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17:デビュー戦

 街の中に一人の怪人が立っていた。銀色のコートに節足動物の脚のような頭髪。メタルスパイダー、善継が変身した姿だ。

 その隣には心配そうに空を見上げる由紀がいる。彼女の視線の先には魔法陣から現れる魔物の軍団があった。


「……来たか」


 二人の近くに一台のバンが停車する。後方席が開くと真理が降りてきた。


「すまん、おそくなった」


「問題無い。そもそも俺達が偶然外にいただけだからな。それより……」


 チラリとバンの方に目を移す。そこから真理以外にも何人かのスタッフが出て来る。彼らは数機のドローンを準備し飛ばし始めた。

 撮影機材だ。おそらく黒井姉妹のデビュー戦を記録するのが目的なのだろう。

 正直良い気分ではなかった。だがヒーローも中身は人間、金がなければ生活なんてできない。慈善で世界を守るなんてのは昔の物語、善意だけで飯は食えないのだ。

 他にも報道陣や企業所属のヒーローの宣伝の為にここにいる者もいる。ショーのように扱われるのは癪だが、否定は善継にはできない。こうやって金を貰って生きていたのだから。


「……とりあえず状況を説明する。二人のスマホに連動するから確認してくれ」


 コートに仕込まれた端末機を操作、二人はスマホを見る。そこにはこの近辺の地図が表示されている。

 中心には大きな赤い点、その回りに無数の小さな点があった。


「確認されたのは大型のロックドラゴンが一体。それと無数のオークにゴブリン、ボーンバードだ。正直かなりヤバい。ドラゴンはヒーローじゃ足止めが限界、他の雑魚も数が多過ぎる。四年ぶりだよ、こんな大規模な魔物の移動は」


「そん時は善継も参戦していたんだっけ」


「かなりきつかったぞ。……話を戻す」


 軽く咳払いをする。


「この規模だ、担当区域云々は無視して多くのヒーローが対処に当たっている。だが……実際焼け石に水、雑魚の対応で手一杯だ」


「…………嫌な予感がするんだが、勇者は何をしてる?」


「今の所姿を見せてない。残念ながらな」


「え?」


 由紀は驚く。


「でも勇者でないと対応できない魔物なんですよね? なら普通は……」


「普通じゃないんだよ。ギャラの交渉中か、面倒臭がっているのか。あとはヒーローが無様に敗れるのを待っているかだな」


「…………」


 由紀は絶句する。

 以前から勇者の素行に関する問題は聞いていた。しかしこんな重大な局面なら人として立ち上がるだろうと思っていた。結果はこれだ。金や自分が目立つ事しか考えていない。


「想定はしていたんだ。悲観する必要は無いさ。寧ろこの為に由紀がいるんだろ? 期待しているぞ」


「……うん」


 真理の言葉に強く、嬉しそうに頷く。

 ただ善継だけは声色が固いままだ。


「二人とも、かなり大掛かりなデビュー戦だ。社長も不本意だと言っていたが、今はそれどころじゃない。妹さんも指示に従ってくれよ。それと、本来は俺は後ろにいる予定だが今回は緊急事態だ。俺も魔物討伐に出る」


「……はい」


 由紀が頷くと真理は思い出したように肩から下げたポーチの中を漁る。


「そうだ善継。これを渡しておく」


 彼女が取り出したのは金色のコンパクトミラー、クロスギアだ。


「おい、俺は使わんぞ。社長にも言っただろ」


「わかってるさ。ただのお守り、いざという時用だよ」


「…………」


 お守りの意味は善継も察している。彼の使うスピリットギアよりクロスギアの方が性能は上。魔法少女の方がカタログスペックは勝る。今の善継で対処ができない状況に陥った時の保険なのだろう。


「頼む…………。あんたに万が一の事があってほしくないんだ」


 心配そうで真剣な目。彼女がこんな表情をするのを初めて見る。いつも飄々とした言動をする真理が、そう思うと拒絶する言葉が出なくなる。

 そもそもこんな非常時に武器の選り好みをするのも間違いだ。必要であれば使う、不要ならば使わなければ良いだけ。そう、その万が一を起こさなければ良いのだ。


「わかった。預かる」


 受け取ったギアを胸ポケットにしまう。

 姉の姿になってしまう、それがクロスギアを使いたくない一番の理由。だけども使う必要がなければ良い、これに頼らず解決するのが目標だ。


「……さて、本来は二人一組で行動する予定だが今回は違う。真理、お前は空だ。ボーンバードに対処する人手が足りない。飛行能力のあるヒーローは少ないからな」


「任せな。最新式の実力を見せてやるさ」


「妹さん、君はロックドラゴンだ。雑魚掃除をしながら直進し対象の討伐を頼む」


「…………えっと」


 由紀は真理の方を心配そうに見る。真理を一人で行動させる事が不安なのだろう。

 元々真理の補助と由紀の監視の為に二人を一緒に運用する予定だった。しかし現状は違う。あんな巨大な魔物に真理を向かわせる訳にはいかない。それに航空戦力も不足している。二人を分けるのが最適なのだ。

 由紀の心配を真理も察したのだろう。笑いながら由紀の手を取る。


「あたしは大丈夫。それにほら、こいつの進行方向に駅があるだろ? 駅前のパン屋、母さんのお気に入りなんだ。母さんを悲しませたくない……だろ?」


「…………! うん!」


 大きく頷く。やる気が目に見えて変わっている。

 背筋に冷や汗が伝う。家族へのメリット、デメリットが基準となっているのは明白。あまりにも危険だが、それを制御するのが真理の役目だ。


「よし、行くぞ。魔物退治……魔法少女戦隊の出動だ」


「任せな」


 二人はギアを首に下げメダルを取り出す。由紀のは以前見た猫のメダル、真理のは蝙蝠のメダルだ。


『『セット!』』


 メダルを中に入れ表面を叩く。するとギアから魔法陣が展開し大きな影が飛び出す。

 黒いタールのような粘液で作られた蝙蝠、そして炎と氷の二匹の猫だ。


「「トランス!」」


『『ドレスアップ!』』


 蝙蝠は真理を背後から抱きしめるように、猫は由紀を挟むように彼女達を包むと四散する。

 そしてそこには蝙蝠を模したドレスを着た真理が、猫耳と尻尾のあるツートンカラーのドレスを着た由紀がいた。彼女達の手には写真で見たものと違い武器が握られている。

 蝙蝠の翼の形をしたナイフのある二丁拳銃、炎と氷の双刀。


『魔法少女マリリン! ヒャッハー!』


『魔法少女ユッキー! レディーゴー!』



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