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15:勇者と勇者

 数日後の夕方、善継はスクーターを走らせながらあくびをする。配達を終え店に戻る途中だ。

 活動を開始したのは良いものの、ここ最近は平和そのもの。魔物は出現しても管轄外だったり他のヒーローが片付けている状況だ。玄徳としては華々しいデビューを飾らせたいようだが、善継は大きな名声は求めていない。ちょっとした魔物退治で慣れさせれば良いからだ。

 信号が赤になり止まると、後ろの方から若い女性の声が聞こえる。


「最悪だよね。あのクソ陰キャの堤が勇者だなんて」


「あいつ調子こいてるよ。胸とかジロジロ見てさ」


「勇者って殆どがクズじゃない。あいつもどうせ根暗だから勇者になれたのよ」


 どうやら彼女達の勇者が近くにいるようだ。さんざんな言われようだ。

 しかし彼女達を非難する事は出来ない。実際、勇者にろくでなしが多いのが事実だからだ。


「三組のみんな可哀想だよね。目をつけられたら断れないし。私はブスでよかった」


「中には堤に媚びてる子もいるんだよ。ああキモっ」


「勇者ってゴミしかなれないのかな。てか異世界人って頭おかしい奴しか召還しないんじゃない?」


「でもうちのクラスには黒井さんがいるじゃない。ねぇ?」


(黒井?)


 信号が青になり走ろうとした所を止める。

 サイドミラーを見ると見た事のあるブレザー姿の女子高生達。更にその中に見覚えのある少女がいた。

 真理の妹、由紀だ。


「…………あはは」


 苦笑いをする由紀。遠目からも良い気分でないのがわかる。


「謙遜しないでよ。私達は黒井さんはまともな勇者だって知ってるし」


「そうそう、黒井由紀様ってね」


 不機嫌そうに必死に作り笑いを貼り付ける。まるでどす黒いオーラをまとっているかのように苛立ちが目に見えていた。周りの少女達はそれに気付かず、地雷原を平然と歩いている。

 そうしていると由紀は善継に気付いた。


「あっ」


 助かった。そう言いたげに目付きが一変する。


「ごめん、また明日」


「え、ちょ」


 周囲をあしらい由紀は善継の方に駆け寄る。ほんの少しだが嬉しそうな表情だ。善継もスクーターを止めたまま彼女を待つ。


「八ツ木さん」


「やあ妹さん。学校帰りかい?」


「はい…………あの、先日は本当にごめんなさい。ちょっとした悪戯のつもりだったのですが」


 先日の、魔法少女になってしまった時の事だ。彼女も少なからず申し訳なく思っているのだろう。


「気にしてないって。それより良いのかい? 友達ほっぽって」


「…………友達じゃありません。ただのクラスメートです」


 再び不機嫌そうに顔をしかめる。


「私がおとなしいからって利用しようとしているんです。自分達の都合の良いように……勇者の友達だとか言って」


「成る程ね。まっ、取り入ろうとする輩はいるな」


「そもそも私は家族の為に地球に帰ってきたんです。あんな自分勝手な人に利用されるなんてごめんです。私間違ってませんよね? 人には命の価値はまばらです。見ず知らずの人より家族の方が重いのは普通です」


 善継は少し考える。


「なぁ、なら何で社長の案に乗ったんだ? 家族の為なら勇者である事を隠して普通の高校生として過ごせば良いじゃないか」


「……世間を守るのは家族の生活を守る事に繋がるからです。それに伯父さんは大きな会社の社長だし、お給料も沢山出て家計の助けになるので」


「まあ……それも間違いじゃないな」


 笑いながら答えるも善継は内心冷や汗ものだった。彼女は家族が価値観の中心にある。それ以外に価値を見出だしていないようだ。

 確信した。本来開発者である真理が何故ヒーローこと魔法少女になったのか。彼女は由紀の制御装置だったのだ。


(……やっぱり勇者はどこか(タガ)が外れているな。彼女はまだマシな方だが)


 思い出すのは先程の由紀のクラスメートの言葉。異世界人は頭がおかしい奴しか召還しない。それが妙にしっくりくる。

 考えても悪い方向に行くだけだ。話題を切り替える。


「そういえばさっき他に勇者がいるって話が聞こえたんだが」


「ああ、最近隣のクラスに勇者が帰ってきたんです。で、元の学校にまた通学してまして」


「そいつが堤か。もしかして堤春人ってやつか?」


 由紀は驚く。


「どうして知ってるんです……あっ」


 思い出した。善継がどうして魔法少女戦隊に来たのか、真理がスターカウントを辞めたのかを。


「もしかしてスターカウントに入った勇者が堤君なんですか?」


「そうだ。まっ、残っている後輩から聞いただけで直接会った事は無いがな。どんな奴なんだ?」


「そうですね。私も遠目から見たりクラスメートから聞いただけですけど」


 考えながら由紀は話し続ける。


「元々苛められっ子みたいです。あと異世界人、獣人の女の子を連れて来てる。首輪してたから、たぶん奴隷かも」


「たまにいるな、異世界人を連れてくる勇者。大抵は奴隷だけど。……あまり良い気分はしないが」


 善継のため息に由紀も頷く。

 勇者の中には地球に帰還する際に異世界の()()()を持ち帰る者がいる。魔法の武器、宝石等の財宝、そして男性勇者に多いのは自分のハーレム要員だ。特に奴隷は魔法により強制させられているので断れず地球に拉致されているのが現状だ。

 動物のパーツが追加された獣人が多く、善継も時々見かける。

 彼女達からすれば災難だろう。強制的に別世界に連れ去られ帰る手段も存在しないのだ。

 現在も勇者亡き後の遺品、奴隷の扱いに世界が困惑している。


「口癖のように平穏に生きたいって言ってるけど、毎日のようにもめ事起こしてるみたいです」


「そいつ…………っ!」


「あ」


 二人は何かに気付き空を見上げる。その数秒後、善継と由紀のスマホが鳴った。


「はい……メタルスパイダーです。こちらでも確認しました」


 空に描かれた紫色の魔法陣。そこから魔物の大軍が飛来していた。

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