14:双子
「おいおい、誰だよこれ。善継が二人いる?」
「………………」
真理は混乱しながら善継に詰め寄る。一方で玄徳は口を閉ざしたままアルバムを取りページをめくる。他のページにも善継とあの少女が一緒に、もしくは片方ずつ写っている写真がある。
あの少女を善継は知っていたのだ。
「…………八ツ木さん。貴方の魔法少女姿と同じ少女がいますが、彼女を知っているのですよね? 隣にいるのはおそらく貴方だ。もしかしてご兄弟では?」
「あ……」
真理も気付く。確かにこの二人は似ている。女性に変化した善継と言っても過言じゃない。
何よりもこのアルバムは八ツ木家の物。家族が一緒に写っていてもおかしくない。
「彼女は八ツ木美海。俺の、私の双子の姉です」
「双子の姉……」
真理も写真を食い入るように眺める。そこに写っている幼い善継と少女を順に見比べ息を呑む。
嘘を言っているとは思えない。いや、状況から考えて真実だろう。
「つまり善継が魔法少女になりたくないのは姉と同じ姿だから?」
「ああ。それに彼女は亡くなっている」
二人はその一言に口を閉ざす。衝撃的な事実に空気が重くなった。
「十一年前にな。本人から許可も取れない。それに……」
息を整える。善継の目は寂しそうに憂いを帯びていた。
「姉の姿で出歩くのは、彼女の死を冒涜するようでさ。別の顔ならまだしも…………な。クロスギアの性能はこの身で理解している。使う方が有益なのもわかっているが、こればかりは受け入れられない」
「成る程ね」
玄徳は腕を組みため息をつく。
「八ツ木さん、貴方の事情はわかりました」
「申し訳ありません社長。ですが強制と言うのなら契約は破棄させていただきたい。それ程私には……姉の姿をするのは苦しい事なのです」
「いえ、こちらに強制する意思はありません。あくまで提案、依頼です。まぁ……」
ちらりと真理の方を見る。彼女は眉間にシワを寄せ善継の方を見る。
「あー、真理。何か?」
「いや、善継ってもっと論理的な奴かと思ってた。見栄えだとかより現実的な見解をするかなって。あっ、いやでもお姉さんか……」
真理は再び考えるように視線を反らす。
「真理、お前だって嫌だろ。死んだ家族の姿になるのなんて、もう一度会えるとか感動なんか全く無いぜ」
「……すまん」
「気にするな。クロスギアを使う方が強いのは事実だからな」
善継はアルバムを取る。開いたページでは父親と自分、そして姉の三人が店の前にいる写真があった。
彼女が生きていたらどんな顔をしていただろうか。笑っていたのか? それとも怒ったのだろうか? それは誰にもわからない。
「では我々はこの辺で失礼します」
「ああ伯父さん、あたしはもう少し後で。善継、ちょっと話がある」
「? わかった」
善継は玄徳を見送った後、急ぎ足でリビングに戻る。真理は悲しそうな顔で椅子に座っていた。ちょこんと子供のように縮こまったまま。
「で、どうしたんだ真理」
「……なぁ、お前のお姉さん。たしか美海さんだったか。どんな人だったんだ?」
「どう……か」
善継は思い出しながら椅子に座る。
「優しい人だったよ。それに、弟目線でもそれなりに美人だった」
「弟ねぇ。仲良かったの?」
「そうだな。普通の姉弟くらいには仲良かったよ」
「そうだったのか。善継に姉がいたのは知らなかったな」
「聞かれなかったからな」
「……それと話はもう一つ。これだ」
真理は鞄からプラスチックのケースを出しテーブルに置く。開けるとそこには善継のメダルが入っていた。
メダルの方に異常が無いのか調べる為に預かっていたのだ。
善継はメダルを取ると微笑む。
「おう、お帰り相棒」
「お前、前からメダルに話し掛けてるな」
「そりゃ一応中に精霊がいるからな。こんなんでも意思はあるんだろ。俺以外にもメダルに話し掛けるヒーローはいるし。それでメダルはどうだった?」
「………………なあ善継。これ、何処で手に入れた?」
「何処って。国が生成したやつだよ。元々別のヒーローが持っていたもんだけど、その人が亡くなってメダルに適合した候補である俺んとこに渡ったって訳」
「他の候補に引き継がれるのはよくある事だからな。……そうか」
真理は鞄を取り席を立つ。
「メダルに何も問題は無い。はぁ、取り敢えずあたしは帰る」
「ああ、送……」
「いい。じゃあまた明日な」
見送ろうとしたが真理は足早にリビングから出ていく。善継が後を追うも彼女は早々に玄関を後にした。
不機嫌そうに店を背に走る。数メートル程離れた所て真理は振り向く。
古い酒屋。善継が生まれ育った実家。その二階を見つめる。
「……本当にそれだけなのか善継。あんた、何を隠してるんだ?」