22:魔王軍
スーパーの屋上で、魔人は不思議そうに消えていくロックドラゴンを眺めてた。
彼は目を細めマントが風になびいている。その立ち振舞いは騎士のよう。何処か気品を感じさせるものだ。
「ふむ。流石は勇者の原産地、蛆のように涌いてくるな。しかし、魔王様の指示とはいえこんな雑兵ばかりでもここまでとは」
魔人の男はため息を溢した。
「ヒーローとは脆弱だな。やはり警戒するのは勇者だけか」
彼は戦場をずっと観察していた。魔物達と戦うヒーローを。
男の目にはヒーローは物足りなさを感じていた。何人か手練れはいるが全体的に力不足。そう判断した。
もちろんその評価は正しい。ヒーローだけではどうにもならなかった。
だからこそ魔人の男は薄ら笑いを浮かべていた。
「フハハハ! チキューなぞこの程度か。勇者が娯楽に逃げ出す土地なだけはある」
「そうだな。そういう勇者もいるのは否定しない」
「ん?」
背後から聞こえる男性の声に振り向く。そこに立っていたのは銀色の蜘蛛男、善継だった。
「妙な奴がいたかと思えば……お前魔人だよな? 地球に滅多に来ないレア魔物。十年はヒーローやってるが、実物は初めて見るぞ」
「いかにも。貴様ら人間よりも崇高なる存在である魔人だ。平伏するのなら、痛みを感じずに殺してやるぞ」
「…………なるほどな。噂通りだ」
善継は面倒臭そうに頭を掻く。
「魔物の中で知能とプライドがやたらと進化した連中。人間に負けて逃げるのを嫌がっているせいで、地球にはなかなか来ないってのは本当だったようだな。どうした? 部下を連れて勇者から尻尾巻いて逃げてきたのか?」
「ほう?」
善継の挑発するような言葉に魔人は笑う。ニヤリと小馬鹿にするような目だ。
「私が魔人の誇りすら失ったカスと同類だと? 笑わせるな」
「そうか。なら何の用だ? お前ら魔人は魔物と違ってコミュニケーションがとれる。正面から移住を希望すれば良いだろ。もしくはそっちで勇者を叩きのめせば良い。お陰様でこっちも迷惑してんだ」
「ハッ! 何故人間に頭を下げねばならない。貴様は虫ケラに懇願して生きているのか? 違うだろ」
魔人はマントの中から剣を取り出した。血のような赤い刀身に宝石の散りばめられた鍔。実用性より見栄えを重視した宝剣だ。
善継も身構える。指差に力を込め、いつでもワイヤーを飛ばせるようにした。
「寧ろ貴様ら人間が我らに平伏すべきだろう。全てを捧げさせてくださいと、泣き喜ぶべきなのだ。我が魔王、シュラーク様にな」
「魔王?」
魔王、その単語に善継の背に冷や汗が流れる。
勇者伝いに聞いてはいた。人間達の中でトップをとる王がいるように、魔物達も自分達をまとめ上げる王がいる。それが魔王だ。
魔王達は異世界の各地で人間と争っており、そしてその対策として勇者が呼ばれる。そんな話を聞いた事があった。
その魔王が地球を狙っている。それがどれだけ危険な事か知らない訳じゃない。
さっきのロックドラゴンでさえ子猫扱いになるような脅威が迫っている。
「なるほど、なるほどな。あんたはそのシュラークさんとやらの部下。んで、勇者から逃げてきた魔王が地球を寄越せと? こっちには勇者がごまんといるんだがな」
煽るような余裕綽々といった口振り。嘘は言ってはいない。確かに地球には勇者がいる。この魔人達が異世界に定住した勇者から逃げてきたのなら、この地球は墓穴のはずだ。
「ふん。それはどうかな? こんなのは小手調べにすぎん。だが貴様は我が魔王、シュラーク様を目にする事は無い。死ね」
「っ!」
魔人が剣を振るった。その瞬間空間が歪み何かが善継の方に飛んでくる。
形はわからなかった。しかし確実に何かが、殺意が向かってくるのは理解した。
ワイヤーを編み蜘蛛の巣型の盾を作り防ぐ。
衝撃と共に善継の身体が吹っ飛ばされた。
「うおっ!?」
風だ。ただの風が強力な衝撃波となって襲い掛かってきたのだ。
なんとか受け身を取りすぐに立ち上がる。盾は崩れ新たにワイヤーを伸ばすと、真っ直ぐと魔人の方を見据える。
「ほう、どうやら雑兵ではなさそうだな。貴様、勇者の紛い物であるヒーローなのだろう? それも多少はできる猛者のようだ、戦士として名乗るのを許そう」
「……魔法少女戦隊オルタナティブ司令官、メタルスパイダー」
「メタルスパイダー……覚えておこう。そして光栄に思え。この私、シュラーク軍第三騎士団副団長、スウェン・アメジンが殺す最初のヒーローとなる事を!」
ピリピリとした全身を痺れさせる殺気。魔物退治のようにはいかない。
一瞬真理に渡されたクロスギアが頭を過る。だが善継は首を振りそれを手にしようとしない。
大丈夫、勝てる。魔人は強い。しかしロックドラゴンのように攻撃が通じないサイズじゃない。
そう自分に言い聞かせた。




