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10:魔法少女姉妹

 新しいギアの性能も確認した。次に見るのは何か。

 クロスギアだ。


「そういえば真理、お前達は? こっちも見せたんだから次はそっちだろ」


「うぐっ……」


 相当嫌なのだろう、真理は後退りながら身を強張らせる。


「クロスギアについても知りたいしな。それに今さら恥ずかしがってどうする。これからヒーローとして活動するなら、世界中に見られるんだぞ」


「それはわかっているが、実は今メダルは調整中だ。流石に見せ……」


「ならネットに上げる用の写真があるよ」


 玄徳に視線が集まる。特に真理と由紀の目は驚きと焦りに揺らいでいた。

 余計な事を、そう言っているようにも見える。


「以前宣伝用に撮っていたのがあってね。田村君、端末を」


「あ、はい」


 男性社員がタブレット端末を操作し玄徳に渡す。玄徳も画面を確認すると善継に渡した。

 見たいと言ってはいたものの、どんな顔をして見れば良いかわからない。一歩間違えればただの変態になりかねない。

 息を吸いゆっくりと視線を画面に向ける。


「…………うお」


 そこに映っていたのは仲良さげに手を繋ぎ並ぶ黒井姉妹の姿だ。

 一番目立つのはやはり由紀だった。赤と青のツートンカラーの胸元を大きく空けた露出の多いミニスカートのワンピース。雪の結晶を型どった模様、炎のようなフリル、ベレー帽に猫の耳と尻尾。

 魔法少女と言われれば首を縦に振るが、かなりお色気路線に走っているきわどいデザインだ。


「妹さん十六だよね? 良いのかこれ……」


「あはは……。可愛いんですけど、かなり恥ずかしいです」


 由紀も顔を赤らめる。当たり前だ。誰だってこの格好は恥ずかしい。

 しかし真理はこの服装に肯定的だった。


「いやいや、由紀の服装にはきちんと意味がある。魔物の中には人間、特に女性を利用し繁殖する輩もいる。ゴブリンとかな」


「いたな」


 ヒーローとして長い間活動していた善継も、そういった被害者を目にした事がある。心が抉られるような酷い光景だった。


「こういったセクシー路線のコスチュームは、そういう連中の囮となる意味合いもあるんだ。その自慢のFカップなら馬鹿な魔物はフラフラと引き寄せられ……肉塊になるって寸法さ」


「囮じゃなくてトラップハウスじゃないか。が、その方向性はわからなくないがな。でも社長さんもどうなんですか? 姪がこんなあられもない服装をするのって」


 玄徳も苦笑いが溢れる。


「正直良い気分はしませんね。しかし、真理の言う通り魔物を惹き付ける効果には期待出来るし、ファン獲得にも貢献するだろう。本当はお腹も丸出しだったんですけど、そこは隠させましたよ」


 善継としても目のやり所に困るが、二人の言う事も尤もだ。

 実際露出の高いコスチュームを用いる女性ヒーローは何人もいる。人気取りの為なのもあるが、囮として確かに効果があるのだ。そもそもヒーローが派手な格好をしているのも市民よりも魔物の目に止まるようにする為でもある。

 勇者の力で囮を引き受ければ入れ食いだ。魔物達は一方的に擂り潰されていくだろう。


「恐ろしいな。……で、こっちが真理か」


 やはりと言うか、真理の方が妹にしか見えない構図だ。そんな彼女は由紀と違い露出が少なく黒を基調とした蝙蝠を型どったコスチュームをしている。

 大きな三角帽、蝙蝠の翼のようなスカートにマント。これでカボチャがあればハロウィンの仮装のようだ。魔法少女と言うより魔女っ娘に近い。

 かなり子供らしいコスチューム。それが何の違和感もないのが恐ろしい。


「笑えよ。痛々しいだろ」


 真理は自嘲するように笑う。二十歳の成人女性が魔法少女だ。ただの魔女と言った方が正しいだろう。

 しかし由紀は違う。


「そんな、お姉ちゃん可愛いよ。すっごい似合ってる」


「ありがとう由紀。まあ、良い意味でも悪い意味でも二十歳に見えないからな。で、何か言えよ善継」


 善継は黙ったまま写真を眺めている。彼は笑ってはいない、ただ無表情に見ていた。


「…………いや、俺も似合ってると思うぞ。うん」


「お、おう。そうかな」


「妹さんの言う通り可愛いじゃないか」


「……そうストレートに言われると照れるな」


 顔を赤らめる真理。そんな彼女と交互に善継を恨めしそうに由紀は見ていた。

 そんな時真理のスマホが鳴る。


「すまん、少し離れる」


 電話をしに真理が離れると、善継はタブレットを玄徳に返した。


「確かにこういうのはファンがつきそうですね。俺が混ざったら文句の一つでも出そうだ」


「なぁに、その辺りは我々の仕事です。さて、私も契約書の用意をしよう」


 玄徳はタブレットを操作し始める。そうしてほんの僅かな間だが、善継と由紀が二人きりになる。

 善継としては少し気まずい。こんな若い娘とどう会話をすれば良いかわからないからだ。

 善継が頭を悩ませていると由紀の方から話し掛けてきた。


「そう言えば八ツ木さん、実はクロスギアってバイオメダル専用なんですけど、普通のメダルでも少しだけ使えるんですよ。緊急用にって」


「ほう? まあ元々は同じ精霊を使ってるからな」


「はい。でも精霊の力も殆ど使えません。緊急用の防具を出すくらいです」


「成る程な。って事は俺のメダルでも?」


「できますよ。試してみます?」


 そう言って由紀はコンパクトのような物体、クロスギアを取り出す。


「いや、別に……」


「物は試しですよ」


 断ろうとするも由紀は素早くメダルを抜き取る。その瞬間善継のコスチュームが黒い塵となって霧散し、スーツ姿へと戻る。

 そして由紀はコンパクトを開き中にメダルを入れた。


『セット♪』


 スピリットギアと違い女性の声が流れる。


「どうぞ」


「いや、使い方もわからないって」


「大丈夫ですよ。ほら、首にかけて」


 クロスギアはネックレスにもなっており、善継の首に下げられた。妙な気分だ。こんなアラサーの男には恐ろしく似合わないファンシーなアイテムに、思わず笑ってしまいそうになる。


「……ん? って善継、由紀、何をやって……」


 その時真理が二人の様子に気付く。何か焦っているような声だ。


「トランス」


 由紀が表面の六芒星を叩いた。


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[良い点] この章をありがとう [一言] まさか。。。
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