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20:蜘蛛の糸

 街の中を善継は歩いていた。変身した彼の周辺はキラキラと輝いている。

 ワイヤーだ。細いワイヤーが善継の周りを漂い日の光を反射しているのだ。

 彼が歩いていると物陰から数匹のゴブリンが顔を覗かせる。善継の背後を忍び足で近づきながら、手にした石斧を振り上げ飛び掛かる。


「!」


 次の瞬間、一筋の光がゴブリンを通過する。空中で一瞬静止したかと思えば、ゴブリンの身体が中心から真っ二つになる。


「…………残念だったな」


 ズルリと左右に分かれた緑色の肉が黒い塵へと消えていく。

 罠だ。ワイヤーを張り巡らせ自分の周囲に罠を設置、接近した魔物を細いワイヤーの刃が襲い掛かる設計となっている。勿論今のギアだからこそ可能な技。しかし鎧で身を固めたオークには通用しないだろう。


「真理は遊撃手として上手く動いてくれている。流石飛行能力持ちだ。後は妹さんがロックドラゴンを潰してくれるのを待つだけか……っと」


 自販機を踏みつけて大柄なオークが善継に気付く。先日戦った個体と違い薄汚れた鎧を着ている。更にオークの手には善継の倍はあろうハルバードを持っていた。


「やたらとリッチなオークだな。……その武具、異世界人から奪ったものじゃない。明らかにお前らの体格に合わせて作ったもんだ」


 オークにこんなまともな武具を作る知識は無い。魔物と敵対している異世界人が作る理由も無い。これはオークの為に作られた武具なのは誰の目にも明白だ。

 いったい誰に、そう問いかけてもオークが答えるはずが無い。ただ今は目の前の敵を倒すだけ。


「試させてもらうぞ、アップデートされたギアの性能を」


「ブモォォォォォォ!」


 オークが吠えハルバードを凪払う。善継は軽々と飛び越え後ろに回り込むと周囲の電柱にワイヤーを飛ばす。

 振り回す凶刃の合間を縫い、オークの足下にもワイヤーを飛ばす。それを引っ張ると両足にワイヤーが引っ掛かかりオークの巨体を宙吊りにした。


「凄いな、前ならこの細さだと千切れてたのに」


 暴れるオーク。しかし彼には細いワイヤーが見えない上、宙吊りになる時に武器を落としてしまった。そうなればただの豚だ。


「じゃあ……とどめだ!」


『Finish!』


 ギアのレバーを回し右足に力を込める。足の裏からワイヤーが広がると蜘蛛の巣の形となる。


「くたばれ!」


 跳躍し蜘蛛の巣を蹴り飛ばす。回転しながら飛ぶそれは巨大なカッターとなりオークに迫る。

 オークも逃げようとするが足から宙吊りにされては動けない。悲鳴を上げる間も無くオークの胴体は真っ二つに切り裂かれた。

 傷口から血が吹き出したかと思えばすぐに黒い塵と化し、上半身は地面に落ちた瞬間に崩れ消えてしまった。


「……このギアでこれねぇ。魔法少女だとどうなるんだか。まぁ、魔物を手早く倒せるなら良しとするか」


 周囲に漂うオークだったモノ。破壊された街。その光景にため息が出る。

 幸い避難がスムーズに行われたおかげで人的被害は少ない。逃げ遅れた犠牲者は時々見かけるも、規模を考えれば小さい方だ。

 それでも心にはモヤモヤした気持ちが引っ掛かる。もう一度深いため息をつくと背後から声を掛けられる。


「先輩じゃないですか?」


 振り向くと一人のヒーローがいた。

 善継を蜘蛛男と呼ぶなら、彼は飛蝗男と言えよう。黄土色の金属製のスーツにとんがった触角、翅をモデルにした半透明のマフラーが特徴的だ。


「飛田か。久しぶりだな」


 スターカウントに所属しているヒーローだ。善継にとっては後輩にあたる。善継の去った後、残ったヒーローの一人である。


「お久しぶりです。ちょっといいっすか?」


「積もる話もあるが今は緊急事態だ。移動しながらでなら」


「うっす」


 二人は街の中を走る。建物の壁には傷が見え、破壊された車が転がっている。魔物はあれから見かけていない。ヒーローに討伐された者もいるが、大部分はロックドラゴンの方だろう。善継達が参戦した後もヒーローは増えていっている。自分の身を守る為、強者に媚びへつらうのが奴らの習性だからだ。

 そんな事を考えながら飛田の話を聞く。


「先輩がいるって事はそっちの勇者も?」


「ああ、今ロックドラゴンの方に向かっている。それよりも飛田が来てるって事はスターカウントのヒーローもいるのか? それにそっちにも勇者がいただろ。まさか高みの見物か?」


「…………」


 飛田が足を止める。


「ん? どうした」


「先輩、ちょっと見てほしいものがあるんです」


 スマホを取り出し善継に見せる。画面にはこの近辺の地図が映されていた。


「ロックドラゴンが現れたのはここ。で、こいつは北上しながら街を破壊しています」


「そうだな。うちの勇者はここ、駅に到達する前に討伐するつもりだ。何やら母のお気に入りのパン屋があるらしくてな」


「それは嬉しいですね。ただ他の勇者や……うちの勇者もいるんですよ、ここに」


 地図にある一点を指差す。駅を通りすぎた先にある広い空間。そこは学校だった。


「学校? 何でここに。まさか通ってる学校か?」


「違います。ここは中高一貫の私立校でしてね。お金持ちのお嬢様の通う」


「おい、まさか……」


 嫌な予感がする。何故ここに集まっているのか、どうしてそこで待ち構えているのか。考えるだけで吐き気がする。


「その金持ちお嬢様にいい格好したいからか? それなら飛田達は踏み台ってとこか。ヒーローが敗北していく中、強い勇者様がってシナリオだな」


 飛田が頷く。


「ふざけやがって……」


 ため息が出る。格好良い所を見せて寄生先を得ようって魂胆だろう。

 だがそう簡単にはいかないだろう。現代の日本に、そんな暴力に魅了されるような者はそうそういない。


「でもまぁ、その企みはうちの勇者様が潰してくれるだろ。お前も周囲の掃討に向かえ。あとドラゴンには近づくな。巻き込まれるぞ」


「うっす。じゃあ先輩も頑張ってください」


 飛田は大きく跳躍し電柱の上に着地。そこから電柱の上を跳びながら街の中へと消えていった。


「さてと、本部から周囲の警戒を出してもらわないと。多少加減をしているとはいえ、あの図体を潰すならそれなりの大技が必要だ。巻き込まれないよう……」


 その時由紀から連絡が入った。

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