?」
「お説教じゃなくてお願い」
するとわざとらしく目を潤ませてカメラににじり寄る。
「今世界中の人達が奴隷にされた人を助けようと必死に頑張ってるの。奴隷魔法を解いて、誰にも支配されないようにしようって。だから、はるなちゃんが元気になるまで待っててほしいの」
すがり懇願するような弱々しい声にコメントも次第に変わっていく。
「それに……みうみうは嫌がる女の子を無理やり引っ張り出して、喜ぶようないじわるより〜」
それを見てかちらりとドゥドゥを一瞥。満面のあざとい笑みとウインクを見せつけた。
「優しいお兄ちゃんお姉ちゃんがだ、い、好、き……ダゾ♪」
なんともわざとらしいブリっ子演技。不快感を抱く者もいれば好意を抱く者もいる。だがそれ以上にドゥドゥの行いを嫌悪する者が多い。
キッツ!だがそれがいい
みうみうちゃんカワイイ!
ウザイ炎上系より美少女ヒーローだよな
はるなちゃんを傷つけるこいつ絶許
「…………こいつら」
ドゥドゥも気付いた。確かに視聴者稼ぎのためにカメラの前に現れた。由紀が手を出すのを防ぐのも理由だ。
だが一番の理由はこれ、女の武器が狙いだった。
効果はてきめん。炎上するような不遜な態度に尾崎の気持ちを蔑ろにするような言動。彼女のファンも騒ぎを聞きつけ配信に集まっている。
由紀も意図を察知しニヤリと笑う。
「SNS見てみたら。あんた、今どうなってるでしょうね」
「うわっ、本当だ」
真理が確認すると驚き笑い出す。
「ちっ」
「速く対応したら? それともまだ居座る? なら、次は私が配信に出てあげようか? 外でちょっと運動したいし」
由紀の手に氷の刀が握られている。半ば脅しているようだが、この場で荒事に対応できるのは彼女のみ。威嚇しながら睨み付ける。
「……覚えてろよ」
そう呟きそそくさと部屋から出ていく。誰も背を追わず、冷ややかな視線を送るだけ。
「覚えてろって、今どきそんな捨て台詞を吐く悪役もいないぞ……」
「アハハ……。取りあえず大事にならなくて良かった。ただ」
ふと黒井姉妹の視線が下がる。そこには頭を抱えうずくまる善継がいた。
「姉さんごめん姉さんごめん姉さんごめん姉さんごめん」
ひたすら姉に謝罪しながら凹む善継。呪詛のような呟きが病室を満たしていく。
そんな姿に真理は思い出したように笑い出した。
「いやはや、しっかし面白いモノが見れたな。意外と演技派と言うか」
「本当だね。尾崎さんから見て八ツ木さん……みうみうちゃんどうでした?」
「あー。一応アリかな。ブリッ子演技で男性リスナーをコントロールするって点では最適解。みうみうちゃんは一番小さいロリ系だから、味方を作る分にはお兄ちゃん呼びは効くね。マリリンさんもやってみたらどうかな」
言葉の刃が突き刺さる。黒歴史を掘り起こされたような気分だ。
「あたしは遠慮しとくよ。それにしてもあんなのよくできたな」
「社長から営業に使えるだろうって、アイドル売りしてるヒーローの配信とか見てたんだよ。恥ずかしくて死にたくなるぞこれ」
茹でダコのように真っ赤になりながらため息。そんな善継に追い討ちをかける者がいた。
『はぁい、魔法少女みうみうでーす♡』
「!?!?」
由紀のスマホから聞こえる痛々しい声に心臓が跳ねる。
「いやー。もしもの為に録画していたけど、面白いの撮れたなぁ。伯父さんにも見せてあげなきゃ」
「け、消してくれ! すぐ! 今!」
「あー、それ消しても無駄だと思いますよ。ドゥドゥの配信で世界中に流れてますから」
「ヴぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
悲痛な雄叫びが病院中に響く。後悔と罪悪感が善継の脳を満たす。姉への謝罪と一緒に。




