25:ヒーローとしての仕事
倒れ青い血を流し続ける魔人。身体の構造ももしかしたら人間に近いかもしれない。このままでは命は無いだろう。ただ魔人も魔物と同じように血は空気に触れるとすぐに黒い塵となって消えていく。
「馬鹿……な。私が、人間ごときに」
「まっ、人間の力だけだとどうなったかはわからんがな。こっちも精霊の力を借りてるのが実態だ。が、負けてやる理由は無いんでね」
倒れているスウェンの横に立ち両手を向ける。右手からは限界まで細くしたワイヤーを、左手からは視認できる太さのを出す。
右手の細いワイヤーを傷口へと向ける。鋭い先端が傷口の周りに刺さり、器用に縫い合わしていく。
「貴様……何を?」
「何って。このままだと失血死するだろ。だから傷口を縫ってんだよ」
「ふざけるな! 人間ごときに助けられるなど……」
「はぁ」
見下していた存在に助けられる。それは魔人からすれば屈辱的な事だ。しかし善継は彼を助ける為に応急措置をしているのではない。
「何か勘違いをしていないか? 俺はお前を助けるつもりは無い。魔王やらの情報を聞き出す前に死なれたら困るから、手当てをしているだけだ」
「ふん。この魔人である私が軽々と吐くとでも? 無駄な事を」
「あー、別に情報引き出すのは俺じゃないよ。勇者にでも頼むさ。運が悪けりゃ拷問好きな奴、良ければ心を読める奴だな。あいつら力を使いたくてウズウズしてるし」
左手のワイヤーで手足を括り雁字搦めにしていく。
「なっ……」
「悪いがお前ら魔人や魔物を保護する法はこっちには無い。拷問とかは……人間同士だと禁じられているがあんたらは別だ。俺を殺した後アンデッドにするつもりだったんだろ? ならこっちもお前らに合わせてやるよ。同格とは認めない、ただの喋る獣としてな」
ワイヤーで編んだ猿ぐつわを噛ませ、更に全身をワイヤーで縛り上げる。
怒りに満ちた目。爬虫類のような瞳孔が善継を睨むも彼は気にしない。
本来なら魔物は徹底的に駆除するものだ。しかし彼の言葉が本当なら、今回は戦争になる。人間と魔物、お互い手を取り合えない存在だからこそ容赦も情けも無い。更に人語を介する魔物でしかない魔人も同じ。こちらを見下し明確な意思で侵略を目論むのなら尚更だ。
善継はしっかり拘束したのを確認し真理の方へと急ぐ。
「真理、大丈夫か?」
「ああ、あたしは大丈夫。かすり傷くらいさ。けどまぁ……」
真理はみのむしのようになった魔人を見る。どうにか脱出しようと踠いているが、傷のせいで力が入らないようだ。
「ヒーローってのとはちょっと違うな。拷問云々ってマジ?」
「マジだよ。こっちは慈善事業じゃない。あくまで魔物に対抗する戦力でしかないんだ。英雄ではなく戦士なんだよ。お行儀よくやるだけじゃない」
「そりゃそうだけどね。その格好で言ってたらギャップが酷いぞ」
善継の姿は少女そのもの。小学生くらいの子がそんなシビアな事を言っているのだ。見た目と違い過ぎてわからなくなる。
「あー、これだから変身したくなかったんだがな。姉さんの顔で……」
「だけど勝てたじゃないか。スピリットギアじゃあこうはいかなかっただろ」
「…………だな」
あまり良い気分じゃない。鏡を見る事すら嫌悪感を抱く。この顔は、この姿は姉のものだ。自分が被って良い皮じゃない。
「だけど今回だけだ。あのままだと真理も危なかったからな。俺は……姉さんじゃない」
「善継…………」
言葉が見当たらない。彼の気持ちも真理は理解できる。自分がもし善継の立場だったら、例えば妹の姿形に変わってしまったら。気分の良いものではない。あの姿は彼女のものだからだ。
「取り敢えず真理、妹さんに連絡してすぐに来るように。流石に勇者の力を借りた方が早いし安全だ」
「ああ、わかった」
真理が帽子に触れ由紀と連絡をとる。その間は変身を解かず見張っておこうと振り向いた。
「……中級炎魔法」
気だるそうな声、それに一歩遅れ空気が加熱される。
「え?」
善継も何が起きたのかわからなかった。ただ気付いた時には目の前に赤い光があった。
「っ!」
咄嗟に盾を編み防御体制に。次の瞬間には耳をつんざく爆音が脳を揺さぶった。
「うわっ!?」
身体も軽くなっているせいか、爆風に軽々と吹き飛ばされる。二転三転と身体を転がし、耳鳴りに頭を抱えながら起き上がる。
幸いな事に真理も翼を再形成し防ぎ怪我はなさそうだ。しかし……
「……ちぃ」
魔人が転がっていた場所は木っ端微塵に砕けていた。ただ炎だけがそこに残されていた。
一撃で消滅した。それが信じられなかった。
いや、一つだけ可能な人物がいる。
炎の先から一組の男女が姿を現す。
女性、否少女は由紀と同じ学校の制服を着ていた。しかし臀部から覗く灰色の尻尾、頭の上に付いている犬耳のある獣人の少女。由紀には劣るものの凹凸のはっきりした体型に妙に輝いた瞳、首には無骨な銅の首輪が巻いてあった。美少女、隣にいる少年とはあまりにも不釣り合いな獣人の少女だ。
そしてもう一人の少年、彼はぼさついた長い前髪をした中肉中背の地味な雰囲気の少年だった。漫画ならモブと呼ばれるような地味な子、ただ彼も由紀と同じ学校の制服を着ている。
「お前ら大丈夫か? 怪我していない?」
少年はそう言いながら善継へと歩み寄る。そして彼に微笑みながら手を差し伸べた。




